ライムのその後
今日久しぶりに学校へ行く。
ドラグナード学院は教師の多くが取り締まられたこともあって一時休校となっていた。
今回の件で我が家もゴタゴタしていたからちょうど良かった。
「おはよう」
ボクはいつも通り挨拶をして教室へと入った。
「あっ、ライム!おは……!?」
『!?』
登校していたマロンから挨拶を返される……と思いきや今日は途中で止まった。目を白黒させて驚いていた。
そして、それはクラス中が同じだった。
「どうしたの、マロン? そんなにも驚いた顔になって?」
ボクは彼女の側に行き自分の席へと着いた。
「らっ……」
「ら?」
「ライムがスカート履いてる!? いつも男物しか着て無かったのに!?」
「えっ? そこに驚いたの? ボクは女の子だからおかしくないだろ?」
確か私服もズボンばかりで、ドレスくらいしかスカート物は持っていなかった。
『女の子!?』
しかし、クラスメイトにとってはスカートよりもボクが女の子だった事の方が衝撃だったらしい。直ぐに多くの生徒が詰め寄って来た。
「凄い! ボサボサだったライムの髪が綺麗になってる!!」
「リリィさんが痛んだ髪を気にしててね。薬用高級シャンプーをくれたんだ」
お陰であの日から髪質は本来の物に戻った。
以前は適当に洗うだけで放置していたけど、せっかく元に戻して貰ったのだからちゃんと手入れをしようと思う。
「えっ? 本当にライム君は女の子なのっ!?」
「嘘じゃねぇよな!?」
「うん、本当だよ」
皆信じられないといった表情をしていた。
特に男子生徒の中には後悔しているのか教室の隅で打ちひしがれる者もいた。
「そっか〜、ライムは体育をしないから皆気付いてなかったのか〜。ライムはれっきとした女の子だよ」
嬉しそうに言うマロン。何処から出したのか、その手にはブラシが握られておりボクの髪で梳いたり編込みを始めたりしていた。
「ねぇ、ライム。そのヘアバンドはどうしたの?」
「シズ……ユーリさんに貰った」
「シズさんじゃなくてユーリさん?」
「シズさんの本名がユーリ・シズだったんだ」
「ユーリ……シズ」
髪を梳いてくれていたマロンの手がピタリと止まった。
「どうしたの?」
「ううん。何でも無いの。ただ知ってる名前に似てたからね。……まさか、例のハーレム王じゃないわよね? でも、シズさんはそんな風に見えないし……」
マロンの後半は小声でボソボソ言っていたので良く聞き取る事が出来なかった。
「それで制服を変えた理由は?」
「この前破けちゃってね。他の服もボロボロだったから一新したんだよ」
会議室で教師に突き飛ばされた時に制服は破れて使い物にならなくなった。その為学校側から謝罪と共に新しい制服が渡された。
しかし、それは完全に女子生徒専用だった。今まで持っていた物と交互に着ると違和感が凄い。
なので、これを機に今まで使っていた物を一新したのだ。
「という事はこの状態をずっと見られるということ?」
「やったー!」
いつもみたいにマロンが抱き着いてきた。いつもならこれで終わるのに今日は違った。
「マロンばっかりズルい!」
「私も可愛いから抱き締めたかったんだ!」
何故かマロン以外の女子も混じってきてもみくちゃにされてしまった。
『良いなぁ〜』
それを眺める男子生徒の視線は代わりたそうにしていた。
代われるなら代わってくれないかな?
思いの外圧力が凄くてキツかった。
「マロン。放課後に付き合って欲しい場所があるんだけど良いかな?」
「良いよ」
マロンは場所も聞かずに即答した。本当に大丈夫なのだろうかと心配する。
放課後。
「………………ようやく帰る。よし、行こうかマロン」
「なんか凄く疲れ切ってるね」
「そりゃあ、あれだけもみくちゃにされて、その上告白されまくったら疲れるよ」
女子生徒には愛でられて体力を消耗した。
男子生徒には以前とのギャップによるブーストなのか可愛いと褒められて告白された。当然全て断ったが、その際に気を使ったりして精神的に疲れた。
というか、今まで無下にしていた子が女らしくなったからって手のひら返す人に応えると思っているのだろうか?
