八つ当たり
人魚の少女を挟んで俺たちは結晶を身に纏った大蛇と対峙した。
名称:クリストス稀少種
危険度:S
説明:クリストスの亜種。本来その身に纏うべき鉱石が氷の魔石に変わっている。回復力が強く死に辛い。殺す為にはまず全身の魔石を消費させる必要がある。
「空域断絶牢」
「ーーーーっ!?」
まともに相手をするべきで無い事が鑑定により分かったので、空間結界に閉じ込めた。危険度Sの魔物とはいえそうそうに抜け出す事は出来ないだろう。
まぁ、俺としては人魚族の少女を救う時間を稼げるのなら十分だ。
「ユーリ。この子にもエリクサーを使うね」
俺が結界に押さえ込んでいる間に、アイリスはエリクサーを少女に振りかけた。
「問題なく氷が溶けたよ」
「なら、次は体温ですね」
エリクサーによって傷が治り氷が溶けたとはいえ、氷漬けによる体温の低下までは癒えていない事は前回の救助で分かった。
「ユーリさんお願いします」
「はいよ」
俺はアイテムボックスから湯船を選択し、アイリスたちの横に出した。そこにアイリスが水を溜めて、マリーが火の魔法を落としてお湯にする。
「よいっしょ……あっ」
「「えっ?」」
アイリスが少女を湯船に浸けようとした瞬間バランスを崩した。どうやら足下にあった石を踏んでしまったらしい。
そして、人魚族の少女はゆっくりと湯船に付けられる事はなく、"ザバン!"と盛大な音を立てて湯船に沈む事になった。ぶくぶくと聞こえてくる泡が抗議の様だ。
「…………熱いっ!? えっ、何、お湯!? 冷水とかじゃなくて!? どういう事なのだわさ!?」
でも、効果はあったらしい。直ぐに少女の意識は目覚め湯船で立ち上がった。
普通なら心臓麻痺を起こしそうな程の温度変化だけど、流石は生命力に溢れた人魚族って所かな?
「無事そうで何より」
「あっ、貴方たちね!? 人をいきなりお湯につき落としたのは?正気なの!?」
「ごめんね〜!躓いて落としちゃったの〜!」
「すまん。でも、アイリスには悪気は無いんだ許してくれ」
「でも、目覚めてくれて良かったです」
「危うく温度変化でびっくりして死ぬ所だったわさ!」
俺たちに悪気はないのだが、流石の行為に人魚さんはご立腹のご様子だ。
「とりあえず、怒るのは後にしないか? コイツを何とかしないといけないし」
そろそろ俺も結界内で暴れまわるクリストスを抑えるのが限界になって来ていた。
………というか、もう限界。結界が無理やり壊されることによるフィードバックが来る前に解こう。
「そっ、ソイツは……って、何結界解いてるのよ!?ほら、襲ってきたじゃない!?」
結界を解くと真っ先に人魚さんを目掛けて突進してきた。それだけ彼女を逃したくないのだろう。
「ほい」
「えっ?」
まぁ、近づかせないけどね。
俺は人魚さんへと近付くクリストスをフラガラッハを使って輪切りにした。それを見た人魚さんは呆然としている。
「ウソ……あんなに硬い身体をバターみたいに……」
人魚さんはこの剣の切れ味に驚いている様だった。この剣が褒められたりするのは凄く嬉しい。
だって、タナトス様に貰った大切な宝物だからだ。
「ほら、人魚さん。惚けてないで気をしっかり持って。奴は死んでないからね」
クリストスは、自身が纏う魔石を消費して輪切りにされた胴体をくっつけている。直ぐにでも復活するだろう。
「そうだった!この魔物は殺して殺しても死なないのだわ!」
「いや、死ぬでしょ。殺し続ければ。良い剣の練習台になるな。氷採取を邪魔した恨みをしれ」
俺の剣が回復途中のクリストスを更に斬り刻む。でも、表面積が増えたからか回復が早まった。
「魔力を消費させれば死ぬよ。そういえば、かき氷の恨みがあったね」
