迷子の周知で戦う事になったとさ
「伏魔殿でお馴染みの闘技大会! 今年も強者が揃いました!」
ヴィーちゃんがここに居る事を知らせる為に闘技大会に参加する事にした。
広場に出来たフィールドの側には強面の人たちが集まっており、誰も彼もが魔王国では有名な強者なのだと登録しに行った受付で教えられた。彼らの実力は身に着ける武器の綺羅びやかさや禍々しさからも伺えた。
そして、そんな中に武器を携帯せずに混じっている俺は完全に浮きまくっていた。そのせいで絡まれること絡まれること。
「兄ちゃん。遊びなら帰りな。ヘマしたら死ぬかもしれないんだぜ」
「そうだぜ。特殊な鎧を着てる訳でも無さそうだしな」
鎧じゃないけど防刃防魔の効果があるコートですね。
並みの剣だと破れる事は無いだろう。尤もそこまで接近されて斬りかかられた事は無いからわからない。
「なんとかなるから大丈夫ですよ」
「なんとかって……」
そんな風に純粋な心配をしてくれる者たちがいれば性格に破綻をきたした者たちも混じっていた。
「良いじゃねぇか? 怯えた表情が楽しみで仕方ないぜ!」
「あぁ、派手に泣き叫んでくれよ?」
「お前たちなぁ……」
「兄ちゃん。目的知らないが俺たちと当たったら降参させてやるから速く言うんだぞ?」
勝ち続けた方が目立つのは確かだが別にそこまで目立つ必要は無いからその時次第で降参も良いかもしれない。
まぁ、それは彼らと当たった時の話である。
しかし、そういう時に限って当たる相手というのは。
「キャハァーーッ!俺の剣に血を吸わせろ!!」
マジ者の人格破綻者なのだ。先程の破綻者たちが可愛く見えるくらいにめちゃくちゃ言ってる。
「おりゃあ!」
彼の振るう剣はノコギリを厚くした様な物だ。
そのことから一種の鈍器と言っても良いだろう。切れ味などは有るはずも無く、触れれば削り裂けるのが目に見えて分かった。
「さて、どうしたものか?」
彼の技量はイマイチで間合いは普通の剣と変わらない事から避け続けるのはそれほど難しくなかった。
しかし、あのギザギザが原因で通常の剣の様な白刃取りからの打撃折りが出来ずにいた。
「おらおら、どうした? 逃げてばかりじゃ時間を消費するだけだぞ」
「確かに砂時計の残りが少ないな」
フィールドの外に設置された砂時計を見ると既に半分すらも残ってはいなかった。
一試合が大体15分と時間を決められていたから残り5分有るか無いかくらいだろう。
「仕方ない。相手の魔力強度が分からなくて止めてたけど……」
俺はこの闘技大会で剣を抜かないつもりでいた。なので、手刀に高密度の魔力を纏わせて刃にする事にした。
これは何時もベルやイナホが杖や銃にしているのを手にしただけの事だ。
ただし、彼女たちと違い魔力が剥がれたら生身の為に怪我をする事になる。
「キェーーッ!」
「ちっとは、人語を話せや!」
俺は対戦者の大振りに合わせて手刀を振り払った。
『なっ!?』
周囲から聞こえる驚愕の声と共に"カンカン"と跳ねる甲高い音が聞こえてきた。音の元凶は何を隠そう対戦者の武器の残骸だった。
「おっ、俺の剣がっ!?」
観客以上に動揺する対戦者はとても無防備なので俺が放っておく気はない。
「せやっ!」
「グフッ!?」
俺の熟練された腹パンを見よ!
腹部を殴ると身体はくの字に折れ曲がってそのまま動かなくなる対戦者。その様子は誰の目から見ても対戦者が戦闘不能な事を示していた。
念の為審判役のスタッフが対戦者を確認して勝利宣言すると周囲は歓声に包まれた。
「ユーリさん。今後戦う皆さんに何か有りますか?」
「選手たちじゃなくて周囲の人には言いたいことなら有りますが……」
「……でしたらこれをお使い下さい。ここを押すと声が拡声されます」
審判役のスタッフに渡されたのはタバコの箱サイズのマジックアイテムだった。
俺はそれを受け取ると選手関係者席に座るヴィーちゃんに目配せした後喋り出した。
「迷子のお知らせで~す。ヴィクトリア・アスモデウスなるお嬢さんを保護してます。知り合いの方は選手関係者席へ来て下さい!」
そういうと周囲の視線が選手関係者席へ向けられた。
そこでは立ち上がったヴィーちゃんが手を振っており、彼女が迷子の子だという事が周囲の人たちにも伝わった。
「最後に1つ。選手の皆さんに忠告です。徒手空拳だからと油断されない様にお願いします。武器が壊れても責任は負いかねますので」
『………』
俺の挑発に殺気立つ選手たち。
でも、一応伝えておかないと後で武器の代金を請求されそうなので周囲の人たちにこれは自己責任だと周知する必要があったのだ。
「以上です。良き戦いを望みます」
言うだけ言ってスタッフに拡声器を渡した。
しかし、そこで肝心な事を言っていなかった事に俺は気付いた。
「あっ、店の告知……」
迷子の周知と武器の事ですっかりと忘れていた。
「告知ですか? すみません。次に話せるの優勝者もしくは入賞者 なので直ぐには無理ですよ」
「分かりました。入賞を目指します」
別に優勝する気はないがそこそこ目立って店の告知をさせて貰いたい。それに今ので選手たちからの警戒が高まったので次はまともに戦えそうだった。
我ながら好戦的になったものだと思いながら技を競う事が楽しみで仕方なかった。
「お兄ちゃん。頑張ってね~!」
「おうよ!」
応援してくれるヴィーちゃんの声援もあってやる気がもりもりと沸いてきた。
「………」
でも、アイリスたちはまだ来てはいない。居たら声か気配で絶対に気付く筈だ。彼女たちにも見て欲しかったのだが残念だよ。
その頃、アイリスたちはというとアダムスの奥さんたちが用意してくれたブローチを身に付けて外に出た為に。
「トリック・オア・トリート!お姉ちゃん、お菓子頂戴!!」
「セリシールのお菓子!」
各地でお菓子を求めた子供たちに捕まり身動きが取れなくなっていたのであった。
その為、彼女たちにはユーリが闘技大会に出場しているのは知る良しもない。




