治療とこれから
「まずは、治療から始めよう。信頼は実績からって言うしね」
今後の為にもしっかりしよう。
「各自病気に怪我、火傷なんかを報告してくれ。当然古傷も報告する様に。例えばリリス達の耳の様なモノとかな」
ハイエルフ等の耳が長い種族は奴隷の証として半分を切り落とされる事がよく有るそうだ。そうする事で種族の尊厳を踏みにじるのだとか。
「……でしたら、私達は耳と奴隷の焼印くらいです。今の所病気などは有りませんし、殴打や裂傷による傷は自分たちの魔法で治していましたから」
服をたくし上げて腹に押された焼印を見せてくれた。
「分かった」
火傷の状態を見るに、やはりエリクサーを使うしかないようだ。
上級ポーションは耳や焼印は治せない。理由は時間の経過が関係している。
ポーションによる治療では、そのランクによって対応期間と効果範囲が異なる。その為、何年も経過した古傷には対応しないのだ。
上級ポーションなら2〜3週間前までなら対応可能で重度の怪我も治す事が出来るが、欠損レベルは癒せない。せいぜい全身骨折が精一杯だ。まぁ、それでも十分凄いと思うけどね。
それらに対してエリクサーには期間も効果範囲も存在しない。
エリクサーの回復効果は本来の正常な健康状態へと移行させるものだからだ。欠損があれば修復し、不治の病なら完治する。
「3人ともコレを飲んで」
アイテムボックスから試験管に入ったエリクサーを取り出して渡した。
「これは?」
「飲めば分かる。安心して毒じゃないから。ただ、ちょっと珍しい薬なだけさ」
エリクサーなんて言うと遠慮しそうだしな。
「………」
誰も飲まず、怪訝そうに試験管を見ている。
やっぱり、薬の正体を言った方がいいかな?
「姉さん、私が先にーー」
「いえ、大丈夫よ」
リディアの声を遮り、リリスがエリクサーを飲む。するとリリスの身体が淡く発光した。それに伴い欠けていた耳が修復されていく。
「あっ!?…あぁ……姉さんの耳がっ!!」
リリアの声で耳に手をやったリリスは起こった事に気が付いて両目を見開いた。
「みっ、耳が戻ってる!」
感動で涙するリリスを見て決心が着いた2人もエリクサーを飲んだ。発光が終わると2人の耳も無事に治っていた。
お互いに触り合って治った事を確認している。
「「うあぁ〜〜」」
嬉しさ故か、2人も泣き出したのでそっとしておく事にした。
「イナホたちはどうだい?」
「焼印くらいと青アザが数点有ります。私たちは、最近買われたので」
「ならこのポーションを飲んだら、焼印見せて」
3人に上級ポーションを渡して飲ませた。
それから獣人族の娘たちは、スカートをたくし上げ太ももを晒した。ギリギリ見えない位置までね。
焼印は、押された時によって場所が違う様だ。今回は内太ももの位置にあった。
「ちょっと触るね」
「んっ……」
布にエリクサーを染み込ませて焼印へと押し当てる。何度かする内に焼印は消えてなくなっていた。それを順番に行っていく。
……何故だろう。良い事してるのにやましく感じるのは?
「よし、大丈夫かな?」
鑑定。
うん、だい……丈夫でないな。イナホだけが。
見た目では分からないが、内臓がかなり傷んでいる。骨も変形した後があるから暴力によるものだろう。
やはり俺の手で殺しておくべきだったかな?
「イナホ。君はコレも飲みなさい」
「はい」
エリクサーを飲ませるとイナホの身体も健康になった。
「頑張ったね。もう我慢しなくて良いんだよ」
「はぃ……」
抱き締めて撫でてあげるとポロポロと泣き出した。
イナホも色々あったんだな。
というか、俺が泣かせたみたいだぞ。
「残りの2人はどうだ?」
「私は焼印と古いアザが多数有ります。それから……刺し傷ですね」
ミズキには、当然エリクサーを渡した。
亡国の姫だからと無茶苦茶した様だ。
「フィーネは?」
「焼印と各所にピアス。それから……薬物によるものが少し……」
「薬物?」
鑑定。
媚薬に麻薬。身体改造と色々行われた様だ。中毒症状なんかも色々と見て取れた。
「薬だから飲みたくないと思うが悪い物じゃないから安心して」
「はい、頂きます」
これで全員の治療が終わった。結局エリクサーを6本消費する事になったが後悔はない。
……ストックが切れたな。また色々頑張らないと。
「それでは、仕事の説明に入る前に確認だ」
全員落ち着いた様だし始めて問題ないだろう。
「まずは、帰りたい場所があるなら帰って構わない。そこまでの援助はしよう。無理に残る必要はない。なんなら俺の名義で竜王国に働きに出てもいい」
「私たちをどうかここに置いて下さいませ」
リリスが代表して伝えて来た。皆の顔を見てまわるが反論は無いようだ。
「分かった。では、仕事をして貰う。仕事というのは、掃除に農業、家畜の世話だな。一応交代で行う予定だが能力次第では専門的にやってもらおうと考えている。何か質問はあるか?」
「家畜というのは、鶏だけでしょうか?」
「今の所、それだけかな? 何れ牛なんかは想定しているけど。肉とかの入手は森にモンスターが沢山いるからなんとかなるしね」
「なるほど。ミルクなら私が用意出来ますし十分ですね」
「えっ?あっ、うん。うんうん、そういう事」
ミルクの事は全く考えていなかったよ。
「農業なのですが、一体何を?」
リリスからの質問。
「今の所、じゃがいも等の芋類、人参、トマト、レタスにキャベツといった野菜がメインになる。後は、果実の栽培。これは、蜜柑とゴールドアッポだな。まだ、育成途中の為放置で構わない。希望の物は、あるか?畑も皆で造る訳だしな」
「でしたら、ナギサ麦を作りたいです!」
「リリア!」
ハイエルフの末っ子が希望を言ってきた。
「構わない。どんどん言ってくれ。しかし、アレは良質な河川の側でないと無理じゃないのか?」
「一般の畑でも可能です」
そうなのか。知らなかった。
「それは、たぶん無理じゃないかな?」
「アイリス?」
「ここの土壌は塩分濃度が高過ぎるもの。野菜ならまだしもナギサ麦の様な繊細な物は難しいと思うよ?」
「そうですか……」
大変残念そうだ。だから、提案する。
「一通りの設備を造った後になるが、作物の実験場を作る予定だから、そこで試しにやってみるといい」
「ホントですか!」
「あぁ、塩分濃度の事も知りたいし。可能なら塩分濃度を減らす方法も見つけたい」
今出来る仕事の説明としては、これくらいだろう。
「本格的に始めるのは3日後から行おうと思う。施設も造ってないからな。そして、寝床に関してなんだが、今日だけは2部屋に4人で入ってくれ。ベッドとかは大きいが少し我慢する事になる。明日には造るから許してくれ。それと部屋にこれは欲しいって要望はないか?」
「そこまでして頂かなくとも……」
「いいからいいから、遠慮するなって。あっ、ならこうしよう」
皆が遠慮し過ぎない様にあるルールを置くことにした。
「ここでのルール、その1。ここでは皆を家族と思うこと。家族なら遠慮しないだろ?だから、俺の呼び方も何でもいい好きに呼んでくれ」
そして、要望をまとめていった。