山はデカい。彼女もデカい。
媒体となる物を魔法陣に置き、魔法を起動する。直ぐ様、半透明のゲルの様な物が魔法陣から現れて触媒を飲み込んだ。
そして、バスケットサイズの卵の形へと変化を遂げた。
「山神様、聞こえてますか? 聞こえているなら、卵に宿れますか? 卵に触れて溶け込む感じだとイケるそうです」
俺は、ネフェルタから教えて貰った感覚を伝えた。
感覚というのは、人それぞれなので、役に立たないかもしれないが、参考になればと思ったのだ。
結果は、直ぐに現れた。半透明だった卵が下から徐々に黄金色へと変わっていくのだ。これは、成功した事を示していた。
完全に変色した後は、卵自体の成長が始まった様だ。倍々といった感じで、大きくなっていく。最後は、子供が立ったのと同じような大きさまで成長して止まった。
「これで、終了だな。後は、出てくるだけか」
「確かに魔力の繋がりを卵から感じる」
「………終わった?」
フラフラとエリスが岩影からやって来た。
「どうしたよ? そんなに歩き辛そうにして?」
「………異物感があって歩き辛いのよ。誰のせいだと思ってるの?」
さて、誰のせいでしょね。俺はエリスを愛でただけなので。
「それより、魔法は終わったよ。後は、山神様が出てくるだけ」
今の所は左右に揺れてはいるものの、ヒビが入る感じはしない。
俺たちが割ってやらないといけないのだろうか?
「……えっ?……分かった」
隣にいたアペフチが喋り出した。どうやら、今でも山神様からのメッセージを受信した様だ。
「ユーリ。山神様が卵に近付いて、上を少し切ってくれだって。思ったより硬かったみたい」
「そうなのか?」
確かに、卵は揺れてはいるが出てくる感じがしなかった。それは、卵の殻が思いの外固かったからみたいだ。
「今、やるから上に気をつける様に伝えて」
「分かった」
俺は、卵に近付き、硬さと山神様への連絡を兼ねてノックしてみた。叩いた感じは、ネフェルタの時と変わらない様に感じる。
「それじゃあ、始め………えっ?」
ビキッビキッビキッビキッ!
剣を抜いて構えた瞬間、卵全体にヒビが走った。一応言うが、俺はまだ何もしていない。
「せ〜……の〜……やぁ!」
卵から掛け声が聞こえたかと思うと美女が卵から飛び出してきた。卵の殻は、その衝撃で粉々に吹き飛んでいった。
「ハグだよ〜〜♪」
「むぎゅ!?」
美女は、卵から出て来てそうそうに、俺を見付け抱き着いてきた。
そして、顔全体を枕よりも柔らかく、良い香りのする物が包み込んだ。
「(な・ん・だ・と!?)」
埋もれた瞬間に理解させられた。これは、フィーネを超えるであろう巨乳なのだと。フィーネの物でもこれ程までに埋もれるというのは無理だった。
しかし、山神様(仮)であろう美女には可能だった様だ。
俺は、男なら誰もが夢見る様な幸せに浸………うん?
