シズさんの謎
シズさんの言う通りお手伝いは直ぐに終わりボクたちは先に元空き部屋へと帰ってきた。シズさんはゴミを片付けに行っていない。
「凄かったね……」
『うん……』
ボクたちはシズさんの掃除を見て未だに放心していた。
それというのもシズさんが掃除の為に行った魔法の数々に驚かされたからだ。
「中級魔法の詠唱破棄に……」
「各種精霊魔法……」
「超一流の魔導師じゃん。何で用務員なんてやってるのかな?」
その疑問がボクたちの中に渦巻いていた。
「そういえばトランプくれたのもシズさん何だっけ?」
「うん……」
「アレさ。店員に聞いたんだけど優良客に配った物で10個。後はオーナーのユリシーズさんが配った物くらいしかないらしいよ。しかも、素材に特殊な鉱石が使われているんだって」
「えっ、そうなの?」
ボクはポケットに入れていたトランプを取り出して改めて見た。
「確かに曲がらないし傷も付かないから妙に丈夫だと思ってたけど……」
まさか鉱石を加工した物だとは思いにも寄らなかった。
「ユリシーズっていえば有名な冒険者だったよな? なら、その知り合いかもね? あれだけ色々な魔法を行使する訳だし」
「シズさんの謎は深まるね」
「そうそう謎といえば、シズさんってさ。妙にリリィ先生と仲良くねぇ?」
「あっ、あの凄くエロい先生だね」
リリィさんはあの容姿もあってすっかり学校では有名人とかしていた。
「私、リリィ先生がシズ先生に抱き付くの見たよ。2人は出来てるのかな?」
「でも、あの人は子持ちの人妻らしいよ」
「なら、違うかもね。それか浮気か?」
シズさんに限ってそれはないだろう。
皆も内心そう思っているのか何も言わなかった。
「誰が浮気だって?」
『っ!?』
「なっ、何でもないよ!」
「怪しいな。なんか隠してない?」
「隠してないよ!ほら、一緒に遊ぼう!」
「ふむ……」
問い質したそうなシズさんを押してゲームへと誘った。
今日用意したのは『ダイヤモンドゲーム』と呼ばれる物らしい。自分の陣にあるピンを対称にある陣へ全て移動させる速さを競うゲームだ。
「これはな。知り合いに頼んで作った特別製なんだよ。本来はボードの形が六芒星なんだけど八芒星だろ?」
「へぇ〜、そうなんだ」
それからボクらはゲームを始めた。終わる頃にはシズさんはすっかりと忘れてくれていた。
放課後。
「なぁ、シズさんをつけてみねぇ?」
「えっ?」
最近親しくなったクラスメイトの男の子から誘われた。
「良いね!面白そう!」
「私も知りたい!」
これにはマロンたちも参加の意志を表明した。
「えっ、でも……」
「ライムも気になってるんだろ? なら、行こうぜ」
「ほら、速く!」
「あっ、ちょっと!?」
ボクは皆に手を引かれて教室を飛び出した。
今までにこういう経験は無かったから嬉しい反面、シズさんの迷惑にならないかと心配になった。
それでもシズさんの事を色々知りたいと思ったから結局ボクは後を付ける事にした。
「何処に行くんだろう?」
シズさんは仕事が終わると直ぐに学院を出て王城へと続く大通りを真っ直ぐに歩いていた。
「曲がり角から路地に入るぞ」
「見失わないように距離を詰めよう!」
ボクたちは急いで曲がり角へと向かいシズさんの姿を見ると安堵した。
しかし、それを数回続けた所でとうとう見失ってしまった。
「いっ、行き止まりだ!?」
「嘘っ!? ここまで曲がり角は無かったわよ!?」
曲がったと思い近付いて覗くとそこは建物外壁に囲まれた行き止まりだった。
ボクたちは壁に触れてみるが抜け道の様な隠し通路は見当たらない。
「一体何処に……」
「ねぇ、君たち。ちょっとお話良いかな?」
『えっ?』
ボクたちが振り返ると路地の入口に青い髪をした綺麗なお姉さんがいつの間にか立っていた。
お姉さんは近付いてくるといきなりしゃがんでボクらの頭を優しく撫でた。
「子供たちだけでこんな所にいたら危ないよ」
その撫で方に優しさを感じたボクたちは素直に謝った。
『ごっ、ごめんなさい』
「謝らなくても大丈夫だよ。私が心配しただけだからね」
そう言うとお姉さんは振り返り指差した。
「開けた所まで送ってあげるね。もう人を付けたらダメだよ?」
「あっ、はい……」
それからお姉さんに見送られて大通りへと出た。
「またね。ライムちゃんたち」
『ありがとうございました』
ボクたちがお礼を言うとお姉さんは去って行った。
「……なぁ、いつ俺たちが人をつけてるなんて言ったっけ?」
『えっ?』
確かに誰もそんな事は言っていない気がする。なのに彼女はそれを知っていた。
更に、おかしな点もある。彼女はボクの名前を知っていたのだ。
「私も少し喋った時にマロンってはっきり呼ばれた」
「俺もだ」
「私も」
「どういう事だ……?」
『う〜〜ん?』
ボクたちは突然消えたシズさんや先程のお姉さんへの疑問で頭がこんがらがった。
「まぁ、私たちの会話から判断したのかもしれないし気にしないでおこうよ」
結局ボクは考えるのを止めた。
シズさんに迷惑を掛けることもなかった訳だし、それに皆との追跡はドキドキして楽しかった。
でも、この行動は間違いだったのかもしれない。
「ライムちゃん?」
「っ!?」
ボクは名前を呼ばれた瞬間、背中に氷を入れられたかの様に悪寒が走った。
なんせその声はとても聞き覚えのある母親の声だったからだ。
「帰りが遅いと思って来てみれば何をしてるのかしら?彼らは何?」
「あっ、あのっ、これはボクの友達で……」
「まぁ、友達なの? クラスメイトは皆敵だから喋るなと言ったわよね?」
「でも……」
『………』
ボクと母親のやり取りを見て色々察したのか、皆は無言になっていた。
「……あっ、ライム悪い。今日は帰るわ。またな」
「私も帰るね。私たちのお願い聞いてくれてありがとう。またね」
「付き合わせてごめんね。また明日」
それから今日は帰った方が良いと思ったのか、皆は帰ることにした様だ。
「また明日……」
ボクが挨拶すると皆は振り返って笑顔で手を振って帰っていった。
まだ友達の繋がりが残っていた事に嬉しくなった。
「ライムちゃんには躾が必要な様ね」
「えっ?」
「明日からの数日間学校をお休みしましょう。私が良い家庭教師を探してあげるわ。その人に指導して貰いましょう」
「そっ、そんな!?」
こうしてボクは母親に見つかった事で学校を休む事になった。




