緊急会議
「それでは禁止区画イドラについての会議を行います」
俺たちが逃げ帰った後、冒険者ギルドにて緊急の会議が執り行われる事になった。
メンバーは冒険者ギルドの睦月さんを含めた幹部組と俺たち。さらに救助者たちが参加する事になった。彼らから魔物の情報を得るのが目的だろう。
「まずは、ユーリさんたちに感謝を。お陰様で多くの命が救われました。代表してお礼を言わせて下さい。ありがとうございました」
「全員助かって良かったよ」
「死んでたと思った人たちが生きてた時はびっくりしたね」
「アイリスのお陰で沢山あったからだよ。ありがとうね」
俺は、アイリスの頭を撫でた。アイリスがいなければこれだけの数のエリクサーを揃えられなかった。だから、一番の功労者を選ぶなら彼女だろう。
「えへへっ、帰ったらまた作ろうね。お風呂で温まってからさ」
ほう。それはどっちでするのだろうか?風呂かベットか?
妄想が沸々と湧いてくる。やはり何度も思うが一番エロいのはアイリスなのではないだろうか?
「それで使われたエリクサーなどに関してですが……」
『エリクサー!?』
幹部や救助者たちから驚きの声が上がっていた。どうやら救助には上級ポーションが使われたと思っていたらしい。
「内訳ですが、救助者人数分の治療にエリクサーが12本。さらにその中で魔力欠乏症にかかっていた人たちがいたそうなのでその治療にMPポーションが4本となってます」
弥生が書類を回して内訳を説明した。それを聞いた幹部たちは皆一様に青褪めた。
それもその筈だ。安く見積もったとして白金貨が30枚近くするだろう。日本円なら3億円くらいかな?
さらに、この後は例の魔物討伐も控えているので金銭のやり繰りは大変だろう。
「そこでこれらの補填なんですが、紅蓮の皆さんに限り冒険者ギルドの関連施設での飲食や宿泊などを1年間完全無料とする事で手を打って頂けないでしょうか?」
「マスター。流石にそれは……」
「安過ぎませんか?」
周りの幹部や救助者たちからは安過ぎではとの反論が上がっている。うちのチームは人数が多いとはいえ、その程度では補填出来ない。それは誰の目にも明らかだった。
「それで良いよ」
『良いのっ!?』
皆が驚いて俺の方を振り返った。それだけの事を言った自覚はある。
「お義母さんの頼みだし。娘さんたちには良くして貰ってるし。1回くらいなら良いよ。次回はしっかりと請求するからね」
「ありがとうございます」
「あっ、そういえば追加で要求したい事が1つあった」
「何でしょう?」
「孫が産まれたら睦月さんと弥生さんが1週間休む事。その間の仕事は分担してしっかりとやって下さいね」
この2人は如月たちが抜けた事や立場もあってオーバーワークぎみなのだ。
「分かりました。それで代金が補填出来るのなら安いものですね。全力で休みます♪」
「1週間程度なら幹部の皆さんが頑張ってくれるでしょう」
『えっ……』
満面の笑みを浮かべる2人に対して、幹部組は凄く嫌そうな顔をしていた。なんせ彼らの半分は冒険者上がりな事もあって文官仕事が苦手なのだ。
「さて、補填の話も終わりましたので本格的に対策会議を執り行いましょう」
「それでは現在判明している魔物の情報の説明をお願いします」
俺は席を立ち上がり、先程の戦闘で得られた情報や仮説を皆に話し始めた。
「対象の名前はアイスドレオ。ゴーレムの一種だった。特性として凍結並びに魔法耐性を持つ事が判明している」
魔法耐性と聞いて周囲がざわめいた。救助者の多くも苦虫を噛み潰したよう表情をしていた。
そういえば、救助者の殆どが魔導師だったからかもしれない。
「そして、これらより厄介なのが死なないこと。もし切断した場合は増殖する事が確認されてます」
「魔法が殆ど効かないから斬るしか無かったしね……」
「お陰で斬っても斬ってもきりが無かったよ……」
「刺突なら増えなかった。でも、一度や二度では倒せないし大変だったよ」
「まぁ、それでも復活するんだよなぁ……」
「死なない? 不死か?」
「それよりも増殖だと?」
「死なないというよりは復活ですね。魔力消失による死亡確認後、復活してますので。先の話通り増殖も死体が2つ以上になったらの話です。死体が1つなら増えませんでした」
俺も検証も兼ねて一度戻り魔物を狩ってきた。
その時は刺突のみで殺したので死体は1体。それからは復活した時は2体にならず1体のままだった。
「ですが、このカラクリだけは判明しています」
『えっ?』
決め手となったのは突然湧いた群れだ。奴らは感知していたにも関わらず突然現れた。
その時の魔力の流れをリリスたちが把握していたのだ。
「増殖するのは奴らのバックに魔力を送って復活させる者が居て、肉体を目印に魔力を供給するからでしょう。その目印が2つになったら2つに、3つになったら3つにと増えるのでしょうね。死体を結界で隔離したら復活しなかったし」
「それが分かっているなら狩る度に封印すれば……」
「奴らのバックにいる奴が新しいのを産み出すから意味がないですよ。突然ポップした群れはそうやって生み出されてますから」
「つまりは元凶を叩かないと意味がないという事ですね?」
睦月さんは話に頷いた。結局行き着く所はそこみたいだ。
「そうなります。元凶を叩けば以降は復活しないと思いますよ? もしくは活動停止するかでしょうね」
「ゴーレムと聞いてその可能性を考えましたがやはりですか……」
「マスター。奴らは何処から魔力を得たのでしょう? 確かにあそこには氷石が沢山有りますが、純魔力としては使えませんからね」
「あっ、それは彼らですよ」
『俺たち/私たち!?』
「それついては私が説明します」
牡丹さんが席を立ち上がり説明を引き受けた。
「これは皆さんが生きていた事にも関係します。氷を調べた時に魔力が吸収されている事に気付きました。貴方たちが氷漬けにされたのは殺す為や保存食でなく、それが目的でしょう」
「ちなみに、その魔力については調査済みです」
俺が戻る時にリリスたちが確認したい事が有ると言うので連れて行った。その時に魔力の残滓を追ったのだ。
「魔力は川沿いの洞窟に流れてました。そこに元凶が居ると思います。なので、そこを調査したい」
洞窟の内部は奥に行く程に魔力が溢れており感知が難しくなっていた。なので、準備や報告なしで入るのは危険という理由で引き返してきたのだ。
「分かりました。それではダンジョン攻略を想定して編成を組みましょう。討伐戦は明日行いますので、ユーリさんたちは準備をお願いします」
その後、会議は終了して解散となった。会議が終わると救助した人たちにお礼を言われたり握手を求められた。
また、一部の子たちは自分の住所を書いた紙を渡して来た。
『いつでも襲いに来て良いですからね♪』
とりあえず、アイリスにパス。その後、紙は燃やされた。
「明日、討伐する事になるとはな」
「あっ、氷を取ってきてない!?」
「そういえばそうだった……」
完全に目的が入れ替わっていた俺たちだった。
結局、氷は氷魔剣アブソリュートを使ってタライの水を凍らせ無理やり作った。ただし、性能が良過ぎて凄い硬い氷になった。
お陰でかき氷はジャリジャリしてイマイチ。結局セリシールに行って食うことになるのだった。




