死なない魔物
魔物は水晶で出来た様な青白いゴツゴツとした体表をしており、大きな獅子の姿を取っている。
そして、魔物の赤い目がテリトリーへの侵入者である俺たちを見据えていた。
俺とアイリス、イナホは目標の魔物と目があった瞬間駆け出した。魔物の注意をこちらに向ける為だ。
「手筈通りに頼む!」
魔物は急速に迫る俺たちを敵と認定して駆けてくる。そこを俺は転移を使って肉薄しがら空きの腹部を殴った。
「せいっ!」
そこから周囲の犠牲者に注意しつつ、魔物の腹部を殴打して森へと吹き飛ばした。魔物は突然の出来事に理解出来ないらしく無抵抗で殴られていた。
更にそこへアイリスたちの魔法銃が火を吹いた。銃から放たれる攻撃により魔物は勢いを増して飛んでいく。俺は2人と合流して後を追う。
「火の竜撃弾が効いていません!」
「アレで倒れてくれれば良かったんだけどね……」
「全くだ。予想通り耐性持ちかよ……」
ただの危険度Sに相当の魔物ではないと思ったが予想通りだった。先の攻撃によるダメージが一切感じられなかった。
「でも、今何か変じゃ無かった?」
「「変?」」
「うん。まるで壊れてから完全再生したみたいな。爆炎で良く見えなかったけどそんな感じがしたの」
「「………」」
アイリスの話が確かなら敵は相当危険だ。一度引く事も検討に入れた方が良いかもしれない。
「とりあえず、俺の剣で奴を斬る。魔力耐性があろうと両断出来るからな」
先程は周囲への被害も兼ねて止めておいた。
しかし、今度は周囲を気にせず剣を振るえる。確実に仕留める事が出来るだろう。
「アイリス。敵の状態は?」
「ぴんぴんしてる。今はこっちに走って来てるよ。距離を教えようか?」
「いや、見えてるから大丈夫」
前方を見ると魔物が木々の間を縫うように引き返して来るのが見えていた。
「2人は奴を牽制してくれ!」
「「了解!」」
アイリスたちの攻撃が魔物の左右に着弾して爆発が起こる。そのせいで魔物は俺へと一直線に突っ込んで来るしか無くなった。
「覚悟!」
「ガアァウゥゥーー!?」
吠えながら飛びかかってきた魔物を俺のフラガラッハが一刀両断する。魔物は左右に分かれて倒れ伏した。
「良し!討伐完了!」
「ユーリ、やったね!魔物はちゃんと死んだよ!」
「お疲れ様です、ユーリさん!」
アイリスたちが近付いてきて労いの声をかけてくれる。その声を聞いて倒したと実感出来た。
「……この魔物はゴーレムか何かの一種なのでしょうか?」
イナホがそう思ったのには理由が有る。
魔物は両断されたにもかかわらず内臓が飛び出していないのだ。というか、断面が内臓による凹凸などなく綺麗な一面を見せていた。
「鑑定だとアイスドレオ。ゴーレムの一種だそうだよ」
「あっ、やっぱりそうなんです。断面がゴーレムの時みたいだったのでそう思ったんですよ」
「天然のゴーレムかな? ほら、稀に野良でストーンゴーレムが生まれるでしょ?」
「多分な。……しかし、このレベルにあの人数が手こずるのか?」
俺はこの魔物を倒した瞬間から違和感を感じていた。それは剣で魔物を斬った時に感じた物だ。てっきりこの見た目と魔法耐性が有るから体表は硬いと思ったのだ。
しかし、思いの外柔らかくて驚いた。これなら氷漬けされた人たちの武器でも倒せなくないだろう。
なら、有り得るのは群れで存在したとか。別の魔物がバックにいるとかかな?
「まぁ、良いか。とりあえず合流して救助に回ろう。ついでに氷を採取しないと。こっちが俺たちのメインな訳だし」
「そうだよ、氷だよ!かき氷の為の氷を取るのが目的で来たんじゃん!」
「私もクエストや寒さのせいでかき氷の事を忘れてました」
「氷だけのつもりが疲れたな。報酬はしっかりと貰おうな」
「ですね。ついでにそれで和国の餡を買って帰りましょう」
「宇治金時だっけ? アレ美味しいよね」
「そうだな。家にストックが無くは無いが、この前行った餡蜜の店は餡も売ってたから買って行こうか。美味しかったしね」
「今度は、皆で行きたいね」
「そうだな。セリシールの子たちも呼んで行きた……っ!? 結界!!」
俺たちはこの後に食べるかき氷の話をしていた。そしたらいきなり殺気を感じたので障壁を張ると何かが2度ぶつかってきた。
「「「なっ!?」」」
俺たちはその正体を見て驚いた。なんとそれは今倒したばかりの魔物に他ならなかったからだ。しかもそれが2体いる。
「やっぱり群れだったの!?」
「いや、違う!死体のあった場所を見ろ!!」
「えっ? そんな……死体がないです!」
先程倒した魔物の場所を見るとその死体が消えていた。
そして、目の前には2体の魔物がいる。それらが示す結論とは。
「まさか……斬った事で2体に増えた?」
「可能性はある」
「鑑定ではそこまで見えなかったよ!?」
「俺のでもそこまでは見えなかった。見えていたら斬る以外の選択肢を選んでる」
「再生能力が高すぎて半分からなら復活出来るとかでしょうか? スライム系がそうで有るように」
「それは魔力が残っているから出来る事だよ。でも、今回の魔物は倒してから魔力が消えたから一度確実に死んでいる筈だよ!」
生きている限り魔力は常に生成されて漏れている。死んだら魔力生成が一切行われなくなる。その為、魔力感知により死亡を確認出来る。
「ユーリさん。後から来た可能は? 死体はダンジョンの様に融けた可能を考慮して」
「アイリス」
「ごめん。死んだのを確認してから周囲を見て無かった。でも、倒してから一時は何も見えなかったよ」
アイリスが感知を止めたと言っても彼女の認識範囲はとても広い。その端から一気にここまでやって来れるとは考え辛いが……。
「今度は更に細切れにするからそれも合わせて検証しよう。ヤバそうなら直ぐに引くよ。良いね?」
「はい!」
「うん!その方が良いかも!」
俺は2人からの返事が返ってきた瞬間に動いた。
今度は横なぎに2体を両断する。それに加えて縦にも切断。さらに横からも3つに切り分けて仕留めた。
やはり単体としては弱い……。攻撃に対する反応も遅過ぎるな。
「ok。少し距離を置いて見よう」
俺たちは魔物の死体の周囲に設置型の魔法を仕掛けると茂みに隠れて様子を伺った。
「マジかよ……」
「本当に再生してます!?」
「確かに死んでたのに魔力が集まって肉体を再構築してるよ!?」
結果は予想通り。切り分けた魔物の死骸の1つ1つが単独の魔物として復活を遂げた。俺は直ぐ様、設置しておいた封印魔法を起動する。
「空域断絶牢!」
魔物たちの周囲が歪み空間魔法による結界に閉じ込める事が成功した。
「皆が心配だ。急ごう」
俺たちは急ぎ救助組の方へと駆け出した。




