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イジメの原因

 シズという用務員さんに救われたボクは彼の背中に背負われて治療の為に保健室へとやって来た。


「急患です。先生はいますか?」


「は〜い、ここにいますよ〜」


 シズさんの声を受けてベッドの一画に設置されたカーテンが開く。そこから白衣を纏ったエルフの女性が出てきた。


 あれ? 保健室の先生ってエルフだっけ?

 しかも彼女はダーク種なんじゃないかな?


 ボクの記憶が正しければ保健室の先生は獣人のお婆さんだった。それが非常に珍しいエルフのダーク種に変わっていたのだ。

 そして、彼女はシズさんの知り合いの様だ。


「なっ、リリィ!?」


「ヤッホー、ユ……シズ君。面白そうだから来ちゃった♪」


「マジか……助かるっちゃ助かるけど……」


 背中に背負われているせいでシズさんの顔が見えないが、多分困った顔をしている気がした。


「それで治療だっけ?」


「あぁ、そうだった。頼むよ」


「じゃあ、このベッドに座らせてね」


 リリィと呼ばれた保健医が出てきたベッドに連れて行かれてボクは縁に腰掛けた。それから傷口を見て貰う。


「軽い火傷ね。これなら直ぐに治るわ。というか、シズ君は治さなかったの?」


 リリィさんが魔法で治療しながらシズさんへと聞いた。彼は済まなそうな顔をしながらボクに頭を下げて謝罪した。


「すまん。治そうと思ったけどこっちの都合で出来なかったんだ。本当に済まない」


「いえ、助けて貰った上に保健室まで運んで貰い助かりました」


「君は良い子だな」


 そう言ってシズさんはボクの頭を優しく撫でた。両親にされた事が殆ど無いから凄く嬉しい気持ちになった。


「それで何があったのかしら?傷からして攻撃魔法よね?」


「ああ、そうだった。ライムだっけ? 君はどうしてイジメられていたんだ?」


「イジメ? シズ君詳しく」


 ボクたちの状況を知らないリリィさんが説明を求めてきた。


「実は怒った男子生徒たちに囲まれて魔法で攻撃されてた。俺が間に合ったから良かったけど危うく大怪我になる所だったんだ」


「学院内における魔法使用は授業以外で禁止よね?」


「うん」


「ねぇ、ライムちゃん。貴方を攻撃した生徒を教えてくれないかしら?担任には報告しないといけないし……」


「彼らを罰する為にもな」


「ええっ!? そこまで大事にしなくても!?」


 大事に発展しそうな雰囲気にボクは慌てた。


「でもな……」


「それにボク自身も原因なんです!クラスメイトとは極力喋らない様にしてて……なのにアイドル的な子とは幼馴染だからよく喋るし……」


「嫉妬が絡んでるのかもね?」


「なぁ、どうして幼馴染以外とは喋らないんだ?」


「学院の皆は敵だから喋らなくて良いって母親が……」


「「敵?」」


「この学院を高成績で卒業すると先生が国営組織へ入れてくれるんだって。だから、ボクの邪魔をする人は皆敵だって言ってたよ」


「ちょっ、ちょっと待て。それは本当か?」


 それを聞いてシズさんが少し慌てた。


「えっ? うん、担任の先生と母親が話しているのを聞いたよ」


 ボクがそう言うとシズさんたちは顔を見合わせた後、「少し待ってて」と言い2人は離れて内緒話を始めた。

 離れ際にシズさんがミルクティーを置いていく。


「特製のミルクティーだよ。飲むと落ち着くから」


 ボクはする事もないのでそれを一口飲む。


「ほぁ〜……」


 シズさんの言う通りほんのりとした甘さと温かさで身体がリラックスしていく。


 ミルクティーって滅多に飲まなかったけどこんなにも落ち着くものなんだな。

 ミルクは貴重だから遠慮してたけど、これだけリラックス出来るならそれを理由にお強請り出来るかも……?


「ミルクティー美味かったか?」


「あっ、シズさん」


 ボクがミルクティーについて考えていたらいつの間にか2人は帰って来ていた。


「落ち着いた様だし。本題に入ろう」


「本題ですか?」


「あぁ、君はどうしたいんだ?」


「えっ?」


「人生ってある日突然終わる事があるんだ。それに母親の言う通り卒業して就職してもまだその先がある」


「うん……」


「これは君の人生だ。母親の物じゃない。だから、君が後悔しない選択を選ぶべきだ。俺たちで良ければ力になるよ」


「私なんてとても長生きしてるからね。人生の先輩として色々教えてあげるわ。当然夜の事もね」


「いや、それは要らないでしょ!」


「あら、そう? 本当の大人になる為には……」


「年齢に達したら公的に大人ですからね!」


「なるほど。シズ君が教えたいのね。分かったわ。お姉さんは手を引くわ……混ざって良いなら呼んでね?」


「そんな気はねぇよ!? お願いします!空気を読んで下さい!」


「うふふっ……」


 2人のやり取りを見ていたら悩んでいた自分がなんか馬鹿らしくなってきた。


「それでライム。君はどうしたい?」


「ボクは……皆と遊びたい。でも、勉強も嫌いじゃないから続けたい」


「良し!やっと本心が言えたな」


「だけど、勉強ばかりやってて皆のする遊びを知らないし話題も分からないから声がかけられなくて……」


「なるほど。なら、これから始めよう」


 そう言ってシズさんは空間へと手を入れた。

 そういえば、ミルクティーがいきなり出てきたと思ってたらコレか!

 ボクはシズさんがアイテムボックスを使う所を見て驚いた。アイテムボックスは空間系の適性と高魔力がないと使えない魔法だったからだ。


「有った。コレをあげる」


「これはトランプ?」


 シズさんに手渡されたのはトランプだった。


「出来るゲームは豊富だし。教室でやってる子を多く見かけたからな」


「確かにクラスでもやってる子を見かけるけどルールが……」


「それは今からやりながら覚えれば良いさ」


「えっ!? でも、今は授業中だから戻らないと……」


「あっ、授業の先生と担任には体調不良の為保健室で寝かせますって伝えて有るから大丈夫よ」


「いつの間にっ!?」


 ボクの知らない所で話が進んでいた様だ。

 でも、ボクの情報は教えていないのにどうしてそんな事が出来るのか不思議で仕方ない。


「助けた時に拾ったバッグだよ」


「あっ、そうか」


 移動教室の際には専用のバッグに教科書を入れていく。そこには所属クラスの表記がされていた。

 そして、午前中の科目は1課目という事もあって教科書は鉱石学しか入れていなかったのだ。


「さて、何からやろうかな?」


 それからボクは楽しい時間を過ごした。楽しい時間というのはあっという間に過ぎる物だ。


 キ〜ン♪ コン♪ カン♪ コ〜ン♪


 昼休みを告げる鐘が聞こえてきた。ボクは教室へと戻る事になった。


「ほら、やるよ」


「えっ、この鍵は?」


 帰り際にシズさんから1つの鍵を渡された。


「学生棟にある空き部屋の鍵。俺は用務員室じゃなくてそこに居るからな。何時でも来ていいからな」


「保健室でも良いわよ。歓迎するわ」


「ありがとうございます!」


 ボクは渡された鍵を抱き締めて教室へと帰ることにした。

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[一言] 寝具はベッド 鞄はバッグ
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