表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

319/484

その頃、裏ではこうなっていた。

 潜入調査は、学院長の遠縁に当たりコネで入った用務員という事になっていた。調査の邪魔がされない様に周りが関わりたくない中途半端な身分だった。


「レギアス様からお話は伺っております。この部屋を自由にお使い下さい」


 案内も学院長がかってくれた。そして、案内された職場は誰も使っていない空き部屋だった。


「ここでしたら部屋を出るのに同僚から呼び止められる事も無いでしょう」


「確かにその方が動きやすくて助かります」


「それでは仕事なのですが……」


 学院長は凄く言い難そうにしている。レギアスさんから俺の事を聞いているだろうから遠慮しているのかもしれない。


「魔法を使うので多少多くても構いませんよ?」


「そうですか。でしたら、こちらが今行ってる者たちの仕事内容になります。この中からお選び下さい」


 見せられたリストから広くて人があまり使わない場所を優先的に選んだ。


「それでは何かお力になれる事が有りましたらお声掛け下さい」


 そう言って学院長は帰って行った。なので、俺は早速行動を開始する。


「魔力感知!」


 アイリス程の範囲や精度は高くないが俺の感知でも十分に敷地全体を把握出来る様だ。だが、人が多過ぎて細かく見辛い。


領域模型(テリトリーモデル)


 空間魔法の一種で感知出来る範囲を模型として生み出す事が出来る。

 それによって生み出されたドラグナード学院の立体模型には生徒たちの姿も含まれる。現在人生ゲームのピンサイズの人型が教室や廊下を闊歩していた。


「純粋な魔力感知より効率悪いから使わなかったけどこういう場面だと便利だな」


 魔力を込めれば込めるだけ模型の精密さは上がる。現在のレベルだと手足の動きまで再現出来ている。


「これで魔力の動きまで見れれば完璧なんだけどな。……うん?」


 魔力感知で魔法の行使を感じた。

 模型を見ると校舎の影に4人いる。状態からして虐めの様だ。


「………」


 認識した瞬間、俺は後先考えずに飛び出していた。昔虐められた立場から放っておく事が出来なかったのだ。

 その後、虐めに介入した俺はライムを救い出した。

 ライムはクラスメイトの魔法で怪我をしていたので保健室へと連れて行く事にした。


「なっ、リリィ!?」


 そしたらそこには居ないはずのリリィの姿があった。


「ヤッホー、ユ……シズ君。面白そうだから来ちゃった♪」


「マジか……助かるっちゃ助かるけど……」


 調査を行う以上人手が多いのは助かる。場所が違えば聞けることも変わってくるだろう。

 しかし、バレるリスクも同時に高まるので注意が必要だ。

 俺とリリィはライムから離れてその事も含めて話し合う。


「安心して。私はここから出歩くつもりは殆ど無いわ。ここには自然と人が足を運ぶしその人たちからの情報を渡してあげる。

 それにさっきは面白そうと言ったけど、実際はここの保健医が知り合いでね。里で不幸があったから帰るまでの間代理を頼まれたのよ」


「店は良いのか?」


「いつもなら断るんだけどね。今はメーアが居るから任せているわ。これも勉強よ。本当に困ったら聞いて来るように言ってあるわ」


「なら、大丈夫そうだな。俺も空いた時は見に行くよ。それでライムの話はどう思う?」


「母親は確実に絡んでるでしょうね。そこまでして就職させたいとか……。ねぇ、必要有るの? あの子竜種よね?」


「そうだよ。見た目はさておき魔力は竜種特有のものだ」


 ボサボサの髪に市井の子供たちより質素な服装だが、竜種特有の濃厚で威嚇する様な魔力をライムからは感じた。


「おそらく就職先が国営という事が重要なんだと思う」


「……それが本当ならふざけた話よね。身嗜みを整える時間すらも削って努力に当てさせてその程度だなんて」


 俺も怒っているがリリィの方が怒りは上だった。

 確かに竜種なら国営機関への就職を求めれば高確率ですんなり通るだろう。竜種にはそれだけの潜在的なスペックがあるからだ。


「リリィは他でもそういう噂が無いか調べてくれ。そういう話は成績の悪い子や出席日数の足りない子に来そうだしな」


「任せて!」


 リリィとの打ち合わせが終わったのでライムの元に戻る。次は虐めの解決に当たる事にした。

 俺がライムに虐めた子の名前を聞くと嫌がった。教師からの説教とかが手っ取り早いがそれは嫌らしい。なので、クラスメイトと仲良くなる手段を提示した。

 運が良い事にアイテムボックスの中にセリシールの限定トランプを入れていたのでプレゼント。それで遊べば少しは友達が出来るだろう。


「ありがとう!」


 プレゼントすると大切そうに持って帰った。


「さて、仕事を再開しますかね?」


 これから学食へと向かう。あの場所は最も人が集まり情報の行き交う場所だからだ。

 運が良い事にセリシールの従業員にここのシェフと知り合いがいた。彼経由で話を通して料理を教える事を条件に噂話や教員の話を集めて貰う事になった。


「シズさん!遊びに来たよ!」


「いらっしゃい」


 ライムと出会って数日が過ぎた。どうやら懐かれたらしく休みの度に遊びに来る様になった。

 友達も出来たのか数人連れてくる。だから、一緒に遊ぶ様になった。

 レギアスさんの依頼は、リリィやシェフの協力と俺が掃除の際に仕掛けた盗聴魔法によってあっさりと情報が集まった。後は現場を抑えるだけなので手持ち無沙汰になっていたこともある。


