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パァサァファイア

 俺の暗殺を試みた小人族の少女たちはスライム地獄を受けて大人しくなった。


「「「………」」」


 落とし穴から引き上げた彼女たちは粘液であられも無い姿になっており廃人宜しく放心しきっていた。

 俺もアレから回復するのには1日を費やしたので介護要員を呼んであげる事にした。


「彼女たちが元気になりました。話が有るとの事なので連れてきます」


 献身的な介護により小人族の少女たちは元気さを取戻したらしい。

 報告を受けてから数分後、彼女たちは談話室へとやって来た。


「「「この度は本当に申し訳有りませんでした!!」」」


 彼女たちは部屋に入るや否や土下座せんばかりの勢いで謝ってきた。


「もう良いよ。前回ので許してるし。それに罰を受けたんでしょ?」


「はい! スライムにもみくちゃにされて全身の……あな……」


 スライム地獄を思い出したのか、瞳から光彩がどんどん消えていった。どうやら彼女もトラウマになったらしい。


「しっかりして!詳細は言わなくて良いよ!求めてないからね!!」


「ハッ!? 私は一体……何をっ?」


 どうやら途中で思い出す事を脳が否定した様だ。少し羨ましい。


「アレは本当にヤバかったぜ!あんな快楽に溺れたら普通じゃ満足出来ねぇよ!?」


「私はもう一度体験しても良いかな? 凄く気持ち良かったし。あっ、思い出しただけで濡れてきたよ……」


「「「えっ!?」」」


 世の中にはアレに耐えれる性欲の持ち主がいる事を知った瞬間だった。

 とりあえず、何が濡れたのかは追求しない事にしよう。したが最後関係を持ちそうな気がした。


「君たちは……って言い難いな。そういえば名前を聞いて無かったね。君たちの名前を教えてくれるかな?」


「あっ、はい! 私は長女のパァーシャです!」


「次女のサラだよ♪」


「三女のファイアだぜ!」


「「「三人合わせて『パァサァファイア』です!」だよ!」だぜ!」


「パァサァファイア?」


 なんかカッコいい。必殺の呪文みたいに聞こえた。


「私たちの名前を合わせたコンビ名です。この名で店も出してます」


「革靴の専門店だっけ?」


「革の専門店になります。修行先が靴屋なだけでベルトや手袋等日常の物も取り扱ってますよ」


「へぇ〜っ、そうなんだ」


 革のベルトは耐久性に優れる上、最終手段の食料になる為冒険者の間では良く使われている。

 一度テレビで見た事もあるが出来ればご遠慮願いたいものだな。


「なぁ、今度注文して良いか? 材料はうちで余ってる奴を出すからさ」


「喜んで!」


「材料の持ち込みならお安くしますよ」


 何処から出したのか、そろばんを叩きながら金額を見せ付けてきた。

 特注になるのに意外と安かったので頼む事にした。彼女たちが店に帰ったら届ける予定だ。


「そうそうパァーシャたちがどうやって帰るか聞こうとしてたんだ」


「私たちですか? ラグス王国行きの商隊に同行させて貰い帰る予定ですが?」


「そうだった。またあの砂漠を超えないといけないんだよね……」


「アレ辛いんだよなぁ……もうこっちに店を出さねぇ?」


 彼女たちの口ぶりから国境にある砂漠を超えるくらいならこっちに住みたいという気持ちを感じた。

 俺があそこに行った時は職業スキルやらなにや使って快適だったのでそんな実感は一切無かった。


「帰るならラグス王国への転移門(ゲート)を創るけど?」


 商業都市ウェンや首都エリシオンには買い物やクエストで良く行くが、それ以外の主要都市も一応は押さえてある。なので転移門を作ろうと思えば何時でもできるのだ。


「本当ですか!? 助かります!!」


「やった!これで旅費も浮くし砂漠超えもない!」


「転移なら移動も一瞬!疲労もなくて万々歳だぜ!」


 喜んでくれたので早速造る事にした。


「ミズキ様! スルガ様のお世話が必要な時は何時でもお呼び下さい!」


「何時でも店を休んで駆けつけます!」


「革製品をお求めなら何時でも用意しやずぜ!」


「ええ、手が足りない時は呼ばせて貰いますね」


 彼女たちはミズキとの別れを告げてラグス王国へと帰った。

