紅蔦病
竜種が生まれ持つ固有の鑑定能力『竜眼』。それを持ってしても患者たちの病を知る事は出来なかった。
それならば俺の鑑定魔法はどうだろう?
マリーたちからは竜種と同等もしくはそれ以上だろうと考えられていたので試す流れになった。
「ユーリならイケるって!」
「ユーリさんの鑑定能力は竜眼のそれを超えていると前々から思っていました。ダメでもともとです。上手く行けばラッキー程度に軽く気構えて下さい」
しかし、俺なら見えるはずだと嫁たちがかなり期待している。それがプレッシャーとなって心配になってくるのだった。
「本当にダメ元でやるから見えなくても許してね」
という事で早速寝ている患者さんに近寄って鑑定して見ることにした。
「鑑定開始」
対象とした患者さんは冒険者かってぐらいに鍛え抜かれた大きな身体をしていて紅い蔓の様な紋様が特徴的な男性だった。
そんな彼は病気による発熱と嘔吐を繰り返し衰弱していた。
「これは……」
「どうですか?」
「見れた」
『本当にっ!?』
皆が俺の周囲に集まってきた。俺は鑑定の結果をパネル化して皆に公開する。
状態:紅蔓病
説明:初期症状は軽度の風邪の様に表出する。中段階に移行すると身体機能の著しい低下と嘔吐を催し酷い場合は吐血などの症状へと悪化する。更に病状が進行して最終段階を迎えると体の表面に紅い蔓のような不気味な紋様が浮かぶ。
『紅い蔓?』
俺たちは改めて男性の事を見た。彼には周囲の人たちには無い紅い蔓の様な紋様が現れていた。
どうやら彼のオシャレだと思っていたがそうでなく病気の症状だったらしい。
しかも紅い蔓が体表に現れるという事は、この男性は既に最終段階に入っているという事を示していた。
「フォレストの名において医療従事者とこの地区の医療担当者は至急この場へ集合して下さい!この男性を隔離します!また、男性の関係者の方は同行をお願いします!!」
現状を把握したフィロが高らかに宣言するとフォレストの名が影響したのか街中に散っていた医療従事者たちが直ぐに集まってきた。
フィロはそんな彼に向かって病気の事を伝えた。
「ーーなので、この男性と同じ様に紋様の出た者を把握して下さい!その後彼らを隔離します!!大規模な人数を収容可能な施設は有りますか?」
フィロの説明を聞いた医療従事者たちがザワザワと騒ぎ始めた。
「そんな病気聞いた事がないぞ?隔離する必要が有るのか?」
「これが病気による症状? エリアに数人いたな……」
「集めるとなると結構な人数だ。隔離出来る程の施設なんて……」
どうやら通路に寝かせているだけあって収容出来る施設に限りがある様だった。
「……フィロ様」
そんな中、一人の老人が前に出てきた。杖をついて腰が曲がっているがその眼差しは真剣そのものだった。
「貴方は?」
「私がこの街の最高位治療医のカウレスですじゃ。フィロ様の言う収容可能な施設に関して一つ心当たりが有ります」
「それは?」
「中央にそびえる木を讃える社。星樹殿を開放すれば収容スペースは確保出来ますのじゃ」
『なっ!?』
カウレスと名乗ったお爺さんの発言を聞いて医療従事者や街の住人たちは驚愕した。
それに対して意味の分からない竜王国関係者の顔には疑問が浮かんでいるのだった。
「フォレストの関係者でしたら可能なはず……責を負う必要ならこの私が負いましょう。患者を救えるのならこの命惜しくは御座いません」
『カウレス様!』
カウレスの発言に涙する者がいる程に星樹殿という場所は重要な事が伝わってきた。
「なぁ、フィロ。その場所はそんなに大事な場所なのか?」
「フォレストの関係者と街の幹部しか入れない神聖な場所です。分かりやすく言うとこの国の竜神殿だと思って下さい」
フィロに竜神殿の様なものだと言われたが、しょっちゅう出入りしている身としては特に神聖な場所という印象を受ける事はなかった。
「まぁ、使えるなら開放しようよ。重篤患者たちの治療を急ぐ必要があるし」
「……そうですね。上層部には私が掛け合いましょう。カウレスさんは重篤者の把握と回収を指揮して下さい。ユーリさんたちには申し訳有りませんが彼を連れて先に向かっておいて下さい」
「ok。任せて」
俺は身体能力を強化して男性の事を背負った。
本来なら背負えない程に男性は重いが、強化のお陰もあって重さを殆ど感じずに背負う事が出来た。
「星樹殿は木の根本に行けば自ずと分かる筈です。ただ私が行くまで勝手に入らないように気を付けて下さい」
そして、俺たちは別れて星樹殿なる建物を目指すのだった。
フィロの言葉に従い木の根本に行くとマリーの母親であるルイさんの住む竜神殿に似せた立派な木造の神殿が建てられていた。
「木を神聖視してるんだな。他の竜神殿とは違い木造だなんて」
木造故か、うちの神社の様に妙にしっくりと来る建物だった。
「うん? ……ガルルルッ!」
何かに気付いたギンカが魔獣状態に戻り神殿の入り口を睨み唸り出した。
「ギンカ?」
「どうしたの?」
ギンカの突然の変化に驚き、俺たちは神殿の入り口を見た。
入り口の固く閉ざされた扉には侵入出来ない様に特殊な封印が施されていた。フィロたち関係者でないと解除出来ないのだろう。
その事から直ぐに入れないのでフィロが来るまで男性を降ろして寝かせる事にした。
その後、ギンカに触れて彼女を宥めつつ唸っている理由を聞いた。
「何か気になる事でも有るのか?」
「嫌な匂いがします。まるでこの世の穢れを集めた様な……」
「どんな匂いだよ!」
それは凄い悪臭ということなのだろうか。ギンカの言う匂いを俺は感じないが、改めて扉を見るとその奥からは凄く嫌な感じを受けるのだった。
「ん? んんっ? ナニコレ?」
「アイリス?」
アイリスも扉を見詰めて顔を曇らせていた。
「ねぇ、ここってゴーストでも住んでるのかな? なんか、変な物が中を漂ってるよ?」
「………」
アイリスの言葉が気になって俺も魔力感知で見る事にした。
内部は所々に木々が植えられており、その間を浮遊するモヤは高密度の魔力を持っており動物の骨の様な顔が見えた。
その空洞の目には怪しい光を携えており……えっ?
それが扉越しの俺と目があったのだ。
「っ!?全員警戒!何か来る!!」
俺の言葉に全員が身構えた。
その瞬間、扉にヒビが走り砕け散る。そこから現れたのは獣骨の頭を持つゴーストの様な化け物の姿だった。




