アイリスが参戦して人探し
私は、ユーリの頼みを聞いてバルトたちと共にカノープスへやって来た。本来ならベレチアに向かう筈だったのだが、バルトから教えて貰った情報からこちらを優先し転移したのだ。
「姐さん。何故にカノープスを?」
「せっかく私が運ぶ訳だから直ぐに終わりそうな所からが良いと思ったんだよ。それに、カノープスは内陸の方だし、外れの可能性も高いしね」
「なるほど。確かにそうッスね」
バルトは、カノープスへ連れてきた理由を説明すると納得した様だ。
さて、ここからは肝心の人に会いに行く。事前に、ユーリも調べてくれたらしく資料を預かってきた。それを元に先頭を歩き、目的の人物が居る家を目指す。
「バルト。今から会う人について、どれくらい分かってるの?」
「一応、彩花さんから教えて貰った特徴を持ってるくらいですかね?」
「彩花ちゃん。その特徴を私にも教えてくれない? 実は、ユーリからはそこまで聞いてないんだよ。名前とかは分からないの?」
「名前とかは、すみません……。実は、衝動的に飛び出して来たので名前を聞き忘れまして……。
特徴としては、種族は普通人族の男性です。お金持ちで女性を多く侍らしていると聞きました。また、身体能力も高く転移魔法も使えるだとか」
「なるほどねぇ〜。確かに、今から会う人は大体当てはまるね」
ユーリから貰った情報によるとその人は元冒険者で、そこそこの実力があったらしい。左足を怪我して引退したそうだ。
その後、和国関連で商売を始めて大当たり。一代にして栄えたそうだ。
配偶者関連は、正妻である鬼人族と妾の娘が2人。
鬼人族の娘は、和国との貿易で出向いた時に一目惚れし、遠距離恋愛の末に結婚。
他の2人は、幼馴染やチームの相棒。鬼人族の娘との結婚話を聞いて雪崩込み。色々あって現在に落ち着いたらしい。
「でも、転移魔法を使えるって情報は無かったみたいだよ。まぁ、転移魔法は記録に残らない事が殆どだから仕方ないけどね。ユーリの時もそうだけど測定法すら確立されてないから」
「そうなんですね。……あの、今更なんですが、先程から仰るユーリさんとは何方ですか? バルトさんがアイリスさんを"姐さん"と言いますから"兄貴"と呼ばれてる方ですか?」
「うん? 話してないの、バルト?」
彩花からユーリの事を聞かれるとは思わなかった。てっきりバルトが既に話していると思ったのだ。
私は、バルトの方を振り返り、聞いてみた。
「すんません、話してないです。兄貴まで疑われるかと思いまして。それに……姐さんたちみたいになるんじゃないかと……そしたら自然に口を閉じてました」
「そういえば、ユーリに聞いてたんだった。うふふっ、バルトを問い詰めるのは野暮だったね」
私は、ニヤニヤしながらバルトと彩花を見比べた。
バルトは恥ずかしそうにしているが、彩花はこのやり取りの意味が分からないらしく困惑していた。
たった今思い出したのだが、事前にユーリからバルトが彩花へと好意を持っているのは聞いていた。今回来ないのもそれが原因だとか。
確かに、ユーリみたいな優良物件なら男たちから遠慮して欲しいと思われるのは当然かもしれない。
「彩花ちゃん。ユーリってのは、私達の旦那だよ」
「あぁ、やっぱり。アイリスさんの……たち?」
彩花は納得仕掛けた所で、疑問が湧いた様だ。目をパチクリさせながら気付いた疑問を聞いてきた。
「うん。全部で……今は何人かな? ちょっと忘れるくらい多くの女の子が、ユーリのお嫁さんになってるよ」
「そんなに多くの女性をですか!?」
「兄貴は、冒険者としても商人として優秀だから姐さんたちを養えるだけの財力を持ってるんだ。人柄も良くて孤児院なんかも経営してる」
「そう、私達の自慢の旦那さんなんだよ♪」
私は、ユーリを自慢出来て嬉しくなった。だから、ウキウキとした気持ちで先を進む。そのせいで、後ろにいるバルトと彩花の会話を聞き逃す結果になってしまった。
「そんな人が居るんですねぇ〜」
