忘れられた大陸
竜王国の港町ベレチアを船で経ち、早2週間。航海は、順調に進んでいる。
向かう先は、忘れられた大陸『ソルシエール』。
この地について簡単に説明しよう。
この地を簡単に言うと、かの大戦の始まりの地にして終わりの地なのだ。
この大陸には、多くの魔女が住んでおり、魔法都市国家を形成していた。
その発展は凄まじく、現在伝わっている魔法の大半が、この地この時代に生まれたモノらしい。
その為か、彼女たちは大変プライドが高かった。
他にも、四大陸の親である中央大陸に住んでいたからだと考えられている。
そんな彼女たちが、ある日世界に宣戦布告し、始まったのが大戦だ。
しかし、長かった大戦も一夜にして終結した。
それは、魔女たちによる特大魔法が暴走し、各国の軍隊諸共大爆発を起こしたからだ。
その威力は、大陸の半分を消失させる程の物だった。
その後、生き残った者達は各大陸に逃れ、いつしか人の住まぬ忘れられた大陸になった。
だが、ここに眠る遺産には大変危険性を伴う物も多い。
その為、中立である冒険者ギルドの手によって管理されているそうだ。
「って、ギルさんに聞いたんだけど……話聞いてる?」
「あ〜〜っ、イナホちゃんが可愛過ぎるんだよ!」
そう言って、アイリスは抱き締めたイナホを離そうとしない。
正直、俺も大陸の話なんかよりこっちの方が重要だ。
「聞いてないな。でも、そろそろ代わってくれない?」
「え〜っ、もう少し〜」
「そう言って、30分なんですけど……?」
イナホの船嫌いは相変わらずだった為、常に誰かが寄り添う必要があった。なので、俺は彼女を四六時中抱き締めていた。
しかし、トイレに行く際についアイリスに預けてしまったのだ。
その結果、アイリスもイナホのヤバいくらいの可愛さに目覚めてしまった。
クソッ、いつも通りにトイレまで連れて行けば良かった!
「良いじゃん!夜だって抱き枕にしてるんだから!」
「そっ、それはそうだけど……」
航海が始まってからイナホも船に大分慣れたが怖い物は怖い。
寝る時は、誰かが側にいないと寝れないらしく、ずっと一緒に寝ている。
昼間は昼間でずっと抱き締めている訳だから当然懐が寂しくなるのは当然だと思う。
「私にも代わって欲しいな〜」
エロースもイナホを抱き締めたいらしい。
「絶対嫌です」
「なんで!?」
イナホは笑顔でエロースを拒否した。まぁ、その理由は分からなくない。
「覚えて無いんですか? 私を抱き締めたまま気絶した事を? お陰で、私は先生の鼻血で血塗れになっても動けずに大変だったんですけど」
「そっ、それは……」
あの時は、本当に大変だった。
船の上にいるので風呂に入る事が出来ない。
屋敷に転移で戻りたい所だったが、この海域は魔法が乱れやすく転移が難しいのだ。
だから、同行して貰ったエリスの力を借り、お湯を球体にして風呂代わりにした。
「本当にキツかったんですからね。ベタベタするし、鉄くさいし」
「ごっ、ごめんって! これを食べて機嫌を治して!!」
エロースは、罪悪感が有るのか、必死にイナホの機嫌取りを始めたよ。
「うん?」
突然、何かしらの膜を越える様な感覚を受けた。
『おっ?』
どうやら感じたのは、俺だけでは無いようだ。周囲からも声が上がっている。
「やっと目的の海域に入った様だな」
「…………なんでいるの?」
「ユーリよ。それを言うのは何回目だ?」
なんと俺の目の前いるのは、ケリュオンだった。
「何度も言わせるな。今回は、生物学者として同行している」
このクエストには、現地調査の為、各部門の学者たちが同行している。その中にケリュオンの姿もあったのだ。
「そもそも、お前がここに同行する理由が分かんないだけど?」
「何を言う。あそこで行われていた研究は俺にとって垂涎のものなんだぞ!」
「つまり目的があると? 一体それは?」
「良くぞ、聞いてくれた!私の目的は、あそこで日常的に行われていた人工生命体の研究なのだ!」
「ホムンクルスとか?」
錬金魔法は有るけど、ホムンクルス造りは膨大かつ貴重な材料を惜しみなく使う為に廃れてしまった。
「そうだ! 中でも、スフィンクスを狙ってる!」
スフィンクス。獅子の身体に人の上半身。
まだ会った事はないけど、ケンタウロス族みたいなものかな?
彼らなら町中でもたまに見かけるので知っている。
「スフィンクスだって!?」
何処から聞いていたのか、スフィンクスに釣られてミコトがやって来た。
「ユーリさん!ケリュオン!今から向かう所にスフィンクスがいるのかい!?」
「とりあえず、俺をガクガク揺さぶるのをやめような」
「あっ、すみません!」
ミコトは、謝りながら俺の肩に置いた手を引っ込めた。
「あまりにも揺らされて船酔いになるかと思ったよ」
「それで、居るのですか?」
「実際はどうなの、ケリュオン?」
人がいない為、魔物が独自の生態系を作っているので、居ても可笑しくはない。
だって、人工生命体は生物であればいかなる種族とも交配が可能と聞いているからだ。
「ギルドからの資料に目撃談があった。期待しても良いだろう」
「おおーーっ!燃えてきた!」
お前、彼女がいるだろ。放置して大丈夫なのかとは言わない。
だって、彼女は既にミコトの背後にいるのだから。
「がふっ!?」
「騒がしくしてすみません。ミコトを回収して行きます」
「おっ、おう」
シキナが笑顔のままミコトを殴打し、引きずって行く所に少し引いてしまった。
「今回は、賑やかになりそうだ」
クエストメンバーは、主に俺の知り合いで構成されている事も有り、アットホームな感じで気が楽だ。
俺は、コップに入れて置いたお茶を飲み横に出すと、男が近寄り給仕してくれた。
「おっ、お注ぎします!」
「まっ、マッサージとか如何ですか?」
「兄貴!なんでもお申し付けた下さい!」
「今は、お茶だけで良い。下がってて」
「「「へい!」」」
彼らは、笑顔で去っていく。
彼らは、クエストメンバーが俺の知人で構成されている中、初めて会う連中だった。
本人たち曰く、ベルトリンデ王国でそこそこ名の知れた冒険者チームらしい。
何故か、出発後にしたミーティングで喧嘩を売ってきたので、返り討ちにした結果がコレだった。
「給仕されるなら女の娘の方が嬉しいんだけどな」
「なら、私がしますよ」
「おっと、ラズリか?」
背後から抱き着いて来た者の銀髪が俺の肩に落ちた。今いるメンバーだと彼女しかいない。
「正解です」
「船長は何と言ってた?」
彼女には、航海の様子を聞きに行って貰っていた。
「先程、境界も超えたので、後一時間もせずに見えるそうです」
「分かった。ありがとう」
やはり、先程感じた物が、竜種避けの結界なのだろう。
「お〜い!島が見えたぞ!」
乗組員の声を受けて周囲が騒がしくなって来たので、俺も船の縁に立って見る。
少しずつ、陸との距離が縮まっており巨大樹とその下に広がる街並みを見る事が出来た。
「総員、上陸用意!」
俺たちのクエストが今始まる。




