公表
最近俺の嫁たちが殺気立ってる気がする。何処へ行くにも左右後方を確保して周囲を警戒しているのだ。
先日小人族の少女たちに殺されかけた事が原因だろう。
「そんなに警戒しなくても……」
現在俺の右腕をリリスが抱き、左腕をリディアが抱いている。背後には一歩引いた距離をリリアが付いてきていた。
「いえ、殺されかけたのですから気にして下さい」
「そうです。もっと自分を大切にして下さい」
「すみません……」
楽観的に考えていたが、どうやら相当心配を掛けてしまった様だ。もっと自分を大切にするべきなのかもしれない。
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ユーリがリリスたちと出掛けている頃、屋敷の談話室では他の嫁たち全員を集めて会議が行われていた。
「ーー以上が先日起こった事です」
議長としてマリーが先日起こった事を皆に説明した。
その後開口一番に喋り出したのは他ならぬミズキだった。
「皆さん。申し訳有りません。全ては私が原因です。私さえいなければ……」
彼女は皆に謝罪すると罪悪感と後悔からか俯いてしまった。
「ミズキのせいじゃないんだからね!ほら、顔を上げて!」
アイリスを筆頭にミズキへの励ましの声をあげた。そんな中一番に行動したのはフィーネだった。
「ミズキの罪悪感は私たちも理解してますからね。昔は近くに居ても助けられなかったけど今はちゃんと手を伸ばせるんです。私達に機会を下さい。もっと頼って下さい」
フィーネはそう言うとミズキを後ろから抱き締めた。それは共に奴隷だった時には恐怖で出来ない事だった。
「フィーネさんの言う通りです。もっと頼って下さいましね」
「ユーリお兄ちゃんは無事だったから落ち込む事ないよ」
「そうなのです。ミズキお姉ちゃんが落ち込むとユーリお兄ちゃんも悲しむのですよ」
イナホたちもミズキの横に来て頭を撫でたり手を取ったりして励ました。
「皆さん……」
皆の励ましたがあってか、ミズキは再び顔を上げる事が出来た。
「さて、ミズキさんも落ち着いた様ですし、今後の対策を考えましょう」
そして、話は今後の対策へと移り変わる事になった。
「そもそもの原因はさ。ミズキが奴隷として何処かで虐げられていると思われてる事に原因が有るんだよね?」
「ええ、彼女たちの話からするとそういう噂が存在しているそうです。滅多に表へ出なかった事で真実味を帯びたのでしょう」
「更に私の行動にも原因がある様です。実はユーリさんとのデートの時いつも一歩引いてついて行ってました」
「でも、それだとユーリは無理やり横に並ばせて手を繋がせるんじゃない?」
「そうです。パァーシャ曰くその様子が無理やり従わせてる様に見えたらしく……」
「なるほどね。それで奴隷と主人の関係に見えたから噂は真実だと確信した訳だね」
「はい」
「噂自体もユーリさんに会う前までは事実なので否定出来ませんね」
「ねぇ、ミズキ。なんでコソコソしてるの? 復国の予定はないから堂々としても大丈夫でしょ?」
「それ以外でも亡国の王族が生きていると色々あるんです……」
「アイリス。本当に色々有るんです。なので、そこは察してあげて下さい」
同じ王族の事に詳しいマリーがげんなりしながらアイリスを諭した。
「あの〜っ、いっその事竜王国に亡命した事には出来ないのですか?」
「ああ、それね。昔も考えたんだけど国家絡みで無理ーー」
「いえ、ちょっと待って下さい!」
イナホの疑問に答えようとしたアイリスをマリーが制した。それからマリーは少し考え込むと立ち上がった。
「そうだ!こうすれば良かったんだ!出来ます!亡命者としての登録が可能です!!」
「えっ、でも昔は無理だって……」
