魔王国のお祭り
「伏魔殿?」
それは学校帰りのイナホたちからのお誘いから始まった。
「はい。魔王国で行われる冬至のお祭りです。一緒に行きませんか?」
「お祭りか……」
異世界ではイベントに力を入れる節がある事をこの1年ちょっとで知った。だからイナホたちの誘いにはかなり惹かれるものがある。
「本当はね。ユーリお兄ちゃんが落ち込んでいた時に誘うつもりだったんだけど……」
「フラガラッハがあっさり直ってお兄ちゃんが元気になったのです」
「しかも、その後にガーネットお姉ちゃんの出産で走り回る姿を見ていましたので、言い出すタイミングを完全に逃してしまいました」
「なるほどね。誘ってくれてありがとう。喜んで着いて行くよ」
「「「ヤッター!」」」
俺が参加すると言うとイナホたちはハイタッチをして喜んでいた。
「それでどんなお祭り何だ?」
伏魔殿。そう言うからには魔族関連なのだろうか?
「元々は魔王国で人と魔族が種族を越えて交流出来るイベントとして始まったそうです。マレビトが伝えた祭りをベースに魔王国流にアレンジしたと聞きました」
「垣根を無くすために皆魔族に成るんだよ♪」
「魔族にっ!?」
「はい。下位の生態変化の様な魔法を使っていたそうです。しかし、精神に影響をきたす者が多数出て居た為に今ではコレとかを使います」
イナホにカラフルな布を渡されたので広げてみた。
それは俺が低身長組に可愛いからと着させる着ぐるみパジャマだった。ちなみに渡されたのは牛さんだった。
「もしくはこの角とか牙とか付けるだけだったりするのです」
ユキの手には付け角や牙が握られていた。
魔物の素材を使ったのか、その見た目はしっかりとした物だった。
「なっ、なるほど……。これで魔族に成りきるんだな」
見た目を異形にする事で仲間だと思わせる訳か。人は見た目からと言うし重要な事なのだろう。
「別に角や牙が無くても良いんだよ。見た目が人じゃ無ければ良んだよ」
「あっ、そうなん? つまりただのコスプレ?」
「まぁ、そんな感じかな? さっきのパジャマを着て獣人になる人もいるし」
「人外なら何でも良くない? って、感じのいい加減さなのです」
人外なら良いんだ。祭りだからこそのいい加減さだろうか?
「そうですね。コスプレが分かりやすいかもしれません? ユーリさんたちが用意した様な悪魔のコスプレする娘も増えますし」
あっ、当然そっち目的で誘うんですね。分かります。
「さて、メインですけど。着替えて街に出たらイベント開始です。道行く他人や家や店に声を掛けてお金を貰います」
「金?」
「金です」
指でコインを示すと頷いたからマジみたいだ。
「でも、今のご時世色々厳しいですからね。目印の付いた人か場所じゃ無いと貰えないし、お金はコレに変わったんだよ。ユーリお兄ちゃんにもあげるね」
「うん?ありがとう…………お菓子?」
フランに渡されたのは綺麗にラッピングされた小袋だった。中にはカラフルな色のキャンディーや甘そうなクッキーが入っていた。
「そして、要求する時には一言こう言います」
「「「トリック・オア・トリート!!」」」
「それ、ハロウィンじゃん!!」
コスプレの時点でうすうすそんな気がしたけどハロウィンじゃん! 実際にした事はないけどさ!!
そういえば、ハロウィンの起源は相当古くて冬至の時期だと聞いた事があったな。
「そんな訳で今は子供が喜ぶお祭りになったんです」
子供はお菓子で喜び、大人はコスプレで喜ぶ訳か。大人と子供の差がしっかりと見てとれるな。
「それで3人もコスプレするのか?」
「はい。そのつもりです」
「なら、衣装を用意しないとな。今回は何を着るんだ?」
「私は特に決めていませんね。既に獣人の中でも特殊なので……」
「そうか……」
イナホのコスプレを見たかったのだが、本人にやる気がないのなら仕方ないな。
「はいはい!ユーリお兄ちゃん!私はね、悪魔をやるの!」
「マジで!」
フランの悪魔っ娘か……色々ヤバいな。
彼女のスタイルに悪魔のコスプレだと淫魔と言われるかもしれないな。これは俺がしっかりとガードして場合によってお持ち帰りしないといけなさそうだ。
「ユーリお兄ちゃん。私はフランちゃんに合わせて天使なのです」
「それは髪に合わせて合ってそうだな!」
天使は全て金髪なのだが、ユキの白髪に白い翼を組み合わせたら天使を凌駕する神秘な存在になるだろう。
「………これは私もコスプレするべきですかね?」
「そこは好き好きだからイナホに任せるよ。でも、俺としてはこの機会に違うイナホを見てみたいな」
優しくお願いする形でイナホに言ってみると効果は抜群だった様だ。
「はうっ!? ……わっ、分かりました。私も何か考えようと思います」
よし、これでイナホの普通のコスプレも見られるぞ!
「ユーリさんはどうします?」
「う〜ん、魔族だろ? アイリスは……無理だからアダムスを真似て吸血鬼にでもなるよ。それなら牙と羽根くらいだろうしね」
アイリスみたいな流体の魔族を真似るのは無理だが、アダムスなら捕獲して採寸すれば精巧なコスプレが完成するだろう。
「それじゃあ、今から始めようかな イナホたちはどうする? 一緒に作るか?」
「私はエロース先生と相談してきます。その後に合流するという事で」
「私は着いて行くよ。後少しで完成だけど微調整がいるもん」
「私は羽根が上手く行かないので手伝ってほしいです」
「分かった。行ってらっしゃい。手伝ってあげるからしっかり考えてきてね」
「はい。そうします」
イナホを見送った後、俺たちは時間短縮の為に平穏なる小世界へと籠もった。
そして、お祭りへの期待を胸に膨らませながら衣装造りに励むのだった。