「今から仕事なんだわ」


 とはいえ、用務員として入ったので仕事もする。ついでに盗聴魔法の状態確認も行うのが日課だ。

 しかし、その日はライムたちも付き合うと言い出したので連れて行った。魔法で行うので人手は関係ないけれどね。

 そして、終わった後には彼らは呆然としていた。少し見栄を張ってやり過ぎたかもしれない。

 だから、放課後彼らにつけられることになった。


「ユーリ。生徒たちがつけてきてるよ?」


「あれは……ライムたちだな。路地裏で撒くから大通りに返してくれ」


 いつも放課後に俺の尾行者がいた場合、逆に追跡する為に来ていたアイリスから念話を貰った。

 俺は路地裏に入ると脚力強化で屋根まで跳躍した。それから精霊魔法を使って姿を消してつけて来たライムたちの様子を観察した。

 ライムたちは案の定俺は見失って困惑している。そこへアイリスが現れて大通りへと帰してくれた。


「うん? あれは確か……?」


 精霊魔法で身を隠したまま俺も大通りに出るとライムに近付く母親の姿があった。

 俺はこの機会を利用しようとアイリスも精霊魔法で隠し2人の帰りを尾行した。道中アイリスに調べて貰うと真っ黒だった。


「ライムちゃん、可愛そうだね……」


 今から自室に閉じ込められて2週間ほど勉強させられるらしいとアイリスに告げられた。


「あっ、母親が魔法の家庭教師を探してるみたいだよ?」


「それなら伝手を使って介入出来そうだな。近くで調べた方が分かる事もあるし早速動こう」


 俺は追跡をアイリスに任せてレギアスさんを尋ねた。彼に現状も踏まえて話すと紹介状を書いてくれた。ついでに話も通してくれるとの事だった。どうやらライムの家は親戚筋に当たるらしい。

 その後、アダムスの所に行って魔法学校の卒業証書を偽装してくれないかとお願いした。以前のダンジョンの件も有るので今回だけ特別に発行してくれた。

 俺はそれらを持ってライムの母親の元を尋ねるとあっさりと家庭教師になる事が出来た。

 そこからはライムと魔法の勉強したり旅に連れ出したりと楽しい1週間を過ごした。

 そして、ライムが再び登校し始めて数日経った頃、仕掛けていた盗聴の魔法で秘密の集まりがある事を知った。ライムの母親も参加する様だ。


「それじゃあ、お片付けしますか」


 秘密の集まりを押さえれば依頼は終わる。押さえなくても母親と担任の会話から家庭教師の正体が用務員だとバレてる事は分かった。続ける事は困難だろう。だから、部屋を片付けていたらライムが駆け込んで来た。


「シズさん! 用務員を止めるの!?」


 開口一番にライムは泣きそうな顔でそう言った。

 でも、嘘を言うわけにもいかず真実を言うと部屋を駆け出して行った。

 その後、秘密の集まりが行われる場所で魔力の反応があった。直ぐに向かうと部屋の前にライムの母親がいた。


「あらあら、シズ先生。そんなみすぼらしい格好をして何をなさっているのかしら?」


「マダム。ライムは何処ですか?」


「ライムちゃんなら先生たちの手厚い施しを受けている所ですわ」


 母親の後ろの部屋は会議室だったか?

 そこには入退出を防ぐ為の結界と外部へ向けた認識阻害の魔法がかけられていた。


「……何故そこまでしてライムを国営組織への就職させたいんですか? 分かりかねます。あの子の種族と成績なら何処でも通用しそうですのに」


 あまり時間がないが、これはとても大事な事なので母親を問い質す事にした。


「何故って決まってるでしょ? 私のステータスの為よ。我が子が良い所に勤めれば私の評価は上がります。竜種の夫と結婚したのもそう。ただの力あるトカゲを売って私の評価が上がるのなら安い物でしょ?」


「………」


 正直よく分からないがプライドの高い人だという事だけは分かった。


「ふ〜っ、性もないなぁ〜。マジでライムが可愛そうだわ」


 俺はフラガラッハを剣の状態で出して構えた。それを見て動揺する母親。


「あっ、貴方一体何をっ!?」


「ライムを助けるだけですよ。マダムは後で尋問させて頂きます。それまで寝てて下さい」


「それはどういう……えっ? なっ、何が起こっ……くうっ!?」


 母親の背後にある壁を斬ると何が起こったのか分からず彼女は困惑した。そこを殴って気絶させる。ついでに悪夢を見る様に魔法もかけておいた。


「悪夢にうなされてろ」


 それから部屋に入るとライムが怯えて震えていた。


「シズさん……」


 消え入りそうな声で呼ばれたので安心させる意味合いも込めて何時も通りに声をかけた。


「呼んだか?」


「えっ?」


 その時のライムの驚いた顔と言ったらなかった。鳩が豆鉄砲を食らった様なという程にポカーンとしていた。

 それから魔法で教師たちを叩きのめした。外から様子を見に来たアイリスにライムを渡して事後処理に当たる。

 まずは盛大に部屋を壊した事で人が集まってきた。その処理を学院長に依頼。

 それから魔法で半殺しにした教師と気絶した母親を騒ぎを聞きつけてやって来た騎士団に引き渡した。レギアスさんが事前に手を回していたのか、引き渡しはスムーズに行われた。

 そして、レギアスさんに報告を終える頃にアイリスから念話が届いた。


「ライムちゃんの治療と着替えは家でやったから早く帰宅してね。面白いモノが見れるよ♪」


 面白いもの。俺はその言葉に期待しながら直ぐに転移門を潜って我が家に帰ると談話室にて衝撃の光景を目にする事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