「〜〜〜っ!?」
俺は、ある事に気付き急いで伝えようとした。
しかし、彼女の胸で俺の声が伝わらない。なので、胸をタップした。
「あん!何、触りたいの? もっと触ってて良いよ」
帰って来たのは、予想に反して嬉しい提案だったが、今はそれどころではない。命の危機なのだ。
「〜〜っ! 〜っ!! …………」
「あん! そんなに激しくされるとお姉さん色々目覚めちゃうよ?」
さらに暴れようとも彼女は俺を離す気配がない。
あっ、もう……ダメだ………。
俺は、幸せに包まれたながら意識を手放した。
***********
私が肉体を手に入れて最初にした事は、全力で感謝を伝える事だ。
「ハグだよ〜〜♪」
男性は、女性に抱き着かれると嬉しいという事を知っていた。だから、感謝を伝える為にも行ったのだ。
「う〜ん、ユーリ君って言うんだっけ? この子、良い魔力を持っていて落ち着くね!」
彼から伝わる凄く穏やかな魔力に心が落ち着いてくる。そのせいか、ずっとこのままでいたいとさえ感じるほどだった。
「〜〜〜っ!?」
時折、イタズラの様に胸をタップしてくる。
うふふっ、彼もしっかり男の子だね。さっき、岩影での事も見ていたよ。
「何、触りたいの? もっと触ってて良いよ」
肉体を得られると思わなかったから人が触れる感覚がとても新鮮だった。ただ、タップされる度に燃えるような感情が目を覚ましかけていた。何れ、目覚めるのかもしれない。
「……んっ? どうしたの?」
気付いたら彼はぐったりと動かなくなっていた。彼の様子が良く見えないので、胸から離してみた。
「あぁーーっ!? 息が止まってる!?」
「「ええっ!?」」
私だけでなく、近くで見ていたアペフチたちも驚きの声を上げた。
彼の表情は、とても幸せそうなのだが呼吸をしていなかった。どうやら、胸に溺れて気絶したらしい。
「あっ、アペフチちゃん! こういう時って何するんだっけ?」
「えっ、えっと……キス?」
「そうか!人工呼吸!今すぐするからね!」
私は、直ぐ様キスをして息を吹き込んだ。
まさか、初めてのキスが人工呼吸だなんて、お姉ちゃんには予想出来なかったよ。
それから何度か息を吹き込むも目を覚ます気配が感じられない。
「こら、ユーリ! しっかりしなさい!」
彼が心配で痺れを切らしたのか、エリスちゃんが彼のお腹にダイブした。
「げふッ!? ゴホッゴホッ!!」
その衝撃のお陰なのか、彼は息を吹き返した。
「あれ? 俺は……?」
彼は虚ろな目のまま、上半身を起こした。
「確か、おっぱいという幸せ空間にいた気が……」
どうやら、私のハグは喜ばれていたらしい。
「嘘じゃないよ。でも、ユーリ君が気絶したから止めたの」
「えっと? 貴方は?」
「君たちが作ってくれた器に入った山神様だよ!」
私は、腰に手を当て大きな胸を反らし、自慢げに存在をアピールした。
***********
目覚めてから数十分がたち色々理解してきた。どうやら、俺はマジで胸に溺れていた様だ。
「ごめんねぇ〜。お姉ちゃん、初めての肉体でテンション上がっちゃって〜」
俺は、姉を名乗る美女を観察した。
とても美しい紫がかったウェーブの髪。フィーネを超えるであろう巨乳。それから、アペフチの様な尻尾。更に、エリスの様な妖精の羽根を携えていた。
「でも、ユーリ君に感謝してるのは事実だし。好きになりそな気持ちも本当なの!」
「……分かった。俺も嬉しかったし許すよ」
「ありがとう!」
そう言って、また抱き着かれた。離すのが遅れれば、また気絶していたのかもしれない。
はっきり分かったよ。彼女には、抱き着き癖があるのだと。
今後は、何かしらの合図を決める事にした方が良いかもしれない。
「ねぇ、その羽根……?」
アペフチが山神様の羽根に気が付いた様だ。
「これ? 肉体が出来た時には付いてたよ」
「まるで、エリスの羽根みたい」
「みたいじゃなくて、エリスの羽根だな。俺の魂の一部を用意した時に混ざったのだろう」
「あぁ、だから、髪の色も紫なのね!私とアペフチのが混じったから!」
赤髪と青髪を混ぜて紫髪。ありきたりだが、そこだけはそうなったらしい。
「とりあえず、今後ともよろしくね。山神様」
「うん! よろしく♪」
今日からもう一作品投稿を始めました。よろしければそちらも宜しくお願いします。




