パンデモニウム
伏魔殿の当日。
俺たちは思い思いのコスプレをして魔王国の首都『ソロモン』へやって来た。ソロモンの祭りは、首都なだけ有って他の街より盛大らしい。
街には多数のコウモリやカボチャの飾り付けに彩られハロウィンを連想させた。
しかし、所々に置かれた血に濡れたジャック・オー・ランタンの……剥製?が伏魔殿であることを示していた。
それ以前にどうやら魔物としてジャック・オー・ランタンは実在するらしい。
名称:ジャック・オー・ランタン
危険度:C-
詳細:伏魔殿の風物詩。毎年この時期を狙って大量討伐される。中身は小鬼の一種でカボチャの他にもカブを被っている事もある。
「カボチャ頭を傷付けずに倒すと報酬が高いんだって!」
「中に見える瞳はガチ物なのね……」
うん。マジでハロウィンじゃねぇわ。魔物の剥製を置くとか伏魔殿だわ。
さすがは異世界。俺の常識を簡単にぶち壊してくれる。
「ユーリ!今日はしっかりと楽しもうね!」
抱き着いてきたアイリスは祭りのせいかいつもより浮かれていた。
そんな彼女の衣装は、本来の透き通る様なスライム状態の青い身体に包帯で要所を隠しただけというシンプルな物だった。
エロい上に実用性もバッチリで、彼女に見惚れていたら物陰に引きずり込まれて食べられてしまった。
「ああっ、そうだな。アイリス。祭りも俺たちを歓迎しているしな!」
実はアイリスが浮かれている様に俺も浮かれていた。
何故なら最高の祭りを演出するかのように状況が整っていたのだ。
「うん。私たちが楽しめる様にお空は伏魔殿にピッタリな曇り空! 風は冬なのに程よく温かい!」
「皆のコスプレ衣装もエロ可愛くて最高だ!それから……」
「「足元に転がるスプラッターな人たちだね♪」」
「いや、そこはおかしいですよね!?」
うちの常識担当(仮)のマリーからツッコまれてしまったぜ!
「ユーリさん!? 私は到って常識人ですよ!?」
しまった。どうやら声に出してしまった様だ。
「そもそもこの人たちは誰ですか!? アダムスさんたちと合流するからと先に出たユーリさんとアイリスの後から皆で来てみれば……何ですか? この状況?」
『ウンウン!』
「あ~っ、この状況な……」
「たぶん……本来の伏魔殿かな?」
俺は少し前の事を思い出した。
*********
アダムスをモデルに吸血鬼のコスプレを作るために訪れた際、彼からとある提案をされた。
「実は私も伏魔殿には参加予定なのだ。良い機会だから妻を紹介しよう」
「良いね。こっちは全員連れてくつもりだし紹介するよ」
というような約束をしたのでアイリスと先行して待っている。
場所はソロモンにある宿泊施設の多いエリアだ。カリスさんの紹介で貸しきったホテルが有り、イベントのメイン会場である中央広場から離れているから混雑も少ないと考えてこの場所を選んだ。
その上、人もそこそこいるし治安も良いだろうと思ったのだが……。
「おう、兄ちゃんたち。トリック・オア・マネー」
「マネー!?」
「めっちゃ露骨に絡んできた!?」
確かに昔は金をせびっていたと聞いたが本当に金を寄越せと言われるとは思わなかった。
「おいおい、お前その兄ちゃんに何を言ってんだよ。間違ってるだろ?」
「あっ、ですよね~」
「今はお菓……」
俺が"お菓子"と言おうとしたら全く違う物を要求してきた。
「言うならマネー・オア・ガールだろ?」
「金か女かって!? マジで露骨過ぎだろ!?」
「なぁ、お姉ちゃん~。こんな貧相な奴と別れて俺たちと回らねぇか? 俺たちは生まれも育ちも魔王国出身だからよぉ~、見た目とか気にしないぜ?」
「というか、お姉ちゃんの方が誘ってるよな? なっ?」
まぁ、他の人たちの目線を集めてしまうのは分かる。
元々かなりの美人さんなのに加えて蠱惑的なエロ衣装を着てるからナンパは仕方ないと思う。
「生憎旦那のユーリしか誘ってません」
絡んできた男たちの誘いにピシャリと断りを入れるアイリスだった。
そして、彼女はマジで誘っていたのね。道理で妙にくっついて来る訳だ。
「なら、裏魔王国流で行かせて貰うぜ」
「「裏魔王国流?」」
それは初めて聞く言葉だった。郷に入っては郷に従うって感じの良くある風習だろうか?
「それはいった……」
「簡単に言うと"暴力"だ!」
そう言って男は俺の顔を殴りかかってきた。
しかし、当然まともに殴られる俺ではない。俺はその腕を掴み殴る勢いを利用して背後にある壁に男性を叩き付けた。
「ぐふっ!?」
「おっ、お前っ……ごぼっ!? ごぼっごぼっ!?」
そして、もう一人いた男性はというと彼の背後に回ったアイリスによって水精霊魔法で水没させられていた。
彼はもがけどももがけども水から出られず気絶してしまった。
「アイリスの方はやり過ぎでは?」
「ユーリの方は強引に投げたから掴んでた腕が折れてるよ。こっちは最終的に濡れるだけだもん」
俺はアイリスに言われたので振り返ると掴んでいた男性の腕が紫色に変色し手形がついていた。
すまん。そして、ドンマイ!
「「…………」」
二人とも死んではいないがとても静かになったので放置することにした。
「場所を少しズラすか?」
「そうだね。人も集まってきたみたいだし」
騒ぎを聞き付けてやって来た人たちが男性二人の惨状を見て騒ぎだした。その隙に俺たちは少し移動してホテル街にあるシンボルの時計の下に移った。
*********
「まぁ、それで解決する訳もなく……」
「実は、三人目が居て一部始終を見られてたんだよね。だから仲間を呼ばれて襲撃された訳さ」
相変わらず不良たちの仲間意識には驚かされるよ。死地だというのに向かってくるのだもの。
「これだけの集団なら誰かに先導されたのでは?」
そういえばリーダー格っぽい人と対峙した時に「俺は魔王様配下の……」とか途中で言ってたけどアイリスの右ストレートが決まって吹き飛んだ人がぶつかって静かになってたな。その人がそうだったりして?
まぁ、そんな訳ないか。仮にも魔王の配下だとして、間接的にのされるなんて無いだろ!
「騒がしいと思ったらやはり貴方でしたか」
「おっ、アダムス!ヤッホー!!」
アダムスは背後に奥さんだろう女性たちを連れて来ており、俺が彼に手を振ると会釈してくれた。
彼女たちにアイリスたちを紹介するのが楽しみで仕方ないよ。
「アダムス。ホテルを貸しきったんだ。そこで話そうよ」
俺は彼らを誘って貸しきったホテルへと入っていった。




