収穫と出産てんてこ舞い
夏の暑さも次第に落ち着きを見せ始めた今日この頃、平穏が売りの妖精の箱庭は大騒ぎだ。
「如月さんが破水しました!」
「マジか!?直ぐに行く!皆は引き続き収穫を頼む!」
『お任せ下さい!』
セリシールの従業員にも手伝って始まった収穫の時期に出産ラッシュが始まったのだ。
最初に始まったのはクレア。彼女は小さいながらも立派な女の子を出産した。
そして、現在如月たちの出産が始まった様だ。予定では今日の分の収穫が終わるまで大丈夫だと思われていたが早まったらしい。
急遽助産師さんたちを転移で迎えに行き対応して貰う事になった。
「如月頑張れ!」
「はいっ!アナタ!」
如月の手を握り締めて応援する。破水したという事は今からが本番なのだ。俺は精一杯彼女を元気付けた。
「生まれました!立派な男の……女?」
この助産師さんは男か女か分からず混乱していた。半陰陽の赤ちゃんを見るのが初めてなのだろう。
如月たちが翼を消しているから完全に人に見えるからなぁ。
「ほら、ぼーっとしない!天狗族のお子さんなら両方よ!」
「えっ、そうなの?」
「それより彼女の処置が終わったら他の2人よ。こっちも産む準備が始まってるわよ」
どうやら卯月と彩音も陣痛か破水か分からないが始まったらしい。
「如月。今はゆっくり休んで。後で一緒に名前を付けような」
「はい……」
如月の髪を撫でると出産で疲れ切ったのか、彼女は直ぐに眠りへと落ちていった。あまりにも直ぐに落ちたものだから少し心配になった。念の為に鑑定すると異常はなかったので安心して卯月たちの方へと向かった。
「あっ、ユーリさん。来てくれたんですね。収穫は良いですか?」
「聞きましたよ? 如月の子は無事に産まれたんですね」
部屋に入るとベットの上でリラックスした2人姿があった。その様子から陣痛が始まった感じも受けない。
「あれ? 陣痛が始まったみたいに聞いたんだけど……」
「「はい?」」
2人は顔を見合わせて首を傾げた。
「いえ、まだ起きていませんよ」
「そもそも私たちは予定通りの日に出産ですからまだ余裕が有るはずです」
「あっ、それもそっか」
予定では2日後に出産の予定となっていた。
「ごめんけど収穫に戻って良いか? 今年は豊作らしくて人手が足りないんだ」
俺が畑を増やし過ぎたからかもしれない。それかスキルで植えた作物たちがこの地にやっと適応したのかもしれない。
ダフネたちから妖精の箱庭全体の塩分濃度が低下したと聞いている。
「ええ、手伝えなくてすみません。頑張って下さい」
「心配して下さるなら首に巻いた汗拭きタオルを置いて行ってもらえると嬉しいです」
「………」
一瞬躊躇したが離れる訳だし渡す事にした。
「少しでも変化があったら助産師さんに伝えるんだぞ」
「「はい」」
2人の部屋を後にして畑へと戻る。
「テンタクルリーフが来たぞぉおおーー!!」
「逃げろぉおおーー!」
「いやぁああー!犯されるぅううーー!」
「収穫の邪魔!!」
男性陣を追いかけていたテンタクルリーフを収穫の邪魔なので斬り刻む。一部を残せば復活するので触手を1本畑に戻した。
斬った物は後でタコ焼きならぬテンタクルリーフ焼きにしてご飯として配ろう。そう思いながら作業を再開した。
「ユーリ様! 今度は卯月様が!!」
「戻ります!!」
今日の収穫予定分が終わりかけたくらいでまた呼ばれた。
「出来る分だけで良いから頼んだ!」
再び彼女たちの元へと戻る。卯月は部屋を移されており代わりに如月が寝かされていた。
「あっ、ユーリさん。卯月なら隣の部屋ですよ」
「彩音の方は大丈夫なのか?」
「ええ、心配して頂かなくてもまだ来てません」
「そうか。なら、良かった。卯月の所へ行くよ」
「卯月を元気付けて下さい。あっ、タオルは受け取ります。こちらを受け取り下さいませ」
「おう」
俺は彩音に渡されたタオルと交換して部屋を出た。
そして、違和感も無く渡した事に俺自身びっくりしていた。
「卯月、ファイト!負けるな!」
「はっ、はい!」
その後、卯月は無事に出産する事が出来た。産まれてきた子はやはり天狗族らしく半陰陽の状態だった。
「何か欲しいものはあるか?」
「でしたら、仙桃のゼリーが有れば欲しいです」
「今取って来るよ」
アイテムボックスに入っていなかったので冷蔵庫へと取りにいった。冷蔵庫にはまだ残っていたので彼女の元へと持っていった。
そして、小鳥の様に口を開けて彼女へと食べさせて和やかな時間を過ごした。
翌日。
いつ呼ばれるのかとビクビクしながら収穫するも呼ばれることは無く一日が終わった。
2日目。
今度は明け方から陣痛が始まった。俺は収穫を休んで彩音に付きっきりとなる。
だから、俺の服に埋もれて痛みを我慢するのは止めような。他の事なら許すから。
そして、夜になりやっとの事で子供が生まれた。子供には角がなく一見普通の人族の男の子に見えた。
「角は成長と共に出てきます」
「なるほどな」
「ユーリさん。頑張った報酬を下さい」
「報酬?」
「そのシャツを一晩お願いします」
「あ〜……どうぞ」
もうなる様にしかならないなと思い脱いで渡した。
「ありがとうございます」
彩音はシャツを抱き締めて襟に顔を埋めながら幸せそうに眠りへと落ちていった。
収穫を始めて5日目。やっと全ての収穫を終える事が出来た。
後は加工するなり保存するなりをぼちぼち行うだけだ。
「それでは如月たちの赤ちゃんの名前を発表します」
如月の赤ちゃんを月華、卯月の赤ちゃんを水華。
男性でも女性でも大丈夫な名前を選んでみた。
彩音の赤ちゃんは、翔馬と名付けた。
日本人の名前を付けたかったのと赤ちゃんの目が馬の様に優しそうな目をしていたからだ。
こうして新しい家族は増えて収穫も無事に終わった。夏も後1月で終わり秋へと変わるだろう。
そして、次はギンカの出産が控えている。
うちの子たちは全員無事だが、異世界の出生率から考え安心は出来ない。今の内から準備しようと思った。




