人魚たちの宴
海底からアイリスの結界に閉じ込められた深きものが打ち上げられた。その後ろを多くの人魚たちが付いてくる。
「これが最後です!」
最後というだけあって結界の中には2体ほどしかいない。後は進化前の魔魚が1匹いるくらいだ。
「了解。皆〜、残りは少ないから射撃は無しで良いよ」
嫁たちの攻撃が必要無いことを告げてフラガラッハを出す。
「アイリス。結界ごと斬っていい?」
「どうぞ」
俺は躊躇なく剣を振るい2体と1匹を仕留めた。
魔魚くらいは調理出来るかと思ったが、全体的に毒があるそうで食えない。だから、どちらも殺すしか無い。
「アビスコア」
重力球が死体を次々に喰らい。数分も経たずに結界内は空っぽになった。
鑑定して分かったのだが、両者の死体からは猛毒を精製出来るらしい。
それを知ってるからかアウラは後処理も頼んだのだろう。俺たちも悪用はゴメンなので、積極的に高位の魔法を使って跡形も無く消し去った。
「終了しました」
「海に平和が戻ったぞ!」
「やっと海水浴場として開放出来るぞ!」
「稼ぎ時だ!」
「これで、子供たちにも我慢させずに泳がせる事が出来るわ!」
「アウラが良い冒険者を連れて来てくれたおかげね!」
俺が終わった事を告げると大人の人魚たちは歓喜の声を上げていた。
そんな中、俺たちの側へやって来る人がいた。
「冒険者の方々。そして、アウラよ。長として感謝を言わせてくれ。本当にありがとう!」
「クエストを完遂出来て良かったです。これで海も平和になるんですね」
「ああ、君たちのおかげだ。アウラにも感謝が絶えないな。……少々下世話な話だが良いかな?」
「はい、何でしょう?」
「報酬とは一体幾らになって居るんだい?そこら辺をアウラに聞くと誤魔化されるんだよ。長としてはしっかり把握したいのだが……」
クエストに関する話は依頼主とそれを受ける冒険者が話す以外知る由がないので仕方ない。
「報酬は本人に聞いて下さい。俺が気軽に言える事では無いので……ですが、既にうちの嫁が貰っています。なので、これ以上は請求はしませんのでご安心下さい」
流石に自身を差し出したと長に告げるのは不味いだろう。
「そうなのか? なら、私たちの感謝を込めて宴を催したいのだが、参加してくれないだろうか?」
「それでしたら喜んで」
「ありがとう。お〜い、今から宴会の準備を始めろ!冒険者たちに感謝を示すんだ!」
長の指示を受けて大人たちが慌ただしく動き出す。
簡易テントにシート。机や椅子も並べられて、更にステージの設置なんかも行っていた。
「手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫です!冒険者様たちはゆっくりしてて下さい!」
手伝おうとしたら断られた。仕方なく嫁たちの所に戻って砂城造りに参加して精を出した。だって、誰も海に入ろうとしないのだ。今度はちゃんと海に連れて行こう。
「ねぇ、ユーリ。何時ものセットは用意しないの?」
「何時もの?」
「ほら、外の宴会や浜辺とかで絶対用意する鉄板とか、バーベキューセットとか」
「確かに!」
人魚族たちにして貰うばかりでモヤモヤしていたが、俺たちも料理を提供すれば良いのか!
俺は直ぐに屋根だけの家を空間魔法で作成。下が砂な為、柱はかなり深くまで入れないといけなかったが無事に完成した。
「よし、鉄板とバーベキューセットの設置完了」
アイテムボックスに入れている炭を入れて火をつける。炭が完全に赤く染まれば完了だ。
「ユーリ。ユーリ。まだ時間掛かりそうだからなんか作って」
「そうだな……」
アイリスに催促されてアイテムボックスのパネルを覗いた。
材料的にはしっかり有るから何でも作れそうだけど、今から本格的な料理を作ったら不味いよな。人魚族たちの料理をあまり食べれなくなりそうだし。
なら、お菓子関連か? オヤツ的な感じなら問題ないだろう。
おっ、これが有るじゃないか!
俺はアイテムボックスから材料を取り出しボウルに入れるとアイリスの方へ手渡した。俺はその間に鉄板へ油を引く。
「ごめん。混ぜて」
「良いよ」
彼女が混ぜると時間もかからず、その上しっかりした物が出来る。
「はい、出来たよ」
「ありがとう」
アイリスから受け取った生地をお玉で掬い、鉄板上に急いで作った丸枠の中に流し込んだ。
「いい匂い♪」
「ユーリさん。何を作ってるんですか?」
焼けた漂う甘い香りに誘われてマリーたちがやって来た。
「ホットケーキ。クエスト後のオヤツには丁度良いでしょ?」
「まだ、時間掛かりそうだし。ユーリにお願いしたの」
「皆の分も有るから食べよう」
俺たちは既に設置されたテーブルを借りて食べ始めた。
『ふわっふわっ!』
ふわっふわっで美味しいと喜ぶ嫁たち。俺も一口食べるとほのかな甘さが広がり美味しい。スキルか自分の技量か分からないけど最高の出来だ。
「いい匂い!お兄さん、これ何!」
「美味しそう!」
甘い匂いを漂わせ、美味しそうに食べる俺たちに興味を持った人魚族の子供たちが集まってきた。
「1人1枚な。あまり食べるとこの後のご飯が入らないから」
『ありがとう!』
特別に子供たちにも配ると嬉しそうに食べていた。そのせいか、大人たちもソワソワしだす。
「はいはい、焼いて上げるから並んでね」
『ヤッター!』
俺が用意を始めると大人たちは喜んだ。女性陣の中にはハイタッチする者もいるくらいだった。
それから大人たちは直ぐに鉄板前へと並ぶ。宴会の準備は良いのだろうか?
「自分の分は確実に終わらせてます!」
「右に同じ!」
という事なので、労働の後の甘味を提供した。
「お〜い、お前たち。宴会を始めるんだが……何なんだこの状況?」
鉄板へと並ぶ人魚族の行列へ長がやって来た。
「あっ、もう始まるの? なら、閉店します」
『えーーっ!』
思いの外反対意見が出た。このまま主賓者にやらせるつもりなのだろうか?
「分かった。なら、材料渡すから誰か焼いてくれない?」
「あっ、だったら私がやる!」
「私も!」
人魚族の女性が何人か名乗りを上げてくれたので代わることにした。
そして、宴会へと参加する。
人魚族の提供する魚料理や歌などが披露され楽しい時間が過ぎていった。
翌日。
俺たちは、クエストの完遂書にサインを貰い転移門を作成して帰った。その手には人魚族から渡された多くの魚貝類をぶら下げている。これだけ有れば数ヶ月買う事はないだろう。
「ここが貴方たちの家なのね」
「……何でいるの?」
「なに?嫁を放って帰る気だったの?」
「俺断りませんでしたっけ?」
「あれ? アイリスとリリィに聞いてない? 2人から誘われたのよ? というかクエスト報酬でもそうなってるわよ」
「えっ?」
急いで見ると変更した筈の報酬項目が人魚の雫ではなく、アウラが嫁として嫁ぐ旨に変更されていた。
「こういう関係から始める恋ってどんなものかしら? 楽しみね」
こうして、嫁に人魚が加わるのでした。




