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ブラウニーは、ミズキの色

 カリスさんに貰ったクルミを持って、妖精の箱庭(フェアリーガーデン)に急いで帰った。


 そろそろ、おやつの準備を始める頃合いなのだ。


 うちは、家族も多い。特に、子供もいっぱいだ。


 だから、口に入る物は極力愛情たっぷりの手作りにしている。


 でも、まぁセリシールの商品は、普通に多い。新作とかの実食データとか必要だもんね。


 後、子供の反応は今後のお菓子作りの参考に大変なるのだ。


「うん? ミズキか?」


 地下を抜けて、1階に出たら通路の先にブラウンの髪をした小さい娘が掃除しているのが見えた。


 遠近法の為か、いつもより小さく見える。


 しかも、メイド服でなく質素なエプロンドレスとは珍しいな。


「お〜い! そこのお嬢さ〜ん」


 俺が彼女の背中に呼び掛けると掃除していた手が止まった。


 振り向かないのは、恐らく休みなのに仕事していた事が気まずいのだろう。


「掃除は、程々で良いからね!」


 そう伝えると彼女は振り向かないまま去って行った。


「ふむ、やっぱり働いてたか。ワーカホリック気味なのかな?」


 ミズキは真面目なので休みを返上して働いてしまう。


 しかも、色々溜め込んでしまう体質なので、結構気にかけている。


 最悪、わざと仕事が出来ない様に拉致する事もある程だ。


「でも、今日まで働かなくても」


 なんと、今日は午後から一緒にデートする予定なのだ。


 滅多に街へ出たからないミズキに対して、祖国から遠くなら大丈夫だろと浮遊大陸の街に誘ったのだ。


 彼女もそこなら納得した様で、お店のグルメ本とか渡したら楽しみに見ていた。


「それとも、わくわくが抑えらず仕事で誤魔化してたりして」


 そう思いながら、俺は厨房へと向かった。


 到着してみたら、オーブンへの火入れや刻んだチョコレート、常温にしたバターなどが用意されていた。


 事前連絡を受けたラズリたちが、準備してくれたらしい。


 お陰で直ぐに始められそうだ。


「あっ、ミズキ。着替えたんだ。というか、速かったね」


 お菓子作りのメンバーの中にミズキが参加していた。


 彼女の服装は、先程見かけたエプロンドレスでは無く、私服にエプロンという出で立ちだった。


 いつの間に着替えて俺を追い越したのだろうか?


 というか、ミズキに裸エプロンさせた事あったけ?


