話を聞こうか
平穏なる小世界。
名前の通り平穏で穏やかな休憩場所として作った娯楽空間である。
そのビーチに謎の天幕で覆われたテントが出来ていた。
「ナニコレ?」
好奇心から中に入るとそこには何処ぞのサバトですかといった様な光景が広がっていた。
「「「………」」」
何処から調達したのか分からない紫色の炎を灯した松明によって内部は照らされていた。
中心に小人族の少女たちが魔法で作った簡易的な檻に1人ずつ入れられて居た。何故か目が死んでいる。
その横では禍々しくも妖艶なドレスに身を包んだミズキが槍を構えて処刑人の様に立っていた。何処かで見たと思ったらミズキとデートした時に似合い過ぎると思って買った服だった。
そんな彼女たちの前には扇状に机と椅子が並べられている。そこにはアイリスたちが手を組んで肘を付き小人族の少女たちを見詰めていた。
「あっ、ユーリ!遅かったね」
「尋問の準備は出来てます」
「今すぐ始められますよ」
「俺がトイレに行ってる間に一体何が……?」
「ほら、内だと外の3倍の時差があるじゃん? それで暇だったからやってみました」
暇だったからやったって……3倍でも実際は30分くらいしか経ってない筈ですよね?
「心を読み易くする為には揺さぶりも必要でしょ♪」
小人族の少女たちに聞こえない様にアイリスが小声で準備した理由を伝えてきた。やり過ぎな気もしなくはないが効果は大きそうなので見逃す事にしよう。
「それでは面子も揃いましたので始めましょうか?」
マリーが木槌を取り出してテーブルの所でコンコンと叩いた。さながら裁判を行う裁判官の様だ。
「それでは小人族の皆さん。アナタ方の罪状を読み上げます。アナタ方は私たちの旦那であるユーリさんを殺そうとしました。罰は……」
「スライム地獄で良いと思うよ」
「スライム地獄なら確実ですね」
「私もスライム地獄なら許せます」
「なら、スライム地獄で確定と行きましょう」
「待て待て待て! 判決が速過ぎだろ!?」
これサバトとかじゃなくて裁判だ。しかも魔女裁判だ。彼女たちや俺の話は一切聞かずに罰が確定したよ。
ちなみにスライム地獄とは俺が女にされて落とされた落とし穴の正式名称だ。スライムたちが入った人の心を折れるまで徹底的に陵辱してくれる。
「少しは事情聞いてあげようよ……な?」
「「「っ!?」」」
小人族の少女たちが救いを見たような目で見てきた。一部涙ぐんでいる娘も居た。
一体君たちは短時間で彼女たちに何をしたのかな?
「相変わらずユーリは女性に優しいね」
「自分を殺そうとした相手にまで気を使うとは思いませんでしたよ」
「アナタたち。ご主人様の寛大なお心に感謝しなさい」
「素直に話すのなら私も槍を下げましょう」
「「「素直に喋ります!」」」
槍を持ったミズキが怖かったのか、彼女たちは全力で首を縦に振って頷いていた。
「それでなんで俺を殺そうとしたの? 殺される心当たりが多過ぎるんだけど?」
「ユーリ。普通は無いって言う場面だよね?」
「生憎そこまでまともな人生は送っていないからな」
冒険者になってから色々あったからな。人を斬った事もあるので恨まれても仕方ない。
「そこの唯一ズボンを履いてるお嬢さん。素直に話してくれないかな?」
アイリスが彼女を檻から出して連れてきた。
その後背後に立って逃亡防止と読心の為に触れている。
「それは……全てミズキ様の為です」
「えっ? 私?」
一人の娘が理由を言うとミズキがとても驚いた顔をしていた。
まあ、その予想はしていたので俺は特に驚く事は無かった。
「私たちは元コーネリアの国民なんです」
そこから語られたのはマナに似た境遇の話だった。違いが有るとすれば難民からラグス王国に定住出来た事だろう。
「私たち姉妹を国から逃してくれたのはミズキ様です!」
「わざわざ私兵を護衛としてつけてくれました!」
「お陰で無事にラグス王国へと辿り着き移住する事が出来ました!」
「本当なの、ミズキ?」
「事実ですけど何度も行ったので彼女たちがどの組だったかは分かりかねます……」
その後の彼女たちはこうだ。
革仕事の技術を活かして靴職人の元へ弟子入り。思いの外はやく一人前と認められたので、今年の春に独立して自前の店を建てたのだそうだ。
「そんな折街でミズキ様たちを目撃したんです!」
どうやらミズキとのデートを見られていたらしい。ラグス王国ならミズキの心配していた亡国の民の目も無いと思ったがあった訳だ。
「その日は結局見失ってしまったので私たちは情報を集める事にしました」
調べると王族の一部が奴隷として生きているとの情報をゲットしたので、今度は買い主だろう俺にターゲットを変更した。
俺はラグス王国で定期的にデートしたりクエストをしていたので、情報は直ぐに集まったそうだ。
そして分かったのは他にも女性を連れ歩いていること。
更に詳しく把握する為に竜王国にも来たそうだ。
「ですが、竜王国ではユリシーズさんとミズキ様の情報は一切出てきませんでした」
それもその筈だ。ミズキは竜王国だと身バレする可能性があるのでまず出歩かない。出歩く時は認識阻害の魔法を張って貰うか、馬車などを使って移動していたのだ。
「なので、基本は屋敷に監禁していると思い殺す事にしました」
「意味が分からんのだが?」
「アナタが死ねば騒ぎになってセリシールの関係者が妖精の箱庭に帰ります。それに同行してミズキ様を救出する予定でした」
場所はバレてないみたいだが、
「でも、その前にここへ来る転移門が出来たから潜る事にしたんだね。罠だと思わなかったのかな? あっ、罠かもと思ったけどここに来る手段が無かったから意を決した訳なんだね」
「っ!?」
「何で分かるかって? それはひ・み・つ♪ 」
その後も彼女たちの独白とアイリスの読心で色々詳細が見えてきた。
「詳細は分かった。でも、奴隷とかじゃないぞ」
「ええ、普通のお嫁さんですよ。家事をするのは主婦だからです。子供も居ますよ?」
「「「えっ?」」」
「マナ。スルガを連れて入ってきて」
テントの外に待機させていたマナを中に呼んだ。彼女はスルガを乗せたベビーカーを押してやって来た。
「この子が私たちの子供ですよ」
「嘘っ……!?」
「あの髪って……っ!?」
「うん!王族の……!?」
彼女たちはミズキが子持ちな事に驚いた様子だった。
「まぁ、そういう訳で普通に愛しあってる訳だよ。これで一件落着だね」
「「「すっ、すみませんでした!」」」
その後凄い勢いで謝られた。勘違いでミズキを未亡人にしかけたのも有るのかもしれない。
「俺は許してあげる。後はミズキに任せるよ」
「分かりました。彼女たちにはケジメを付けさせて帰します」
「うん。その方向で頼むわ」
「ギンカさん。スライム地獄1時間コースでお願いします」
「お任せを」
『えっ?』
ギンカが彼女たちを連れて転移した。アイリスたちもそれで頷いていた。減刑してもそれらしい。
「旦那を殺そうとしたのです。このくらい当然です。ただし、情状酌量を考慮して1日を1時間にしますね」
なんだかんだで円満解決した気がするが気のせいだった様だ。
彼女たちは本当にスライム地獄の刑に処された。開放されたのは1時間……内部での3時間後だった。嫁たちの怒りを知った出来事だった。