表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

261/484

メープルシロップの作り方

 森での狩りを終えて帰ってきたリリスから報告を受けた。


「ユーリさん。例の木を見つけましたよ」


「えっ? 本当に?」


「はい。ドライアドたちにも確認して貰いました」


 その手には、ドライアドたちに見せたであろう木の葉が握られていた。


「よし、俺は樹液採取用の容器とドリルを用意するから何人か募っておいて」


「分かりました」





 数分後。


「ここです。木は、10本程選定して目印を付けて置きました」


 リリスたちに案内されたのは、カエデの木が群生したエリアだった。


 正しくは、カリーナカエデ。このエリア固有種のカエデだ。


 それに布が巻かれている。


 カエデと言えば紅葉を想像するかもしれないが、これはサトウカエデの一種だ。


 葉の形も紅葉とは異なり、本来の名前通りに水かきの付いたカエルの手みたいな五角形をしている。


 これを探していたのは、メープルシロップを作る為だ。


「木に穴を空けて、容器の管を仕込んで下さい」


 やった事が有るリリスの指示で作業を始めた。


 まず、木に樹液用の穴を空けて、容器から伸びた管を差し込む。


 それから木に容器を取り付ければ終了だ。


「どのくらいで貯まるんだ?」


「1週間程すれば貯まります」


「えっ、そんなにかかるの?」


「はい、多少粘度があるので仕方ないです。それにシロップにするには量も必要です」


 思いの外、時間のかかる作業らしい。


「アイリス。ヘルプ」


 そんな気がしたので、アイリスを呼んでいた。


「は〜い、木から樹液を取れば良いの?」


「うん。枯らさない様に程々で頼む」


「了解」


 木に空けた穴からアイリスが干渉して採取を始める。


 数分とは言わない間に容器が樹液でいっぱいになった。


 1つの木からは、だいたい20リットル程確保出来た。


 結構取れると聞いていたけど、実際に見るとビックリする。


「木は大丈夫なのか?」


「これくらいなら大丈夫だと思うよ」


「本来は、この倍程確保出来ます」


 アイリスたちはこう言うが、少し心配になった。


 すると、クイッと背後から服を引っ張るのを感じたので振り向いた。


 そこに居たのは、一緒に同行して来たシズだった。


「大丈夫。ちゃんと木は生きてる。蓋もすれば大丈夫」


 そう言って、シズは穴と同じくらいの枝をしっかりと押し込んだ。


 それから無駄な部分をノコギリで切り落とした。


「後は、木の成長と共に癒着するからこれで終わり」


「シズが言うなら確かだな」


 これでもダフネの記憶を受け継いでいるだけあって、シズは草木には詳しい。


「仕事したからご褒美を請求する」


「ご褒美? 何が欲しいの?」


「子種」


「………フィーネのミルクを進呈しよう」


 とりあえず、スルーして誤魔化そう。


「なら、慰めるのに協力。記憶のせいでそろそろ限界」


 シズは、股を擦り合わせてモジモジしだす。


 彼女は、ダフネとの逢瀬の記憶を継いでるから身体が反応してるのかな。


「……全部終わったら部屋に行くから」


「やった」


 久しぶりに理性との戦いになりそうだ。


 最悪、賢者モードに突入してから行くべきか?


「それにしても、殆ど匂いがしないんだな?」


 メープルシロップの原料が200リットルも有るから甘い香りが周囲に充満すると思い気や全くしないのだ。


 更に、一舐して味をみてみるも殆ど甘さを感じなかった。


「煮詰める前は、メープルウォーターと言うだけあって、こんなもんですよ」


「そうなのか?」


 これは、相当煮詰めないといけないのではないか?


 自分の感覚が正しければ、半分。


 もしくは、40%位に煮詰めないといけないと思う。


「早速、戻って煮詰めよう」






 場所を移して、厨房に移動。


 5つ設置されたコンロの上は、全て樹液が入った大鍋で占領された。


「砂糖とかは要らないのか?」


 ジャムを作る時には、砂糖を加えている。


「元々、甘さと粘度が有るので要りません。ただ、シロップ状になるまで時間がかかるので根気が要ります」


「へぇ〜っ」


 という訳で、俺たちは煮詰めるのを開始した。


 その時、リリスが言った根気の意味を理解していなかった。


 2時間後、その言葉をハッキリと理解する。


「減らねぇ……」


 樹液そのもののせいか、はたまた焦がさないように火加減を弱めているせいなのか?


 鍋に入った樹液の量は減ってはいなかった。


 背後には、まだ80リットルもの樹液が残されていた。


「アイリス。濃縮出来ない?」


「う〜ん、さっき少しやってみたんだけど。こうなったんだよね」


 そう言って見せられたのは、小さな琥珀だった。


「宝石になっちゃった」


「マジか!?」


 樹液が固まって琥珀になると聞くが、メープルシロップの原料で琥珀って!?


 異世界のカエデだからなのか?


「素直に煮詰めろってことなのね……」


 厨房でするんじゃなかった。


 飯は、平穏なる小世界(イレーネコスモス)で作って貰おう。


「人を動員しよう」


 各家庭にコンロを2つ設置した。


 なので、1つ貸して貰い皆で協力して作るとしよう。


 煮詰めるのを代わって貰い、悪魔族やエルフ族にお願いに行った。


『協力します』


「助かる!」


 お願いしようとしたら、逆に協力を申し出られたので全力でお願いしたよ。


「あら、皆で何をやってるの?」


「この匂い。シロップ作り?」


「手伝って!」


 丁度、クエストからセレナたちが帰ってきたので、彼女たちにも参加して貰う事にした。


 分担し少しでも速く終わらせて食べてみたいのだ。


 それから約5時間程して、綺麗な琥珀色をしたメープルシロップが完成した。


 予想とは違ったが、150リットル程確保する事が出来た。


「それでは、実食!」


 用意していたトーストにつけて、皆で食べてみた。


『美味っ!?』


 それは、今まで食べたどんなメープルシロップより美味かった。


 しっかりとした甘さに加えてさらさらとした口溶け。


 そして、何より香りが段違いに立っているのだ。


「ちょっと待ってて!」


 急いでパンケーキを焼くことにした。


 トーストで食べるよりは、こっちで食べた方が段違いに美味いはずだ。


『手伝います!』


 急遽、平穏なる小世界(イレーネコスモス)に籠もってパンケーキ作りが開始した。


 内外での時間差を利用して作った出来たてのパンケーキ。


 これにかけて食べたメープルシロップはトーストとは段違いで、数日のオヤツはこれに決まりそうだ。


 手伝ってくれた家庭には報酬としてメープルシロップを2リットルずつ配った。


 それでも、70リットルくらい残ったのでうちや店で50リットル程確保して、残りは親しい人たちに配ろう。


 どんな顔をするか、今からとても楽しみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