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もう商会ギルドの常連だよな

「これは、俺からのお裾分けです。カリーナカエデから作ったシロップとパドラが作ったロイヤルハニーですね」


 暇をみて、商会ギルドへと顔を出した。


 今や商会ギルドの常連となったらしく、職員の人が俺を目にすると直ぐにカリスさんへと繋いでくれた。


「まぁ、どちらも超が付く程の一級品じゃないですか!? それを頂けるのですか?」


 パドラのロイヤルハニーは、危険度Sの魔物が集めた蜜なだけあって、入手困難な一品。だから、物凄く高い。


 それと同じく、カリーナカエデから作ったメープルシロップも高級品なのだ。


 理由は、カリーナカエデがカリーナの森だけの固有種で有ること。


 また、危険地帯に入り、数日かけて採取。その後、長い時間かけた精製が必要だ。


 おかげで、好き好んで採取する者はおらず、値段は高騰する。


 その為、最低価格は100ml当たり金貨5枚程が相場らしい。


 分かりやすくいうと食事の為に上級ポーション1個分を消費するのに等しいのだ。


「ええ、親しい人に配ってますので」


「ありがとうございます! 大事に使いますね!」


 カリスさんは、女性らしく甘い物には目がない。


 凄く喜んでいるのが、側にいてひしひしと伝わってくる。


 そんな反応を見て、こっちも悪い気がしない。


 だから、色々渡すようになったんだよなと再認識した。


「あの〜っ、ご相談なんですけど。少しストックが有れば、うちにも卸して頂けませんか?」


 そして、ちゃっかりしている所がカリスさんの良い所だ。


「樽1つで良ければ、提供出来ますよ」


「本当ですか!? 直ぐに手配しますので、少々お待ち下さい!」


 バン! と勢い良く立ち上がったカリスさんは、控えの人たちに連絡して来賓室を出て行った。


「紅茶のお替りは如何ですか?」


「あっ、ミラさん。気付きませんでした」


 気付いていなかったが、控えにミラさんも居た様だ。


「途中から来ましたからね。どうぞ」


「頂きます。……美味しいです」


 彼女に勧められた紅茶を飲むと、良い香りが鼻を通り抜けた。


「これは……リンゴですか?」


 紅茶の芳醇な香りに、甘い焼きリンゴの様な香りが混じっていた。


 そして、一口飲むとほんのりとした甘さにホッとする。


「ええ、最近貴族の方たちの間で流行り始めた紅茶を用意しました」


「帰りに買いたいので、店を紹介して頂けませんか? ミズキに買って帰りたいもので」


 家で紅茶と言えば、ミズキ。彼女の入れる紅茶は絶品だ。


 一緒に飲むから大体どれを持っているのか知っている。


 その中に、これは混じって無かったので買って帰ろう。


「商会ギルドも卸しているので、帰りまでに手配しておきます」


「助かります。代金は、さっき置いてきた野菜たちの代金から天引きでお願いします」


「分かりました。そう伝えておきますね」


 そう言って、ミラさんは部屋を出ようと扉に向かった。


 そして、出る瞬間に振り返り爆弾を投下した。


「そうそう、会長の友人として一言。何時になったらカリス様を嫁にするので?」


「ぶっ!?」


 俺は、飲みかけの紅茶を吹いてしまった。


 控えの人たちが慌てて、机とかを拭いてくれた。


 マジで、ごめんなさい。


「ちょっ、ミラさん!? って、居ないし!!」


 抗議しようにも既に彼女は部屋を後にしていた。


 机を拭いてくれた人たちに謝罪する間に出て行ったらしい。


「本当に申し訳有りません。うちのミラが……」


 一人が代表して謝罪してきた。


「いえいえ、友人みたいなものですし、気にしませんよ。むしろ、あれくらいの距離が丁度良いです」


「そう言って頂けると助かります」


 謝罪して来た男性は、ホッとした様子で控えに戻っていった。


 しかし、カリスさんか。


 てっきり既婚者だと思って意識してなかったよ。


 だって、既に如月と同じ位の年齢だし。


 それに名家の貴族らしいので、結婚していてもおかしくないと思ったのだ。


 やはり、商会ギルドの仕事をバリバリにこなしているから婚期が遅くなるのかな?