「それで何処に行くの?」
「セリシールのVIPルーム」
「ええっ!? あそこは貴族でもなかなか入れないって聞くよ!?」
「入る為の合言葉を教えて貰ったんだ。それを試しに行くんだよ」
「よし行こう!直ぐ行こう!さぁ、行こう!VIPルームに入るとお菓子食べ放題ってカリスお姉ちゃんに聞いたもん!!」
「好奇心より食い気なんだね」
ボクは急ぐマロンに手を引かれながらセリシールへと向かった。
セリシールがどんな店かは聞いていたが、噂に違わぬ人気っぷりだった。
店の周囲には甘い香りが漂い自然と店に引き寄せられる。店前ではお菓子が出来る光景が見れてそれが美味しさを期待させていた。
「いらっしゃいませ。お2人様でしょうか?」
店内に入ると直ぐに可愛らしい服装をした店員がやってきてくれた。ボクとそんなに年が変わらない子が働いていて驚いた。
「はい。そうです」
「お2人様だと15分ほどお待ち頂く事になりますが構いませんか?」
「いえ、そうでなくて。え〜っと……"桜の花は何処ですか"?」
「………(ピクッ)」
合言葉を言った瞬間、笑顔だった店員さんの雰囲気が変わった。
そして、相手を見定める様な視線がボクに向けられ緊張する。
「それは何方から聞きましたか?」
「ユーリさんから直接……」
「ユーリさんから……」
何かやらかしてしまったかとオロオロしていたら、店員さんは元の柔らかい笑顔へ戻っていた。
「その感じ……嘘じゃないみたいですね。ごめんなさい。怖がらせて」
「いっ、いえ……」
「それじゃあ、直ぐに案内しますね。オーダー!『オウカ』入ります!!」
『………』
店員さんがそう言うと全店員の目がボクたちに向けられる。
「らっ、ライム!?」
その光景にマロンが怯えてボクの服を掴んできた。
「だっ、大丈夫だよ」
「安心して下さい。危害を加える気は有りません。皆は好奇心から貴方たちを見ただけです。怖がらせたのならごめんなさい。さぁ、こっちへ」
それからいくつかの扉を越えて以前来た部屋へとやって来た。
「凄い!ここがVIPルーム!? 高そうな家具が一杯だ!」
「マロン。ここに来るのが目的じゃないよ」
「えっ? そうなの?」
「なるほど。本当に客人なんですね」
「はい、お願いしても?」
「ええっ、今開きます」
店員さんが何も無い壁に触れると掛けられていた魔法が解けて精巧な細工が施された扉が姿を現した。
「扉!?」
驚くマロンをスルーして店員さんは扉に鍵を挿した。すると扉に閃光が走り開き広い空間へと繋がった。
「この後の案内はいりますか?」
「えっと……大丈夫だと思います。困ったら談話室に行きます」
「なら、大丈夫ですね。それでは迷子にならない様にお気をつけて。あっ、ついでにリゼとエヴァは今日早く帰りますとユーリさんに伝えてくれませんか?」
「分かりました」
ここで店員さんと分かれて地下を進み階段を登る。地下に出ると出迎えてくれる人がいた。
「はぁあ!?」
その人を見たマロンが驚きのあまり硬直した。まぁ、無理もないだろう。彼女はマリアナ様の顔を知っているのだから。
「いらっしゃい、ライムさん。ユーリさんなら外に居ますよ」
「外ですか?」
そういえば屋敷の外に出た事は無かった。外にはユーリさんの領地が広がっているそうだけど、どんな場所なんだろう?
「そういえば、まだでしたね。私で良ければ案内します」
「本当ですか? ありがとうございます」
ボクたちはマリアナ様の案内で屋敷の外に出た。




