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救助が窮地に変わるとき

 私は牡丹です。元副ギルドマスターを務めた事があります。

 今回はその伝で禁止区画イドラへの調査に向かうユーリ君たちの案内役を頼まれ軽い気持ちで引き受けた。それがこんな事になるとは知らずに。

 今ユーリ君が魔物を吹き飛ばし、それ追って仲間たちと森へ入って行った。それを見送った私たちは氷漬けの人たちの救助を開始する。

 まずは、近くにあった氷漬けの少女に触れて意識を集中する。



「この氷は……魔法によるものなのね。……良かった!この子はまだ助かる!」


 少女を覆う氷が放つ魔力とは別に少女自身の魔力を感じる事が出来た。それは少女がまだ生きている事を示している。


「では、この子を地面から切り離しますね。最悪担いで運べる様に」


「お願いします」


 リリスたち三姉妹は生存者を順番に地面から切り離していたのでこの子もお願いした。彼女たちの使う短剣は業物なのかあっさりと分離されていく。

 その間、私はギルドマスターの睦月に渡された行方不明者リストを捲り生存者たちの情報を確認する事にした。


「……あった。あの子はココアね。そう……半年も前からなのね」


 可愛そうな事に少女が氷漬けにされたのは少なくとも半年前だと言う事が分かった。


「半年前。しかも全身……」


 これでは、上級ポーションを使用しても直ぐに完治させるのは不可能だろう。

 しかも、魔物に弄ばれたのか所々怪我までしていた。下手をしたら凍結を解いた瞬間死ぬかもしれない。

 そう思い絶望しているとリリスさんが仕事を終えて報告に来た。


「こっちの作業は終わりましたよ」


 彼女の後ろを見ると救助者たちが一ヶ所に並べられていた。


「速かったですね。良い刃物をお持ちで」


「私たちの旦那様ユーリの一品です」


 ユーリ君は凄いのね。Sランクの冒険者な上に商会まで営んでるって聞いたけど、まさか鍛冶までこなすなんて……。


 ユーリのスペックを聞いて驚くと同時に、そんな息子が出来た睦月が少し羨ましくなる牡丹だった。


「それより治療するのでユーリさんから預かったポーションを頂けませんか?」


 私はユーリ君に渡されていた薬品バックをリリスさんに渡した。


「治療は帰ってからにしませんか? 上級ポーションでは直ぐに癒えないと思うので……」


「上級ポーション? 中を見て無いんですか?」


「えっ?」


 リリスさんはバックを開けて中に入ったポーションを見せてくれた。私は鑑定魔法を使い何のポーションなのかを確認する事にした。

 そして、そのポーションの正体に牡丹は愕然とした。


「エリクサー!?」


「ええ、しかも原液みたいです。ユーリさんは、彼らの生命力がかなり弱っているからこっちを選んだんでしょうか?」


「えっ、ちょっと待って! エリクサー? これが全部!?」


「はい、そうですが何か?」


「驚くわよ!だって、エリクサーなんて和国では王城と桂花の冒険者ギルドに1本ずつ保管されているだけなのよ!?」


 それが目の前に30本ほど存在していた。これだけの数を買う金が有れば、小国の国家予算にも匹敵するだろう。


「これでも少ない方ですよ。ユーリさんはアイテムボックスには50本ほど保管されてますし」


「50本!?」


「これらを卸している私達の母の店にも同じくらい有ると思いますよ。その上、妖精の箱庭(フェアリーガーデン)には住人全員分のエリクサーが常備されてます」


「なんか驚き過ぎて頭が痛くなってきた……」


 おかしい。回復ポーションの究極系がそんなに沢山存在するものだっけ?


「なので、遠慮なく使いましょう。この本数なら死んだと思われてる人も試せますね。運が良かったら息を吹き返すかも? 試す価値有りです。少し足りない分は私たちの分を出しましょう」


