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人魚族のアウラ

 禁止区画イドラ関連のゴタゴタから1週間が過ぎ去った。

 今回の一件を受けてかの地での騒動は終息を見せた。長く封鎖されていたイドラが開放される日もそう遠くはないだろう。


「ーー以上が再調査による結果です。本当に貴方にはお世話になるわね」


「まぁ、最後は遊んでましたけどね」


 今思うとクリストスの奴が可哀想になってくる。俺たちの八つ当たりを受けて何も出来ずに消え去った。


「でも、まさかダンジョンが生まれているとは思わなかったわ」


「こっちの判断で潰したけど不味かったですか?」


「いえ、大丈夫です。2階層程度であの脅威です。ハグレが出た場合危険度はとても高かったでしょう。事前に潰せてよかったです」


「怒られるかと思った」


「一部の人たちは文句を言ってますが、当事者になる冒険者たちが危険を感じていたので終息するでしょう。そもそも壊れた物が戻る訳では有りませんから」


「そうですよね」


 あの後、ダンジョンコアをくっつけようとして加熱したり圧力を加えたりしたが戻ることは無かった。それ以前に傷一つ付かないのだ。これでは宝石として加工し売る事も出来ないだろう。だから、正直困っている。


「安心して下さい。ギルドの方で買い取りますよ。ダンジョンコアというだけで希少な資料ですからね。うちの研究班なら頬ずりするくらいでしょう」


「なら、ダンジョンコアのことは睦月さんにお任せします」


 それから睦月さんが呼んだら白衣を来た女性がやって来た。彼女は研究班の一人らしい。

 俺は彼女に真っ二つに割れたダンジョンコアを渡した。それを受け取った女性は蕩けきった顔になりダンジョンコアへと頬ずりし出した。

 そして、そのまま部屋を出ていくのだった。


「………変態ですか?」


「………研究者とはそういうものです」


 研究者とはそういうものらしい。とりあえず、研究者に謝る事をお薦めしよう。


「そうそう実はユーリさんにお客さんが来てたんでした」


「俺に客ですか?」


「ええ、例の人魚族(マーフォーク)の少女ですよ。呼んで貰いますね」






 それから数分後。ギルドの職員さんに連れられて一人の少女が入ってきた。以前見た時の様な水着姿でなく、ワンピースといった人らしい服を着ていた。


「先日は助けて頂きありがとうございました」


 そこから俺たちは自己紹介をした。助けた人魚族の少女の名前はアウラと言うらしい。

 彼女は俺たちと同じ様に氷を求めてあの地に行ったのだが、陸に上がった所をアイスドレオに襲われて取り込まれたそうだ。その後は、俺たちの知るあの状況だったらしい。

 だから、助けを呼ぶ為氷の中で定期的に歌を歌っていたそうだ。


 どうやって歌っていたか?


 人魚族の身体には『メロディアン』と呼ばれる特殊な器官が有り、魔力を流すと振動して音を発するのだそうだ。

 簡単に言うとイルカやクジラにあるメロン器官に魔法要素も合わさって進化した様なものらしい。

 だから、音の発生だけでなく反響を利用した感知も行えるとのこと。俺が初めて聞いた時は助けを呼ぶ声で、近付いたら歌に変わったのはこれで俺たちの存在を認識していたかららしい。


「でも、感知出来るなら接近に気付くのでは?」


「それが無理だったのよ!いきなり背後に現れて押し倒されたと思ったらそのまま飲み込まれて氷漬けよ!」


「あぁ、なるほどな。それは仕方ないわ」


 俺たちみたいに常時警戒していた訳でないのなら不意打ちにやられてもおかしくない。


「所で聞きたい事があるんだが……」


「なに?」


「その足……どうなってるの?」


 助けた時から思っていたが、彼女の足は人のそれなのだ。俺のイメージにある魚のそれではない。

 唯一、人魚の特徴としての物を挙げるなら所々に付いたヒレくらいだろうか。


「あぁ、収納してるのよ」


 アウラは履いていたサンダルを脱いで足を見せた。そこにはヒレが広がりダイバーが履くフィンの様になっていた。


「手の方も同じよ」


 足ほどではないが手の方もヒレが広がり水をかきやすい構造になっている。


「耳のそれも同じなのか」


「えっ……ぴゃあ!?」


 耳のヒレは敏感らしく、アウラはびっくりして声を上げた。

 そして、睨んだ後に彼女の回し蹴りが飛んでくる。


「うわっ!?」


 急いでしゃがんで回避した。ビュンという風切り音がその威力を物語っていた。


「っ!?」


「危ねぇっ!?」


 アウラは、相当器用らしい。回し蹴りの途中から足が当たらないと思いきや真上に振り上げて踵落としに変更した。

 俺は頭部で腕をクロスしてその足を受け止めた。


「全く危ない……」


「貴方が断りもなく私の耳を触るのがイケないんでしょう!ここは、敏感だから恋人や旦那にしか触らせないのよ!……って、その熱い眼差しは何?」


「なに女性の神秘を見てるだけさ。まぁ、忠告するなら着慣れない服で踵落としするべきでないな。ついでに下着を着ることだ」


「下着……っ!?」


 直ぐに状況を察したアウラは足を退けてスカートを押さえた。


「変態!変態!変態!」


「男は皆変態だと思うが何か?」


 人の数だけフェチがあるって言うしな。


「ケダモノ!」


「その自覚はなくはない」


 じゃなければ嫁があんなに増える訳がない。


「責任取って嫁にしなさい!」


「いや、結構です」


「振られたのだわさ!?」


 確かにアウラは人魚というだけあって色白で美人さんだ。本来なら求婚されたら受けるだろう。

 だが、それは通常の場合においての話なのだ。


「胸に手を当てて考えると良い。思い当たる事はないか?」


「思い当たることなんて……」


 一瞬アウラの顔が曇ったが直ぐに元の状態へと戻っていた。恐らく分かっているが認めたくないらしい。


「ないわ。こう見えて人魚族の中でも見た目は良い方だし。知識もしっかり有るもの」


「そうか、分からないか。なら、教えてあげるよ」


 アイリスがいれば触れて終了なのだが、連れて来てない以上は自分で処理しなくてはいけない。

 俺はフラガラッハを大鎌に姿を変えて彼女の首前に止めた。


「俺に超音波で魅了の魔法を掛け続けている事だ」


 実は彼女部屋に来た瞬間から皆に聞こえないレベルの音を使って。俺に魅了をかけていたのだ。

 しかし、俺に魅了の魔法は効いていない。何故なら俺に対する妙な力を感じたのでレジストしたからだ。


「では、詳しく聞かせて貰いましょう。どうしてこんな事をしたのか」


「はわわぁああ……!」


 念話で事情を知っている睦月さんが微笑むとアウラは動揺し始めた。その後、脅しというほどではないがアウラには効いたらしく素直に話始めた。

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