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迷子の子猫に捕まった

「まさか、祭りを一人で回るとは思わなかったわ……」


 だらけきっているアイリスたちを置いて街に出た。

 出掛けにアダムスも誘おうとしたのだが、嫁からのダメージが堪えたらしく灰から手だけを再生させて「行ってらっしゃい」と手を振っていた。

 その状態に少し心配だったので、ホテルを出る前にアダムスの嫁さんに聞いてみると……。


「アダムスなら毎日のように死んでは灰に成って生き返るから大丈夫ですよ。だから、お気になさらずに」


 毎日死ぬという事は毎日殺されているという事では?


「…………」


 異世界で賢くなった俺は何もツッコまずに出ていくのだった。

 その後、ホテルを後にした俺が向かった場所は広場近くにあるテントだ。


伏魔殿(パンデモニウム)に物を配られる方は此方で目印を受け取って下さい!」


「おっ、アレだな」


 祭りの運営スタッフの声がしたテントへと向かった。そこにはテーブルに並べられたハートのブローチが置かれていた。


「すみません。お一つ頂けませんか?」


「あっ、参加の方ですね!どうぞどうぞ、お好きにお取りください!」


 俺はスタッフの許可も貰ったのでテーブルからブローチを一つ貰った。


「えっ?」


 するとどうだろう?

 ブローチの色が徐々に黒へと染まっていき最終的には漆黒のブローチが生まれたのだ。


「おおっ!? お兄ちゃん! 凄い魔力保有量ですね!! 竜種の方ですか?」


「竜種の縁者だけど……何で魔力が多いって分かるの? 色が変わったから?」


「はい、そうです。そのブローチには持ち主の魔力量に反応して色の変わる特殊な塗装がされているんです」


「これも一種のマジックアイテムでは? 無料で配布しても良いのですか?」


 ブローチは、イベントを盛り上げる為にと無料配布されている。


「塗料が特殊なだけでブローチ自体はさして珍しいものでも有りませんからね。それに残念な事に受け取る人も年々減ってるですよねぇ~」


「でも、飾ってる店は多いよね?」


「店の商品を売る上での宣伝にもなりますしね」


 宣伝か。俺もそのつもりでお菓子をセリシールデザインのラッピングをしたからきりきり配るぞ。


 その後、街を散策した俺の成果はというとこうだ。


「お兄ちゃん!トリック・オア・トリート!お菓子頂戴!!」


「私も!私にも頂戴!!」


「とっ、トリック・オア・トリート!僕にも下さい!!」


「はいはい、順番に並んでね」


 あっという間に子供たちに取り囲まれて何処に行こうとも子供たちが減ることは無かった。


「すげぇ甘い!これが話題のセリシールのお菓子なんだね!!」


「うめぇ!このマカロンだっけ? 外はサクッ、内はしっとりでお茶会に出される訳だ!」


「クッキーもサクサク、飴玉も甘くて最高~っ!」


 小袋に入れたのは飴玉にマカロン、チョコクッキーといったシンプルなものだ。

 食べやすさと多様性を考慮した結果だったが子供たちにはとても好評だった様で次をねだる子までいた。


「次は来年の伏魔殿を待ってね。それか今年オープン予定のお店で買ってね」


『魔王国にセリシールが出来るのっ!?』


「そうだよ。ここソロモンに出来るんだ」


 既にここソロモンで土地を買っており、後はセリシール2号店をオープンするだけなのだ。

 この地を選んだのはセリシールに限定性を持たせつつも入手しやすくする為だ。

 理想としては大国や大都市に一店置けたらなと考えている。


「中にあるカードを見せると一年間に限り何でも割引されるからね」


『本当にっ!!』


 割引されると聞くと子供たちは喜んだ上に次を求めずにやっと解放してくれた。


「やっぱりお菓子は子供に人気だね。これはここでの売り上げも期待出来そうだ……うん?」


 去っていく子供たちを見送っていたら服を"クイッ"と引っ張る感じがしたので俺は後ろを振り返った。そこにはコートの端を引っ張る幼女の姿があった。


「どうしたの? 迷子?」


 俺はしゃがんで少女の目線に合わせると問い掛けた。


「お兄ちゃん。私の従者を知らない?」


「従者?」


 執事かメイドの事だろうか?

 子供の身成りは布地が少なく動き易さを重視したものだが布の質は良い物だった。


「初老の執事。お兄ちゃん見た?」


「いや見てないよ」


「そうなの? なら、一緒に探してくれない?」


「従者探し? 良いよ」


 まだ街を散策するつもりだし、ついでに従者を探してあげよう。そのうちアイリスたちが合流するだろうし、そしたら本格的に見付けよう。


「お兄ちゃん。逸れない様に手を繋ごう」


「良いよ。……ひゃっ!?」


「ぴゃっ!?」


 彼女と手を繋いだら俺たちの間に静電気が流れたみたいな"ピリッ"と小さな衝撃が起きた。


「いっ、今のなにっ!?」


「………」


 女の子はビックリしたのか、手を胸に抱いて目を見開いていた。


「静電気かな? 人同士の間に発生する事も有るって聞くし……」


 ドアノブや服などで経験した事があるが、人同士は初めてだったので俺も声を出して驚いてしまった。

 その後、もう一度繋ぎ直す時には静電気は起こらなかった。


「それじゃあ、行こうか。え〜っと……名前は?」


 そこで今まで少女から名前を聞かず自己紹介もしていなかった事に気付いた。


「……ヴィクトリア・アスモデウス」


「ヴィクトリア……勝利か。強そうな名前だ」


 そう答えると彼女は凄く嬉しそうに笑っていた。


「貴方なら特別に"ヴィーちゃん"と呼んでもいいよ」


「ヴィーちゃんか。一気に可愛くなったな。でも、本名だと長いしそっちにするよ」


 それからヴィーちゃんと一緒に街を散策した。

 しかし、一向に彼女の知り合いが見付かる事はなかった。

 やはりアイリスたちが居なければ見付からないのだろうか?


「見つからないね……」


「そうだな。今以上に目立つ方法でもあれば良いんだが……」


 行く先々で子供の人だかりが出来るから目立っているが、大人の注目を集める事は出来ていない。


「目立つなら良いのがあるよ。そろそろ時間だし行こう!」


「えっ? ちょっ、ヴィーちゃん!?」


 俺はヴィーちゃんに手を引かれならが街を駆け出した。小さい割にかなり足が速く苦労した。


 そして、辿り着いたのはスタート地点の中央広場。

 そこにはいつの間にか木柵によって隔離されたフィールドが作られていたのだった。

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