マナ
私は小人族のマナ。
縁あってユーリさんに買われ……訂正。助けて貰った。
買われたなんて言い方だと私が娼婦の様に聞こえかねない。それにあの地獄から助けて貰ったと言うのが真実だ。
私は戦争により難民となった所を襲撃にあい男たちの慰み者として生きてきた。
そこへやって来たユーリさんがオークションで私を落札したのが馴れ初めだ。
理由はその方が救出し易いと思ったからだと言っていた。
そして、その後にユーリさんの寵愛を頂き嫁として嫁いだだけの話である。
「ミズキ様。こちらの掃除終わりましたよ」
そんな私だけど今はミズキ様の下で働いている。当然旦那であるユーリさんが優先だけどそれ以外ではこの方を優先している。
「マナ、お疲れ様です。ですが、何度も言うとおり"様"付けはいりませんよ? 貴方も私と同じお嫁さんなのですから」
「しかし、ミズキ様は……」
今は亡き私の祖国の王女。本来なら声を掛けることすら出来ぬ天上のお人なのだ。
「今はただのメイド……主婦ですからね。ユーリさんと愛しあってスルガが生まれましたから」
スルガ様はユーリさんとミズキ様のお子様だ。
お父様の影響で普通人族に生まれたが、ミズキ様たち王家特有の甘栗色の髪をしている。
「それにもう終わった話です。マナの様な元国民には申し訳無いですが、今更国を興す気は有りません。だから、一介の村娘程度に扱って下さい。私は貴方と友達の様に接したいですから」
友達になるのは良いけど、村娘にしては高貴過ぎませんか?
まぁ、ここの基準からするとそう見えなくはないですけど……。
「……分かりました。それでは友達として"ミズキさん"と呼ぶ事にします。呼び捨てにするのは勇気がいりますのでその内に……」
「ええ、貴方の好きなタイミングにお任せします。いつか、ちゃんと呼んで下さいね」
「ええ、必ず」
「さて、私の方も掃除が終わりましたので、一緒にお茶でもどうです?」
「ミズキさんのお茶!喜んで!!」
ミズキさんが淹れてくれるお茶はユーリさんたちが絶賛するだけあってとても美味しいのだ。私も一度頂いてからは病みつきになってしまった。
「なら、私からは秘蔵のお菓子を提供しますね♪」
せっかくだからユーリさんとのデートで買った和国の甘味を提供する事にした。
「まぁ、楽しみです」
それを聞いてミズキさんも嬉しそうにしている。これは奮発するかいが有りそうだ。
「楽しそうだな。ミズキとマナは」
「「あっ、ユーリさ……」」
私とミズキさんはユーリさんの声に反応して振り返ると。
「もがぁああーーっ!」
口枷の上、簀巻きにされた少女を猫の様にぶら下げて見せられた。
「「誘拐?」」
「攫ってませんがっ!?」
「ユーリさん……小さい娘が好みだからって連れて来るのはどうなんでしょう? 尽くしてるつもりなんですけど私たちではダメなんですか?」
「そうです。小人族以外が良いならマリーさんやクレアがいるじゃ無いですか?」
簀巻きにされた少女はエルフ程長くないが尖った耳をしているから小人族で間違いないだろう。
「大っきい人も好きだよ!?」
でも、平均的に小さい娘が多い気がする。160を超えている娘は両手で数えられる訳だし。
「胸ですか……ユーリさんは酷い人ですね。これでも大きくなりましたよ?」
「知ってるよ!俺も付き合ったからな!!」
ミズキさん秘伝の豊乳マッサージ。
男性に協力して貰い女性ホルモンを刺激しつつ、マッサージを行うのだ。その効果は絶大でミズキさんは小人族にしてはなかなかの大きさをしていた。
「まぁ、冗談はこれくらいにしてその子は誰です」
「心臓に悪いんだけど……。後、その子じゃなくて"たち"だな。ギンカ」
「ミズキ。マナ。この子たちは知り合いですか?」
ユーリさんに呼ばれて後ろから現れたギンカさんは同じ様に拘束された小人族の少女たちを脇に抱えていた。
「もし知り合いなら許可を。私のデートを妨害した罪を償わせたいので……」
「「「!?」」」
「ひっ!?」
私はギンカさんから漏れる殺気を受けて恐怖で怯えた。それは両手の小人族たちも同じなのか真っ青になって静かになった。
「デートの妨害ですか……酷いことをするものですね」
ミズキさんには堪えてないらしく、いつも通りに話している。どうすればそこまでの胆力が増すのか気になる所だ。
「しかもユーリさんを何度も殺そうとしたのです」
「ユーリさん……を?」
「はい」
「………(ニコッ♪)」
「ひいぃ!? こっちも!?」
話を聞いて笑顔になったミズキさんからギンカさんに匹敵する程の殺気が漏れてきた。相当ご立腹の様だった。
ちなみに、私はもうこの恐怖に耐える事が出来ないかもしれない。
「お仕置きが必要そうですね」
そう言ったミズキさんは自分のスカートをたくし上げると足に巻きつけられた杭が出てきた。それから杭を一本引き抜き前へと掲げた。
「解放」
それは杭にかけられた封印を解放するワードだったらしい。杭は姿を変えて真紅に染まった禍々しい槍へと姿を変えた。
そして、それをユーリさんが持つ小人族へと構え突いた。
「こっ、殺しちゃダメッ!?」
マズい!ミズキさんはこの殺気からして完全に殺す気だ!
私は止めようとしたが恐怖で身体が動かずその上目まで閉じた。結局私が出来たのは制止の声をあげる事だけだった。
「マナ。大丈夫」
「ユーリさん……」
ユーリさんの声でゆっくりと目を開けるとミズキさんの槍は小人族を縛った紐に触れるか触れないかのギリギリで止まっていた。
良かった……。本当に殺す気は無かったみたいだ。
しかし、やられた当人はたまったものじゃない。本当に刺されたと思ったのだろう。服には染みが広がりグッタリしていた。ズボンだった事に感謝すると良い。
「次は2人の番ですね」
ミズキさんの目がキラーンと光ると残りの2人を見据えていた。
2人は位置と仲間の状況から殺されたと思ったのだろう。恐怖でパニックを起こし暴れていた。
「仕方ない。平穏なる小世界に行こうか。あそこならいくら騒いでも問題ないし。マナはアイリスとマリーを呼んできてくれ」
「承知致しました」
おそらくアイリスさんの能力で尋問するのだろう。
私は彼女たちに同情しながら2人を呼びに行くのだった。