「それはクズノズク王国が健在だったからです。ですが、ベルトリンデ王国に併合されたので文句を云う国は有りません」
「なら、亡命しても問題無いんだね」
「ええ。なので、ベルトリンデ王国で……」
マリーは自分の考えを皆に伝えた。
それを聞いた皆は驚きの表情と共に「それで行こう」と言い出した。
嫁たちの会議から1ヶ月後、ベルトリンデ王国首都にある教会にベルトリンデ王国に住む多くの小人族と竜王国の関係者が集められた。
「ここにベルトリンデ王国国民ミズキ・ブラウンと竜王国国民ユリシーズ・ヴァーミリオンの結婚式を執り行います」
入口にはウェディングドレスに身を包んだミズキと正装をしたユーリの姿があった。皆の視線が集まる中、2人は壇上へとゆっくりと歩き始めた。
「かのユリシーズ殿はクズノズク王国との戦争のおりミズキ殿を……」
登ってる間に俺がミズキを救った英雄だと小人族たちに伝わる様に祭司が演説し始めた。それを聞いた小人族たちはざわめいている。
「話を聞いた時には何故もう一度結婚式をと思ったけど……なるほどね。これならミズキと胸を張って歩けるな」
「マリーさんがここで行えば亡命している小人族が多いので生存と奴隷でない事を伝えられ、その上ベルトリンデ王国から竜王国へと嫁ぐ形になるので王族はベルトリンデ王国に縛られて無いとアピール出来ると伝えられます」
「でも、それなら今度は竜王国に売られたと言われるじゃ?」
「それを回避する為に祭司が話すユーリさんの武勇伝です。
ユーリさんが私を助け出してから結婚したかったけどクズノズク王国が健在で結婚出来ず、仕方なくベルトリンデ王国に保護して貰っていた事にしました。
クズノズク王国が潰れた事でベルトリンデ王国は姫の保護を止めた。私の意志を尊重して竜王国のユーリさんの元へ嫁ぐ事を応援したと」
「そう話す事で竜王国の俺に嫁いでも問題なし。また、ベルトリンデ王国は2人の恋路を応援した良心的な国だとアピール出来る訳ね」
「はい。ですが、どんなに言葉を連ねても2人の関係が悪く見えたら意味がないので全力で幸せをアピールして下さいね」
「ok。任せろ」
そして、壇上に辿り着いた俺たち。神への誓いとマレビトが広めてから一般的になった誓いのキスをお披露目した。
その後、俺とミズキはセリシールのお菓子を詰めた小さな袋を入れた籠を持ち教会の周りに集まった人たちへ向けてブーケトスとお菓子投げを行った。これには小人族以外も集まっており大きな祭りの様な騒ぎへと発展した。
締めはドラゴンに乗って竜王国へと旅立って終わりを迎えるのだった。
そして、その日の夜は当然2人で寝室へ。
「あの本当にこのままでするんですか?」
「モチのロン!」
ベッドの上にはウェディングドレスのままのミズキがいる。
「初夜といえばこれだろ!というか、俺の祖国ではそういう決まりなんです!いつものコスプレと同じと思っておこう!」
別にそういう決まりは無いのだが、俺は適当に理由を付けて彼女を押しまくった。その結果、彼女は押しに負けてそういうものだと思い込む事になった。
「そっ、そうなんですね。分かりました。確かにいつものと変わらず……あれ?おかしいですね? いつもよりドキドキします!? 別に始めてじゃないのに!?」
なにやら凄く顔を真っ赤にして恥ずかしがっているミズキは可愛かった。
「なんで? どうして?」
「う〜ん、世間的にも夫婦だと思われたからかもね?」
彼女はいつも一線引いている印象があったのだ。それがなくなって距離が縮まり困惑しているのだろう。
「それじゃあ、ミズキ。始めようか」
「あのっ、やっぱり、今日はっ!?」
「逃がす気はないから諦めてね」
こうして色欲に溺れるのだった。




