バルトと彩花 後日談
バルトが彩花にプロポーズした次の日、冒険者ギルドの飲食スペースには多くの冒険者が集まっていた。
そして、彼らはバルトを囲みながら大爆笑する。
「あははっ、バルトさん! そりゃあ無いッスわ!!」
「いひひっ! お前、相変わらずアホだよな!!」
「やぁ〜い、振られてやんのっ!!」
「煩ぇええーー!」
怒鳴りながら酒の入った器をテーブルに叩き付けるバルト。彼は、昨日のプロポーズが失敗した時の事を仲間内に話したのだ。その結果が、これなのである。
「でも、マジで無いわぁ〜。誓約書の効果範囲忘れるとか!」
「彩花さんが賢い人で助かりましたね」
「1日に2度もプロポーズとか、お前勇気あるな! 俺は、恥ずかし過ぎて無理だわ!!」
「でも、これでバルトも所帯持ちかぁ〜」
結果から言うとバルトのプロポーズは受け入れられて、2人は目出度く夫婦となった。
しかし、1回目のプロポーズは拒否される事になった。そして、やり直しで行った2回目のプロポーズを受け入れられる形となったのだ。
なんで、そんな面倒くさい事になったかというとバルトたちが交わした誓約書が絡んでくる。誓約書の一部にこう記していたのだ。
『彩花に対して誰もが手を出したと認める結果を起こした場合……』
手を出した。具体的には、何処までと記載していなかったのだ。
その為、プロポーズの証拠になるオルゴールを受け取った時点で誓約書の効果が発動する可能性があったのだ。
それに気付いた彩花は、一度目のプロポーズを断り、誓約書を破棄した。その後、自分の気持ちをバルトへ告白し、やり直しをする事になった。
バルトは、その日の内に2度もプロポーズを行う事になった。だが、そのかいあって2人は夫婦になれたのだ。
「そもそもの話だ。誓約書の範囲広過ぎだろ?」
「いや、具体的に書かなかった2人が悪い」
「「「うんうん!」」」
「ここに俺の味方は居ねぇのかよ……」
そう言ってバルトは不貞腐れてしまった。そこへ噂の人物である彩花がやって来た。
「あら、皆さんお揃いで楽しそうですね」
「おっ、噂をすればバルトの奥さんじゃないッスか」
「彩花さん、こんにちは〜」
「彩花さん、どうしました? こんな所まで来て?」
「ユーリさんが家の改築をしてくれたので、その連絡に来ました。後、私は今から姉様に呼ばれているので、妖精の箱庭に行こうと思うんです」
「ユーリの兄貴が来ないと思ったらそんな事をしてたんですかい? すみません、宜しく伝えといて下さい。後で、もう一度伺うとも」
「分かりました。……所で、いつから名前だけで呼んで下さるのですか?」
「えっ?」
「夫婦なんですから呼び捨てが当然ですよね。……バルト」
「そっ、そうですよね! あっ……彩花さ……彩花」
バルトは、名前を言う瞬間、恥ずかしさのあまりの顔から火が出そうになった。
でも、彩花の耳が赤くなっているのを見て同じなのだと分かり言う事が出来た。
「はい、ありがとう。それでは、夕方には帰りますね」
そう言って去って行く彩花を見送りながら、女は強いものだと理解したバルトであった。
「これは、絶対尻に敷かれるな」
「でしょうね」
「マジでうるせぇよ」
今日もバルトの周りには笑い声が溢れる。それは全て、彼の人柄故の事だろう。
*********
彩花は、冒険者ギルドを後にして薬屋テリーゼを訪れた。目的は、ここの倉庫にある転移門を使う為だ。
「リリィさん。転移門使いますね」
「うん、好きに使って。どうせ、私くらいしか使わないんだから」
リリィの許可を貰い、店の奥にある倉庫へと向かった。
倉庫には、薬の原料である薬草が詰められたビンが立ち並び、乾燥した草木の香りが漂っていた。その中に不思議な彫刻の施された壁がある。これが妖精の箱庭へと続く転移門だ。
彩花は、ユーリから預かっている鍵を壁に挿し、魔力を流すと起動して屋敷の地下へと繋がった。
「いらっしゃい、彩花さん。来るのは聞いてますよ」
転移門を潜るとロッキングチェアに揺られながら子供をあやすマリーの姿があった。
その傍らに置かれたテーブルには、飲み掛けの紅茶と本が置かれている。
「こんにちは、マリーさん。その子は……」
「私の子よ。ユリウスって言うの。仲良くしてね」
子供は、マリーの膝の上で丸くなり眠っていた。ロッキングチェアの揺れも合わさり眠くなったのかもしれない。
「マリーさんの子……つかぬ事をお聞きしますが、ユーリさんの子供は何人居るんですか?」
「うん? え〜っと、12人ね。生まれて無い子も入れるともっと多くなるけど」
「……人数が合わなくないですか?」
彩花は、嫁と子供の人数を指折り数えながら比べた。
しかし、妊娠中の子を抜いて計算した所、数が合わなくて混乱していた。
「うちには、双子とか沢山居ますからね」
「なるほど」
通りで人数が合わない訳だと彩花は思った。それと同時に育児が大変そうだと同情した。
でも、現実は交代で行うので通常よりは負担が少ないことをその時は知らなかった。
「それじゃあ、彩音姉様に呼ばれてるので失礼します」
彩花は、彩音からの呼び出しについて考えた。
育児の手が足りなさそうだから、その為に呼ばれたのではないだろうか?
マリーの話を聞いてからそう思う様になっていた。
「いえ、店の事務作業を手伝って欲しいと思ったんです」
それは、予想に反して普通の仕事だった。彩音がしている仕事を手伝って欲しいのだそうだ。
私は直ぐに了承し、翌日から働き始めることになった。
「いらっしゃいませ、セリシールへ!」
………私は事務作業の筈だったが、ホールスタッフになってしまった。理由は、単純に人手不足で店が回らないからだ。
私としても動かない机作業なんかよりは、こっちの方が楽なので助かっている。
「さて、きりきり働きますか」
この仕事は給与が良くて、賄いも美味しい。やる気が満ち溢れる。
将来の為にお金を稼ぎたいから頑張ろう。
最低、3人は欲しいしね。バルトにも頑張って貰わなくちゃ。
彩花は、将来を夢見て溢れる最高の笑みを浮かべながら接客をするのだった。その影響で、客が更に増えたのは言うまでもない。
 