「貴方たちも持ってたのね……」


 もうツッコミを入れるのは止める事にした。この子たちが規格外なチームだという事を理解したからだ。今は彼女たちより氷漬けの人たちを優先しよう。

 私たちはユーリ君から受け取ったエリクサーを配り生存者から順番に振り掛けていった。


「話に聞いてたけど凄いのね」


 エリクサーの効果は目を見張る物があった。掛けた瞬間に氷は霧散したのだ。

 そして、傷のある者たちは淡い発光と共に傷がみるみる塞がっていった。発光が終わり確認も兼ねて傷口のあった場所を拭いてみると跡すら残さず完治していた。

 生存者の治療が終わると死んだと思われた人たちの治療を試みる。上手くいけば幸いだ。


「まぁ!」


「これは!」


「ラッキー!」


「上手く行きましたね!」


 なんと彼らの治療も始まったのだ。直ぐ様、直接触れて魔力や脈拍などを調べる。

 そして、結果はどちらも微弱ながら感じる事が出来た。ただし、彼らは魔力欠乏症を患っている様だった。これはエリクサーでは治療出来ない。


「私たちのMPポーションを使いましょう」


「そんな高価なポーションまで……」


 今回は遠慮なく使わせて貰う事にした。リリスさんたちの携帯したMPポーションのおかげで人数分の治療を行う事が出来た。


『ううぅぅ〜〜』


 それから数分もしない内に各所で呻き声が聞こえてきた。どうやら目を覚ました様だ。


「良かった!皆息を吹き返したのね!」


「ここは……?」


「禁止区画イドラよ」


『イドラ!?』


 イドラの名前を聞いて救助者たちが飛び起き慌て出した。


「そんな! 俺たちはまだ助かってないのか!?」


「嫌よ!もう一度氷漬けにされるなんて!」


「ヤツは何処だ! アイツは不死身の筈だ!」


「おっ、落ち着いて!私たちは貴方たちの救助に来たのよ!」


「ただの呼びかけではダメそうですね。仕方有りません」


 私の隣でリリスはそう言うと武器を空に掲げて魔法を放った。

 私たちの上空で激しい爆発が起こり、衝撃が上から降り注いで来た。


『ひぃい!?』


 皆は慌てて地面にしゃがみこむ。そのせいで自然と静かになった。


「少しは落ち着きましたか? なら、私たちの話を聞きなさい。じゃないと置いて行きますよ?」


『はい』


 威嚇が効いたのか、置いて行くが効いたのか分からないが落ち着いた様だ。なので、私たちは彼らに質問する事にした。


「ここで何があったんですか?」


「獅子型の魔物に襲われたんだよ!」


 私たちは顔を見合わせた。やはりあの魔物が元凶だったらしい。


「奴単体は弱かった。でも、直ぐに復活するんだ!」


「復活?それはどういうーー」


「危ない!」


 私の背後から飛びかかって来たものをリリスが2つに切り裂いた。どうやら会話に集中し過ぎたらしい。

 私は周囲を警戒しつつ改めて襲ってきた魔物を見て驚いた。


「えっ?」


「これはユーリさんが戦ってる……」


 そこにあったのは現在ユーリ君たちが戦っている例の魔物。その死体だったのだ。


「お前たち斬っちまったのか!?」


「不味い!増えるぞ!」


「増えるとは……」


「これはっ!? エアーベール!」


 突然何かに気付いたリリスが死体を蹴り上げ遠くに飛ばすと風の結界を周囲に展開した。


「なっ!?」


「クソっ!やっぱり増えやがった!」


「だが、2体だ!足止めして逃げれば……ひぃ!?」


「嘘っ……!」


 私は魔物が死体から復活して2体に増えた事に驚いたが、いつの間にか周囲を取り囲んだ魔物の群れに驚愕した。


「不味いですね。完全に囲まれてます」


「……2人は気付きましたか?」


「私は気付いてますよ。リディア」


「私もです。突然死体に魔力が収束して復活させた事と私たちの周囲でも同じ風に収束して新しい魔物が生み出した事を」


「それは本当ですか!?」


 三姉妹の話を聞いて現状の危険性を把握する。


 不味いわ!今までの話が本当なら現状では勝てない!

 でも、逃げるにしても犠牲を覚悟しないと!


 私は結局逃げる事は確定した。その上でどうやって犠牲を少なくして逃げるか悩んでいたら私たちを飛び越える者がいた。


「ジオグラビティ!」


 重力魔法により魔物たちが地面に押さえ付けられた。抵抗しているが走れないらしくゆっくりと近付いてくる。その隙に魔力を使った人物が駆けてきた。


「小さいから魔力耐性があってもイケると思ったら正解だった!」


「ユーリさん!」


「全員引くよ!転移門(ゲート)!殿は務める急いで入ってくれ!」


 私たちは転移門を通って桂花へと逃げ帰った。

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