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火の上位精霊

 竜人(ドラゴンニュート)と思った女性の正体は、火の上位精霊だった。


 エリスからフッチーと呼ばれたがこの少女には正確な名前がある。


 それは、アペフチ。


 呼びにくいのと可愛くない事からエリスがフッチーという愛称を付けたそうだ。


「………」


 彼女は、無言のまま俺たちの側までやって来た。


「久しぶりね、フッチー。元気そうで良かったわ」


 エリスは、友人の元気な姿を見て喜んでいる。


 それ対してアペフチは、眠そうな目をエリスに向けて熟考した後、可愛らしい首を傾げた。


「…………………………誰?」


 沈黙が長かった分、言うのかと思ったら違ったよ。


「おい、待てや! アナタ、自分の親友も忘れたの!?」


「えっと…………エッチアクア?」


「ぶっ!」


 少し吹いてしまった。微妙に惜しい。


「エリスアクアよ! それじゃまるで、私が性的にいやらしい人みたいじゃない!?」


「エッチさん?」


「黙らっしゃい!」


「くっ!?」


 俺がエリスをからかうと脛を蹴られた。めちゃくちゃ痛い。


「エリスアクアよ!エリスアクア!もしくは、エリスよ!」


 エリスは、彼女の肩を掴みガクガク揺さぶった。


「名前覚えるの面倒くさい。それに……」


 アペフチは、突如座り込んだと思ったら地面で横になった。


「立つのに疲れた……」


 気力がなく、地面でだらける美人さん。トカゲの様な尻尾もピッタリと地面に横たわっていた。


「………眠い」


「流石に、ここで寝るのは不味いだろ!?」


 俺は、彼女を抱き起こす事にした。


「あっ、彼女に不用意に触れちゃ………うそ!?」


「うん? どうしたんだ?」


 俺がアペフチをお姫様だっこするとエリスは目を見開いて驚いていた。


「ユーリ! アナタ、彼女に触れれるの?」


「はい? どういう意味だ?」


「………分からないなら良いわ」


 何やらエリスは勝手に納得した挙げ句、俺を見て呆れた表情をしていたのだった。


「……運んでくれるの?」


「まぁ、嫌じゃなければ……」


「それじゃあ、運んで」


 アペフチは、運ばれ易いように俺の首へと手を伸ばした。


「あっち」


「ほいよ」


 その後、俺たちはアぺフチの案内の元、彼女を家まで送って行くことになった。


 数分程、火口周辺を歩くと溶岩が冷え固まって出来ただろう洞窟を発見した。


「ここが入り口」


 どうやらこの中に家がある様だ。最後まで連れて行こう。


 入り口から洞窟内部の家まではホントに直ぐだった。


 洞窟へと足を踏み入れた瞬間、誰も固まるだろう。


 それだけの家ならぬ神殿が、そこには有ったのだ。


「何で、ここに神殿が?」


「それは彼女がここで暮らす理由でも有るのよ」


「どういう事だ?」


 エリス曰く、この火山には何千年もの間存在した事で、山神とも言われるような意思があるらしい。


 その為、この火山を祀って神殿が建てられたそうだ。


 しかし、意思はあっても身体はないし、動けない山神。


 だから、自分の意思を伝えられる存在である巫女として、火の精霊を神殿で養うことにしたのだそうだ。


 それが、精霊の伝達網で火の精霊たちに伝わり選ばれたのが、アペフチなんだそうだ。


「正確には、火山でお昼寝してる間に押し付けられた」


 火の精霊は、アペフチとは違い、基本はイケイケな性格をしている為に籠もるのは好きでは無いそうだ。


 だから、アペフチは押し付けられる事になった訳だ。


「でも、その割にはだらけているな」


「うん。仕事が基本ないから常にゴロゴロしてる。気温も快適で暮らし易い」


 山神からの命令を受けて、火山の騒ぎの処理が仕事なんだそうだ。


 でも、活火山な事が幸いして、魔物も人も基本は近付かないからそうそう騒ぎは起こらない。


 起こったとしても食物連鎖の一環として見ぬ振りをするのだとか。


 しかし、今回の様にクレーターが出来るレベルの騒ぎには駆り出されるのだそうだ。


「せっかく、寝始めたばかりだったから最悪だった」


「それは、マジで悪い」


 寝始めた瞬間を起こされる事のキツさは俺も知っている。


 最悪、頭痛がしたりするもんな。


「でも、襲われた事に対する対処によるものだと聞いていたし、敵意が無かったから様子見だけで終わった」


「もし、敵意があったら?」


「足元にあった溶岩で呑み込む」


「安心してくれ。俺は敵でない。むしろ、味方だ」


 溶岩に飲み込まれたら、ただの結界程度では防御出来ない。


 常時、結界を再展開し続ければ別かもしれないが、そんな余裕は実際にはない筈だ。


「友好の証にコレを進呈するから寝起きの件も赦してくれ」


「あっ、それは!?」


 アイテムボックスから取り出した物にエリスが反応した。


「エリスの分もあるからおやつタイムをしよう」


 俺が取り出したのは、プリンだ。


 異世界であろうとコレが嫌いな者には出会わなかった。


 なら、友好の証に出すならコレに限る。


「ナニコレ……?」


「お菓子だよ。お菓子」


 俺は、皿に乗ったプリンとスプーンをアペフチに渡した。


「………」


 アペフチは初めて食べる為、スプーンで掬って食べれば良いのかと悩んでいる様子だった。


「美味しい!やっぱり、プリンは最高ね!」


 その横で、プリンをパクパク食べるエリスを見て、アペフチもスプーンで掬って一口食べた。


「んっ!?」


 その瞬間、アペフチの眠たそうな目が見開いた。


「ん〜〜っ! パクパク!」


 そして、彼女はうっとりした後、黙々と食べ始めた。


 ペチ!ペチ!ペチ!


 彼女の尻尾が感情を表しているのか、激しく地面を叩いていた。


 その動作があまりにも可愛かったので、他にも与えてみたくなった。


「なぁ、実はアイテムボックスにアイスクリームが有るんだが……」


「本当なの!?」


 アイスクリームという単語にエリスがいの一番に反応した。


「?」


 アペフチは、当然アイスクリームを知らないので頭を捻っている。


「これだけ暑いと美味い筈だから食べないか?」


「食べる!食べる!」


「………(コクコク!)」


 エリスは手を挙げながら全身で表現し、アペフチは口いっぱいのプリンで喋れなかったので、首を縦に振って意思表示した。


「良し。アペフチは、初めてだし。最高のアイスクリームを出してあげる」


 アイスクリーム専用にしている器と庭で採れる果物を各種取り出した。


 果物をカットして器の周囲に盛り付ける。


 その後、アイスクリームを中央に丸く盛り付ける。


 ついでに、ハチミツも少量かけてアクセントも付けよう。


「どうぞ。召し上がれ」


「ヤッター!」


「どうやって、食べるの?」


 気だるくて眠そうな態度は何処にやら、目が期待で輝いていた。


「プリンみたいに掬って食べると良いよ。果物は自由に食べて良いから」


「頂きます!」


「………頂きます」


 エリスを真似て、アペフチもアイスを食べる。


「ほぉあぁぁ〜〜」


 今度は、歓喜のため息まで出てきた。


 ペチ!ペチ!ペチ!ペチ!ペチ!


 さっきより尻尾が激しいから相当好評だったみたい。


 その後、他にも色々お菓子を取り出して、俺たちはおやつタイムを楽しんだ。

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