 よし、夜はそれでお願いしよう。


 いや、それともクリームでデコレーションしたり……。


 エロ妄想がどんどん湧いて来ていたが、ミズキの言葉で現実に戻る。


「はい? 私は、ずっとこの服ですけど?」


「えっ?」


 どうやらメイド服だと思ったが、勘違いだった様だ。


「すまん。気のせいだ。忘れてくれ」


「はぁ……」


 とりあえず、ブラウニー作りを開始しよう。


 まずは、クルミをオーブンに入れて10分程空焼きする。


 その間に刻まれたチョコレートをボールに入れ、バターも加えたら湯煎する。


 滑らかになるまでかき混ぜながら溶かすことで均一さを出す。


 その後、薄力粉。更に、純ココアを加えたらしっかり撹拌する。


 ここからは、撹拌のプロにお任せしよう。


「アイリス、パス!」


「了解」


 俺でもちゃんと出来るが、彼女の方が完璧な仕上がりにしてくれるだろう。


「終わった」


「なら、追加する」


 混ぜ終わった物に溶き卵を追加。


 本来なら均一に混ぜる為、数回に分けて加えるが、アイリスには必要無いので直入れok。


 更に、砂糖。牛乳もとい、フィーネのミルクを追加。


 これらに香り付けも兼ねたラム酒を少量加えるのが一般的だが、今日は紅茶に合わせて林檎のリキュールを加えよう。


 そして、再び撹拌する。


「混ぜるのは、これで最後?」


「ああ、後は混ぜるというか、絡めるだね」


 空焼きしたクルミの一部を細かく刻んで加える。


 この時、重要なのが、切る様にさっと混ぜること。


 ついチョコレートの感覚で練ってしまうと固い食感になってしまうのだそうだ。


「型を取って」


「どうぞ」


 出来た生地を型に流し込み平らにする。


 その後、残して置いたクルミを飾りとして上に散らせば準備は完了だ。


 温められたオーブンに入れて、15分から20分程加熱する。


 この時、串を刺して湿った生地が付いたらオーブンから取り出す。


 もし、生地がべっとり付いたらそれは焼けていない証拠だ。


 逆に全く付かなかった場合は、焼き過ぎだと思ってくれ。


 取り出した生地は、余熱で最後まで火が通るので放置。冷えたらブラウニーの完成だ。


 出来たブラウニーを型から取り出し、一口サイズにカットする。


「(数日置けば、味が馴染んで最高だが……)」


 隣に目をやると今にでも食べたそうなアイリスたちがいる。


「ミズキ。紅茶の準備をしてくれ」


 彼女に買ってきた茶葉を渡した。


「これは、今人気の!?」


「ミズキ専用も有るから後で渡すね」


「ありがとうございます!」


 さて、実食に移ろう。


 カットしたブラウニーを小皿に盛り付けて、カートで談話室に運ぶ。


「「おやつだぁーー!!」」


 おやつの匂いに気付いた子供たちが近付いてきた。


「今日は、クルミで作った甘〜いお菓子とミズキの紅茶だよ」


「甘いの好き!」


「すき〜!」


「それじゃあ、テーブルに着こうか」


「「は〜い!」」


 子供たちをテーブルに着かせたら、お菓子と紅茶を回していく。


「それじゃあ、頂きます」


『いただきま〜す!』


 さてさて、お味は如何かな?


「「おいちーー!」」


「美味しい! このクルミのサクサク感も最高!」


「チョコレートとクルミの相性が抜群ですね」


「チョコレートが濃厚で紅茶にも合います」


 子供にも大人にも好評の様だ。俺もさっそく食べてみよう。


 口に濃厚なチョコレートの味が広がり、クルミのサクサク感が伝わってくる。


 更に、林檎のリキュールを使ったことで、紅茶の香りと良い感じにマッチしていた。


「本当に、ここのお菓子は美味しいわね。このお菓子はなんて名前なの?」


 カグヤと一緒にいたエリスからそう尋ねられた。


「これは、ブラウニーって言うんだよ」


「ブラウニー? へぇ〜っ、彼女から名前を取ったのね?」


「えっ? あぁ、確かにミズキに似てるな。でも、元々は妖精の見た目から付いた名前だよ」


 チョコレートを見るとミズキの髪の色を思い出す。


 でも、ブラウニーという名前は、西洋に古くから伝わっている妖精の体が茶色の毛で覆われている所から付いたと言われている。


「でも、知らなかったわ。貴方が彼女の名前を知ってるなんて。もう契約はしたの?」


「契約?」


 おいおい、さっきからエリスは何を言っているんだ?


「なぁ、エリス。契約って誰と……?」


 まるで、俺の知らない者が居るよなニュアンスなのだ。


「えっ? それは、ここに住み着いている地の上位精霊の事よ?」


『!?』


 俺たちは、エリスの言葉に硬直した。


「すっ、住み着いてる!? いつから!?」


 周りを見るが誰も知らなかったらしく、顔を横に振っていた。


「今年に入ってからかしら? 何度か掃除してる所を見かけたわよ」


「掃除……」


 おや? 俺の中に心当たりがあるぞ。さっき廊下で会ったのとか。


「……なぁ、ミズキ。ちょっと質問があるんだが」


「なっ、なんでしょ?」


「今日、エプロンドレスを着て掃除したか?」


「着てません。朝からずっとこの服です」


 ビンゴォオオーー!!


「……まさか、知らなかったの?」


『うん』


 皆と一緒に頷いた。


 だって、近くで見てないからミズキに見えてたんだもん。


「……名前を呼んだら来るかな?」


「契約が成立してたらね」


「彼女の依代は持ってないよ」


「地には、無いわよ。その代わり、数が多くて拘束力も弱いのよ」


「分かった。とりあえず、呼んで見るよ。すぅーーっ……ブラウニー! 居るなら出て来てくれ!!」


 魔法で音声を拡張して屋敷中に響かせた。


 これなら彼女にも聞こえ、契約が成立してるなら何かしらのリアクションをしてくれる筈だ。


「はっ、はい、ご主人様! 何用でしょうか!?」


 返事は直ぐ様、俺たちの上から聞えてきた。


 上を見上げた俺たちは、シャンデリアに立っている人物に視線を向けた。


 そこにあるのは、ブラウンの髪をなびかせた幼い少女の姿だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通に契約成立してた・・・ 回収忘れ・・・弥生とクリエイト頑張り中のエンキがまだだったような?
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