「あぁ、そうだな。俺は、最初の時から見てるけど凄い人だよ」
「まるで、私が探してる人みたいです」
「そうだな。俺も最初はそう思ったよ。でも、根本的に違う所があったから黙ってたんだ」
「そうなんですか?」
「実は、兄貴の種族は半神なんだ。人間の要素は、半分しか残ってない」
「なるほど。それは違いますね。私が探す人は普通人族ですから」
「それに兄貴の嫁の中には、和国出身の天狗族が居るが鬼人族は聞いた事がない。名簿にも乗ってなかったしな」
「和国出身の方はいらっしゃるんですね」
「ああ、何処かのお偉いさんをしてたのかな? キリッとした美人さんだったよ」
「へぇ〜っ、その内会ってみたいです」
もし、この会話を聞いていれば、直ぐに訂正が出来たのかもしれなかったのだが、こういう時こそ気付かないものだ。
そして、私たちの間にズレが有るのを知らないまま目的地へと辿り着いた。
「失礼! 店主はいらっしゃいますか?」
バルトを先頭に目的の人物が営む店へと入った。外観からは何の店か判断出来なかったが、中に入って直ぐに気付いた。なんとここは、着物を取り扱う店だったのだ。
店内を見渡して見ると多くの浴衣が目に付いた。恐らくこれがメイン商品なのだろう。
「わぁ〜っ、竜王国だというのに浴衣がこんなに有るなんて!」
隣に立つ彩花が目を輝かせながら、浴衣を手に取り見て回った。
しかし、財布を開いて直ぐに絶望的な表情になる。
「うぅ……残念です。ニ着……いえ、一着で良いので欲しいのですが……」
恐らく持ち前のお金では全然足りないのだろう。近くにあった浴衣の値札を見ると普通のドレスの2倍はする金額が書かれていた。
「大丈夫だよ! バルトが買ってくれるって!」
「えっ?」
突然話を振られたバルトがこちらを向いた。
そんなバルトを彩花の前にまで連れて行きつつ、彼女に聞こえない様な角度で耳打ちした。
「今が彩花ちゃんに男気を見せるチャンスだよ! もし、お金が足りない様なら貸してもあげる」
「あっ、姐さんっ!?」
ユーリの話では、お金の使い道があまりなく結構貯めてると聞いていた。だから、この提案をしてみた。
バルトも今がチャンスだと思ったのか覚悟を決めるた様だ。
「彩花さん! 好きな服を選んで良いよ! 予備の服も傷んでるって悩んでたよね? それに、俺も君には世話になっていたからプレゼントをしたいと思ってたんだ!」
そこは、「君に惚れているから」とかではないんだと思ったが、仲が進展するなら良いかと思った。
とりあえず、2人の成り行きを見てみようと思う。
「……良いですか? 貿易品ですし、高いですよ?」
遠慮しているのか否定から入る彩花。
しかし、その目はバルトに対して期待の眼差しを向けていた。
「そんなの気にする事ないさ。俺の彩花さんに対する気持ちだよ! 好きなのを選んでくれ!」
「あの……でも……」
「良く言ったね、バルト! さぁ、彩花ちゃん! こっちで服を選ぼうか!」
「ちょっ、アイリスさん!?」
バルトから許可が出たので、何だかんだで遠慮する彩花を無理やり引っ張って浴衣の方へと連れて行った。そこからバルトへと向かい要望を聞く。
「バルト、彩花ちゃんにどんな色合いのを着せたい?」
「えっ!? ……白でお願いします」
「ok! 男の子は、純情系が好きだもんね!」
ユーリの経験から男はそういうのが好きだと知っている。だから、からかってみたら案の定反応した。
「えっ、いや、違っ!?」
「さぁ、彩花ちゃんは色々着ましょうね。私も買ってあげるから最高の服を選ぼうか」
「あのっ、アイリスさん!? 目が怖いですよ!?」
「気にしない。気にしない」
その後、彩花ちゃんを着せ替え人形の様にして遊んだ。
着せ替える度にバルトが反応していたので、ユーリから借りているカメラで写真を撮った。彩花は、これが何か分からないらしく指示に従い、色々なポーズを取ってくれた。
良い物が撮れた。後で、バルトにプレゼントしてあげよう。




