山神たちのその後
肉体を得たことで、自由に行き来が出来る様になった山神様。名前が無いと不便だと言うことで付ける事になった。
「それなら、ユーリが得意よ」
「そうなの? なんか、可愛いのつけて?」
エリスの薦めで俺が付ける事になった。
そして、少し考えてた後にある女神様の名前を切り出した。
「ペレとかは……?」
ペレとは、ハワイに伝わる火山の女神だ。火山繋がりで良いのではないかなと思った。
それに彼女の迫力は、女神様と言っても過言ではない。
「良いじゃない! それじゃあ、今日から私はペレね!」
「えっ、そんな簡単に良いの!?」
聞くや否即決されたので、少し心配になる。
「お姉ちゃんの為にちゃんと考えてくれたんでしょう? なら、これで良いんだよ♪」
「本人が良いなら良いか」
しかし、先程から思っていたのだが、ペレはことある毎に自分をお姉ちゃんと言っているな。
「なんで、お姉ちゃん?」
「うん? それはねぇ〜、皆より先に世界へ生み出された存在だから私はお姉ちゃんなの!」
「そりゃあ、そうよね。世界の創生時から居るのですもの」
そんな昔からペレの本体である火山は存在していたらしい。
「でも、意識が生まれたのは私たちの誕生と良い勝負」
「それでも生まれたのは速いからお姉ちゃんなんだよ(むぎゅ!)」
そう言いながら、ペレはアペフチの事を抱き締めた。
気持ち良いけど、ちゃんと離して上げて下さいね。
「それで、体調はどう? 魔力供給はちゃんと行えてる?」
「絶好調!アペフチへの魔力供給もちゃんと行えているよ。火山の魔力は私にも流れ込んでるから魔力に困る事はなさそう。しかも、私自身は人と同じ様に大気中から魔力を吸収出来るみたいね」
魔力量を鑑定して見たが、その量は軽く竜種を超えていた。
「なら、問題ないな」
ベチッ!ベチッ!べチッ!
問題はあった。苦しいらしくアペフチの尻尾が激しく打ち付けられていた。
「ペレ! アペフチがっ!」
「ごっ、ごめんなさい! アペフチちゃん!」
ペレは急いで胸に埋もれていたアペフチをひっくり返す。
「ぷはっ……死ぬかと思った」
「ホント、ごめんねぇ〜。何かを抱き締めるのが癖になったみたいで……」
ペレが、申し訳なさそうに謝罪をしていた。
「だったら、次からは背後からにして下さい」
「今なら良いの?」
「これなら苦しくない。そして、気持ち良い」
まるで、上質なソファーに座ったかの様にアペフチは寛いでいた。
「じゃあ、次からこうするね♪」
「ええ、ついでにそのままヌイグルミみたいに運んで貰えると助かります」
アペフチは、かなり軽かったから苦では無いだろうけど、さすがに怠け過ぎだろ。自分の足で歩けよ。
「良いよ♪」
「良いんかい!」
ペレが良いなら良いのだろう。
しかし、羨ましいな。常時、あの柔らかさを堪能する事が出来るだなんて。俺でも、たまにフィーネやギンカにしてもらうくらいだし。
……帰ったらお願いしようかな?
「それしても、その大きさだと生活が大変そうね。服も合うのがなさそうだし」
エリスの言葉である事を思い出した。
「そういえば、その服はどうしたんだ?」
ペレは、背中の開きを強調した情熱的なドレスを身に着けている。
てっきり、ネフェルタたちみたいに裸で現れるのかと思ったらコレを着ていたのだ。
「山へ修行しに来た人とかいたからね。そんな人たちの魔法を見てたの。だから、魔力で作ってみた。でも、いつ消えるか分からないけど」
「服への魔力供給を止めれば消えるよ」
「止める……あっ、出来た」
「ごほっ!?」
いきなり目の前で全裸になられたのでむせてしまった。
凄く良い身体をしてますね。ありがとうございます。
「服!服を着なさい!」
「あっ、ごめんごめん」
エリスに怒られて、またドレス姿に戻った。
「確かに、常に魔力の服は大変だから服が要るな。でも、既存の物だとペレに合わないから新しく作る事になるな。妖精の箱庭に戻って採寸しよう」
エロースが鼻血を出しながら採寸してくれると思う。
「えっ、作ってくれるの?」
「うちにそういうのが上手い娘がいるんだよ。その代わり、胸とか揉まれるかもだけど」
「そのくらいなら易いから良いわよ」
許可が降りたが、本人には黙っていよう。
どうせ、女同士だからとペレの胸へ不用意に飛び込んで溺れるまでが予想出来る。
「それじゃあ、行こうか。ついでに店にも案内してあげるよ。好きなのを頼むといい」
「本当なの!?」
「あぁ、奢ってあげる」
「「ありがとう」」
予定が決まったので、転移門を作成して妖精の箱庭へと帰った。
ついでに、住人の皆にもペレたちを紹介する事にした。
「初めまして、ペレだよ。よろしくね」
「アペフチ……。よろしく」
『よろしく!』
皆からまた珍しい人たちを連れて来たと呆れられながらも歓迎された。
しかし、そこで問題も起きた。
「「「熱っ!?」」」
アペフチに触れた子たちの一部が悲鳴を上げたのだ。
「まぁ、普通はそうよね」
「エリス、どういう事?」
「アペフチは、火の精霊なだけあって体温がかなり高いのよ。だから、火耐性でも持って無いと触れられないのよ」
「あっ、だから、俺がアペフチをお姫様抱っこした時に驚いたのか」
「そうよ。でも、ユーリなら火耐性を持っていても不思議でないと思ったからツッコむのを止めたのよ」
あの時は、そんな事を思っていたらしい。
俺は、うちの子たちの耐性を確認してみた。すると嫁たちは全員火耐性持っている事に気が付いた。
昔見た時は持っていなかった娘も、今は持っていた。一体、どうやって身に着けてたのか気になる所だ。
その後、ペレたちを店に案内した。
「ふぁあ〜〜っ♪ 本当に何でも良いの!?」
「綺麗……!」
店のショーケースに並べられているお菓子たちを見て2人は目を輝かせていた。
「好きに注文して良いからね。でも、メニューはそれだけじゃないからね。はい、メニュー表」
「「まだ有るの!」」
2人はメニュー表を食い入る様に見詰めた後、各々が好きなお菓子を注文していた。
「ふぁあ〜っ、コレが食べる感覚なのね〜。しかも、とても美味しいわ〜」
「クリームが最高」
ペレたちは、お菓子を口一杯に頬張りながら蕩けきった。
「でも、残念ね。私達、お金持ってないからそうそう来れないし……」
「あっ、だったら良い仕事が有るよ」
「ナニナニっ!」
「それはねぇ………」
俺は、ペレたちにある職を紹介した。
後日。町中にある宣伝ポスターが張り出された。
タイトルは、『誰もが笑顔になれるお店セリシール』。
そして、ペレとアペフチがお菓子を食べながら満面の笑みを浮かべる姿が載っていたのだった。