 ちなみに、うちの如月はそのパターンだった。


「何が遅いんですか? 帰って来るのに時間をかけ過ぎましたかね?」


「かっ、カリス!?」


 既に、カリスさんは帰って来ていた。


 その手には、麻で出来た布袋が握られている。


「それは?」


「あぁ、これはですね……」


 一瞬、支払いの金貨かと思ったが、それにしては軽そうだった。


 彼女は、机に置いて袋を開けると中にはクルミが入っていた。


「先日、良いクルミが沢山入ったんです。先程のお返しにどうぞ」


「良いのですか? ありがとうございます」


 これで、今日のおやつは決定だな。


 帰ったら、クルミを使ったブラウニーを作ろう。


 それからミラさんが出してくれた紅茶も一緒に出せば完璧だ。


「所で、何かあったんですか? 何やら他の子たちが落ち着かない様子なんですが……」


 これは、隠しても他の子たちから伝わるな。素直に話しておくか。


「皆さんが居るのにミラさんが、何時になったらカリス様を嫁にするの?って言いましたからね」


「ふぁいっ!? ……失礼しました」


 一瞬、変な声を上げたが、直ぐ様元に戻った。


「それは……ご迷惑でしょう。私から強く注意しておきますね」


「別に俺は嫌じゃないから大丈夫ですよ。俺としては、会った時から嫁にしたいくらいですし」


「ええっ!?」


「むしろ、カリスさんの方が嫌でしょ? 俺って、嫁さんが沢山居るし」


 俺が同じ立場なら、こんな節操なしの男から好意をアピールされても困ると思う


「それは……嫌じゃないですよ。それに多妻は認められてる事ですから問題にもなりません」


「マジで!?」


 カリスさんは、容姿もそうだが人柄も良い。


 親しくなるにつれて見せる乙女な所とか、男心をくすぐってくる。


 というか、開き直ったからこその考え方だよな。


 昔は、選択肢を全力で逃げるに振ってたのに。


「というか、結婚してなかったんですね。フリーだって、今さっき知ったんですけど」


「してないですよ! 確かに、実家から見合い話が沢山来てはいますがいません! 激務のあまり恋人も居ないですよ。そもそもですね。商会に入ってからというもの告白すらされた事ないんですから!」


 そういえば、如月たちもそんな事を言っていたな。


「まぁ、カリスさんは美人な上に会長だから高嶺の花って事なんじゃ?」


「びっ、美人だなんてそんな……」


 恥ずかしそうに頬に手を当てて、真っ赤になった顔を振っている。


 こういう所が……。


『(可愛いんだよな)』


 控えた人たちも多分同じ気持ちなのだろう。


 ほっこりした空気がこちらまで届いてくる。


 通常が何ものにも冷静に対応している分、ギャップが凄い。


 あっ、今気付いた。


 カリスさんって、大人のマリーに雰囲気が似てるんだ。


 だから、気になるのかもしれない。


「それでさっきの話は本当ですか?」


「えっ? ああ、うん。カリスさんなら何時でも歓迎だよ」


「なら、少し待って貰えませんか? 私には会長の立場が有りますし。それに……」


「それに?」


「夜の勉強はした事なかったですから……」


 消え入りそうな声でカリスさんは言う。


 距離が離れているから控えには聞こえて居ないだろう。


「……待ってます」


「……はい」


 カリスさんとの距離が近くなった出来事だった。


 ちなみに余談だが、ミラさんは既婚者だった。


 優秀な年下の男の子を捕まえたんだそうだ。


 人は、見かけに寄らないと思ったよ。

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