 しかし、彼女たちの店は商業都市ウェンにあるので直ぐにまた会えるだろう。何故ならうちのデートスポットの1つになっているからね。


「……と思ってたんだけど意外に速い再会になったな」


 俺は一週間も経たない内に彼女たちの店を訪れる事になった。


「「「いらっしゃいませ!」」」


「ユーリ様。ミズキ様はご機嫌で? それと何をお求めでしょうか?」


「ミズキは元気だよ。最近スルガが動き回るから付きっきりになって、あまりイチャイチャ出来ないんだよね。あっ、頼みたいのはブーツだよ」


 俺はアイテムボックスに入れていたブーツを取り出して見せた。


「これと似た感じのものを作って欲しい」


「何処をどうやったらこれ程までに痛むんですかね?」


 受け取ったサァーシャは呆れた声をあげた。それもその筈ブーツは底がだいぶ磨り減っており、一部は焼けて溶けていたのだ。


「火山を歩いたり色々したらね……」


「物自体は竜王国の貴族の間で流行った物ですね。革も上質な馬が使われているご様子。これと同じ物なら3ヶ月は見て欲しい所ですからね?」


「革で作るってそんなにかかるものなの?」


 一応俺の職業スキル『創る人』で出来ないか試したがブーツ等は適応外らしく知識も感覚も無かった。


「革を縫うの自体は機械や人数も居るので掛かりませんが、木型を造るのとパターンに起こすのが時間掛かります」


 木型とは、企画やデザインに合わせて木材を削り木靴を造る作業だ。履く人の寸法に合わせてミリ単位でのヤスリがけ等が要求される。


 パターンとは、木型から紙型へと落とし込む作業だ。靴の曲線を立体から平面へと写す行為なので見た目以上に難しい。


「木型はあのキューブ状の木材を使うのか?」


「あっ、はい。そうです」


「それなら協力出来そうだし。いっちょ作ってみようか」


「えっ?」


 俺は木材に手を当てて空間魔法で足のサイズに合わせて切り取った。

 工程は2段階。足の表面に纏わせた魔力の形に木材を転移。最後に木材の内部に出来た木靴を転移させれば完成だ。


「これじゃあダメ? 俺のサイズに合わせたんだけど……?」


「……ファイア。確認して」


「はいよ。ユーリの兄さんは足を見るから台に片足置いてな」


 パァーシャに木靴を渡すとファイアが呼ばれて来た。

 ファイアが小さな台を持ってきたので俺は言われるままに足を置いた。すると彼女は木靴と俺の足を交互に触りながら確認する。


「おおっ、すげぇな。完全にピッタリじゃないか」


「だろ?」


 俺は自分の魔法が褒められた気がして嬉しくなった。


「でも、これは全く使えないな」


「えっ?」


 まさか持ち上げて置いて落とされるとは思わなかった。


「なっ、なんで……?」


「ピッタリ過ぎるのがイケねぇんですぜ。革ってのは湿度や気温で変化するし、使用頻度でも変ってくる。なのに足との隙間が殆ど無いとキツキツになるし履き辛くなる」


 なるほど。そこまで考慮する必要があるのか。

 1つ勉強になった出来事だった。


「その空間を広くしたり狭くしたりするのが職人技なんです。それにより最高の履き心地を得られます」


「うちだとファイアが一番上手いだよね。だから、上客にはファイアが対応するんです」


「なら、俺が出来るのは革を渡すくらいしか出来ない訳か」


 俺はアイテムボックスからロールに巻かれた革を取り出した。


「それは……?」


「砂クジラの革の余り。うちはあんまり使わなかったからな」


 狩った後に回収してからというもの殆ど使う事が無かったのでかなりの量が余っていたのでこの機会に消費する事にした。


「「「砂クジラの革っ!?」」」


「余ったら貰って良いから」


「ほっ、本当ですか!?」


「本当。だから、ブーツを頼んだよ」


「「「ありがとうございます。お任せ下さい」」」


 砂クジラの革を手渡して店を出た。俺は3ヶ月後に出来るブーツが楽しみで仕方ないのだった。

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[気になる点] 『「ええ、手が足りない時は呼ぶせて貰いますね」』 にて、『呼ぶせて貰いますね』の文章が変なので、ご報告。
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