アイリスの魔法銃が火を噴いた。回復が早まってもそれを超える攻撃が降り注ぐ。
「死にますよ。圧倒的火力で攻め続ければ。私もサラサラのかき氷を楽しみにしてたんですよね……」
マリーも恨みとばかりに上級魔法を連発した。
そんな感じで俺たちの八つ当たりを受けたクリストスはどんどん小さくなっていき数分後には跡形もなく消失した。
「…………」
そんな俺たちをありえないって顔で見詰める人魚さんなのだった。
「これでも討伐完了かな?」
「でも、奥にまだ大きな魔力反応あるよ?」
「なら、行きましょうか」
まだ、敵が残っているのなら狩らねばな。それにまだ暴れ足りないのだ。
俺たちは人魚さんも連れて奥に進む。
「………待って待って待って!? 正気なの!?」
少し進んだ所で正気に戻ったらしく嫌がる人魚さん。
「放置するとまた囚われそうだから連れて行くしかないのだが?」
「そっ、それは……」
「大丈夫だよ。最悪ユーリの魔法で逃げるし」
「それに確認せずに逃げるのは問題ですからね」
「うぅぅ〜〜っ!ちゃんと守ってよね!!」
人魚さんの同意を得られたので先に進む。
「そこは、ただの行き止まりでした」
「いや、わかってると思うけど幻術の一種だからね」
行き着いた先は岩肌が露出した行き止まりだった。
しかし、この壁は幻術によるもので手を翳すと透過するのだ。どうやらまだ奥へと続いているらしい。
「なんでわざわざ洞窟の奥に幻術なんてかかってるんだ?」
「これはダンジョンとかでよく見る幻術だね。洞窟の一部がダンジョン化してるのかも?」
「有り得ますね。先程の魔物の強さなど異常でしたから」
「君たち。その異常な魔物をボコボコにしてなかったかな?」
「さて、進むか」
「スルーされたのだわさ!?」
なんかキャラが崩壊しつつある人魚さんは放置して幻術の壁を解除して進む。すると今までの洞窟とは打って変わり舗装された通路になった。
「なぁ、コレってまさか……」
「うん。多分そうだと思う!」
「私も初めて見ました」
「コレって、ダンジョンコア!?」
通路を進むと祭壇の様な場所に出た。そこには光輝く大きな宝石が納められていた。
「破壊した方が良いよな?」
「そうですね。ここにダンジョンが出来るのは問題でしょうから」
ダンジョンが有ればそこは発展すると言われるが、本来は滅びる可能性の方が高い。ダンジョンから漏れた魔物が被害を出すからだ。
おそらく今回の魔物たちもその一種だろう。クリストスなどは跡形もなく消えていった。
ちなみにドロップ品が落ちないのは、ダンジョンがまだ吸収したり生成しきれていないからだろう。
「残念だね。売ったら高そうなのに」
「割れても売れるんじゃない? 断面が綺麗なら?」
「なら、ユーリの出番だね。ファイト!」
俺はダンジョンコアを破壊する事に決めた。
「何呑気に喋ってるのよ!囲まれてるじゃない!」
人魚さんは周囲を取り囲む魔物達を見て怯えたらしく、俺の腰にしがみついてきた。
「は〜い、全員伏せてねぇ〜……せいっ!」
俺はアイリスたちが伏せたのを確認してフラガラッハを円を書く様に振るった。伸びたブレードがダンジョンコアと魔物たちを両断した。
「………はい?」
「じゃあ、帰ろうか」
「今度は氷を持ち帰るのを忘れない様にしないとね」
「ユーリさん、美味しいかき氷をお願いします」
ダンジョンコアを破壊した俺たちは直ぐに洞窟を出た。外に出ると洞窟探査を行っていた他のメンバーが帰りを待っていた。聞いてみると両方とも魔物は居たが行き止まりだったらしい。
それから森の組と合流し、今回のクエストは終わりを告げた。
そして、当然今回は氷を持ち帰る事に成功し、美味しいかき氷を堪能するのだった。