バルトの悩み
冒険ギルドの掲示板は3種類有り、討伐系と採取系、それから日常と分かれている。
冒険者といえば、前者の2つが定番だが、日常のクエスト量はその2つを足しても足りない程に多く存在する。それだけ多くの人が冒険者もとい何でもする人を求めているという事だろう。
しかし、達成ポイントはそこそこなのだが、報酬が少ないのが厄介な問題だ。
そのせいで、低ランクの冒険者が昇格の為のポイント稼ぎや日銭を稼ぎにきた一般人ばかりがメインで受けている。
「でも、中には面白そうなものも有るんだよな」
そんな理由で、俺は最高ランクなのに受けたりする。
「おっ!浮気調査とか面白そうじゃん!」
俺は面白そうなクエストをボードから剥がす。下世話なものだが、日常クエストにはこういうものが有るから止められない。
「お〜い、ユーリの兄さん。程々になぁ〜」
「俺たちのクエストも残してなぁ〜」
だいぶギルドに馴染んだ様だ。顔を覚えられた事で、茶化してくる冒険者も増えてきた。
「なら、代わりにやるか? 浮気調査」
「いやいや、あからさまにヤバそうな奴じゃん!」
「この前の件があったのによくやる気になれますね」
彼らが言っているのは、以前受けた人探しクエストの事だ。
なんと、依頼主がストーカーとかいう最悪のものだった。
まさか、依頼主に手を出す日が来るとは思わなかったよ。
そもそもの話だ。もっとクエストの内容を調査しろよとツッコミたかった。
でも、他のクエストに比べて死ぬリスクが少ない分、軽くなってしまうのは仕方ないかもしれない。
「まぁ、アレは仕方ないよ。ギルさんも納得してくれたよ」
「まぁ、受けた兄さんには同情しますよ。依頼主もフルボッコにしたんでしょ?」
「その後、助けた娘にストーカーされたとも聞きましたよ」
「あははっ………」
まさか、ストーカーを退治してストーカーされるとは思わなかったよ。
なんと、助けた女の子が、俺の事を高ランク冒険者かつお金持ちだと知るや否や目の色が変わって追いかけてきた。
なかなかしつこい娘で、アイリスたちがなんとかしてくなきゃヤバかったよ。
でも、一体何をやったんだろう?
女の子は、顔面蒼白でフラフラと去っていった。
「多分、兄さんの嫁さんの美しさに気圧されたんじゃねぇ?」
「誰も彼も美人ですからね!」
「いや、たぶん……」
物理的に何かした気がする。俺の直感がそう告げていた。
そんな感じで冒険者たちと雑談しているとドタバタと激しい音が聞こえてきた。
よく見るとバルトの奴がこちらへ向かって一直線に駆けてきてきた。
そして、俺にある事を聞いた。
「ユーリの兄貴! 女を口説くにはどうしたら良いですか!」
「知らん」
俺は、冷酷に真実を言い放った。
***********
「バルトさん。今日もありがとうよぉ」
「なに、気にするなって!」
俺は、搬入作業という日常クエストを受けに来ていた。
依頼主は、獣人の婆さん。ここいらで古くから店を営む老舗の店主だ。
工業エリアで出来た商品を店に運び入れる仕事だったが、無事に終わらせる事が出来た。
何故、高ランクの俺がこんな事をしているかというと理由がある。それは、顔を売って情報を得る為だ。
皆があまり手を出さない日常クエストだが、コレから生まれる繋がりは今後のクエストに大きく作用する。
例えば、人探し。
いきなり知らない者に聞かれても警戒して全てを話してくれないだろう。
しかし、コレが顔見知りなら知らなくて良いことまで自然と教えてくれたりするものなのだ。
「また、何かあったら言ってくれよ。誰も選んで無かったら受けるからよ」
「あぁ、そうするよ。コレは少ないが報酬さね」
「まいど。依頼書へサインを頼むぜ」
俺は、依頼書にサインをして貰い報酬金を受け取った。
「なぁ、バルトさん。そろそろ結婚はしないのかい?」
「結婚ねぇ……したいんだけどよぉ……顔が……」
正直言って、俺は顔が悪い。狩猟クエストでの傷なども有り、悪人面に磨きがかかっている。
「顔かい? 冒険者としては良い面じゃないかい?」
「確かにそれは良く言われる」
冒険者にとって、厳つい顔の方が迫力もあって好まれる。
しかし、女冒険者たちですら普通の方を好むので意味がない。
「はぁ〜っ、何処かに良い女はいないかねぇ〜」
「そうなのかい? なら、昔作った恋愛の御守が有るからあげるよ」
そう言って婆さんは店の奥から水晶のペンダントを持ってきた。
「昔、魔道師だった時に作ったものさ。コレをかけると運命の人に出会えるそうだよ」
「運命ねぇ……」
俺は半信半疑になりながらもそれを受け取り、店を後にした。
それからクエスト報告の為にギルドへと向かう途中に曲がり角でフードを被った者にぶつかった。
「わっ、悪い!」
「いえ、こちらこそ」
俺がぶつかった事でフードが落ち、その容姿が明らかになった。
それは、流れる様な黒髪で額に小さな角が生えた少女だった。
「っ!? すみません! 先を急いでいますので!」
彼女は、慌ててフードを降ろし、顔を隠すと直ぐ様走り去っていた。
俺は、彼女の姿に見惚れてしまい動けずにいた。
おそらく、これが一目惚れと言うものなのかもしれない。
そう思うと思いが沸々と湧いてくる。彼女にもう一度会いたい。
そして、恋人は無理でも友達から始められないだろうかと言いたいのだ。
***********
「だから、俺に相談して来たと?」
「あぁ! 兄貴なら何かコツとか知ってそうだと思ってな!」
「コツと言われてもなぁ……」
正直、俺の場合は参考にならないと思う。
嫁になった娘達に襲われたり、押し倒したり、いきなり求婚されたりとそういうのばっかりでまともな恋愛なんてした記憶がない。
「しかし、この国で鬼人族なんて珍しいよな?」
この国で過ごしているけれど、うちの嫁さん以外に見た事は無いのだ。
海沿いの町なら海洋貿易などで和国とかから来るから見かけるかもしれないが、ここは内陸部にある竜王国の首都だ。
まして、集団ならともかくソロで行動しているとは珍しい。何か事情が有りそうだ。
「とりあえず、情報を集めーー」
彼女の情報を集めようと提案しようとしたら意外な所から情報がもたらされた。
「なぁ、聞いたかよ。鬼人族の話?」
「うん? なんだそれ?」
「何か、えらく美人な鬼人族が来て人探しの依頼を出したんだとよ」
「おっ、良いね。受けよかな?」
「あっ、それは止めとけ。何か、長旅で金に困ってるのか、依頼額がかなり低いんだよ」
「マジか。それは残念だな」
そう言って俺たちの横を去っていく冒険者たち。
「「…………」」
俺とバルトは無言で日常クエストの掲示板を見に行った。
そこには、低額だが人探しを求めるクエストが貼られていた。
それをバルトに持たせてカウンターで問い合わせる。
予想通り、依頼主は鬼人族の女性。
直ぐ様、俺はバルトと合同でそれを受ける事にした。




