私たちが嫁になる前にしたこと
孤児院の部屋は質素なもので、簡単な机とベットしか置かれていない。
建物が立派になろうとそれは変わらなかった。
私は、自室のベットに座り、お古の鏡で表情の練習を始めた。
「あ〜っ……でも……いや……それより……」
鏡の中では、自分の表情がコロコロと変わっていく。
それを見ながら、あ〜でもない、こ〜でもないと悩んでいた。
しかし、それは侵入者によって妨げられた。
「ていっ」
「あうっ!?」
自分の頭に軽いチョップが振り下ろされて命中した。
「そんな百面相して、どうしたよ?」
「ミキ」
侵入者の正体は、元冒険者のミキだった。
彼女は、現在冒険者を引退し、子供好きも相まってうちの孤児院のシスターとして働いている。
彼女とは同じ仕事をする内に親しくなり、歳が近い事も有って、今ではタメ語で話す仲になった。
「また、ユーリさんの事でも考えていたのか?」
「え〜っと、その……はい」
「図星か。まぁ、そうじゃなきゃ、鏡で表情の練習をしないわな」
「分かってるなら聞かないでよ。それより、入る時はノックして」
「したよ。ナージャが気付かなかっただけさ」
そう言ってミキは、わざわざ椅子を反対にして座った。
「それで、わざわざ練習するくらいだ。何かあっただろ?」
「ミキなら良いかな。今日、マザーに呼ばれたでしょ。あの時に言われたのよ」
「なんて?」
「ここを出るか、シスターを続けるか決めなさいって」
ここの孤児院の規定では、一定年齢に達したら働いてお金を入れ、成人を迎えたら出ていくのが習わしだ。
私は、シスターをする事と手芸品をバザーで売って稼いでいた代金の一部を入れる事で満たしていた。
「でも、それは前の話だろ? ユーリさんがスポンサーになってくれたから」
そうなのだ。
ユーリさんがスポンサーになってくれたお陰でここの生活は安定し、シスターにも給与が払われる様になった。
だから、ミキさんもシスターをやれるし、私も出ていく必要はないのだけど……。
「マザーがね。ユーリさんが好きならアタックしてみればって。だから、挑戦してみようかと」
「それで、表情の練習ねぇ〜」
「とりあえず、オークションでの事を引き合いに出して攻めようかと」
「そしたら、アタシら他のシスターもじゃん」
実は、あの後ミキさん以外の人もここのシスターに採用された。
理由は、ユーリさんからのお願いを受けて、この孤児院で子供や女性の駆け込み所の役割もする事になったからだ。
他の国は有るが、この国は少ないらしい。
その分、寄付を増やしてくれたので、マザーが快く引き受けた。
「まぁ、奥さんたちも寛容だから悪くないね」
「そうだよね。あの人数で殺伐としないのが凄いよ」
孤児院に来ていた他の冒険者たちを紹介された時、全員が嫁ですと言われてビックリした。
「まぁ、アレだけの実力を目の当たりしたら惚れるよな。かくいう私も惚れたみたいで、脱出する時に見たユーリさんの背中と横顔をよく思い出すよ」
「そうなの? だったら、ミキも一緒に言う?」
「う〜ん、そうだね。悪くないかな。でも、一層皆で言うのは? あの子たちも満更じゃ無さそうだし。彼女たちに話してみない」
確かに一部の娘は、既にアタックしているのを目撃している。
それに2人で言うより大人数で言った方が怖くない。
「そうだね。そうするよ。あっ、でも、そしたらシスターの仕事はどうしよう?」
「それは、上手く行った時の話で、要相談で良いんじゃないか?」
「それもそっか」
「それより、奥さんたちに話を通しておいた方が良いかもね。私たちも混ざる事になるかもだし」
「そういえば、緊急連絡先として教えられた店にいるらしい……」
「なら、その人からアイリスさんたちに繋げて貰って進めよう」
こうして私たちは、ユーリさんに娶ってもらう為に動き出した。
そして、当日。
『買った責任を取って下さい』
そう言って私たちは頭を下げた。
顔から火が吹きそうで凄く恥ずかしい。
1人じゃなくて良かったと心の底から思った。
「皆、顔を上げて」
顔を上げて見たユーリさんは凄く困った顔をしていた。
それもそうだ。5人もの女の子がお嫁さんにしてくれとお願いしているのだから。
「男としては嬉しいんだけど……」
ユーリさんの視線は一緒に来ていたアイリスさんたちに向けられていた。
「私は、OK」
「私もです」
事前に話を通しておいたので、アッサリと許可を出してくれた。
「……分かった。でも、条件がある」
ユーリさんが出した条件とは意外なモノだった。
「君たちが妻になる以上、一緒の場所で暮らす事になる。だから、そこで1週間暮らして問題無ければ嫁に来て下さい」
『?』
意味が分からなかった。
暮らす場所に問題でも有るのだろうか?
『分かりました』
危ない経験も恥ずかしい経験もした私たちに怖いものは無い。
……
…………
…………………
………………………筈だった。
『ひぃ!?』
夜、たまに聞こえてくる魔物の雄叫び。
それは、非現実の世界だった。
「お〜っ、また鳴いてるな。発情期かな?」
全く気に止めないミキに私たちは尊敬の眼差しを送った。
「冒険者の時の野宿は、これが日常だったからね。今は、快適過ぎて眠くなる」
「ミキは、怖くないの?」
「いや、ユーリさんがいるし。防衛もしっかりしてたから安心なのさ。それに、ここのメンツは誰も彼もBランク以上だし、子供ですらCランクは確実な程の実力を持ってるからな。問題が起きても大丈夫に思える。まぁ、慣れの問題さ。気にしなくなったらイケるよ」
その言葉を信じて私たちは眠りに付いた。
1日目から3日目までは、そんな風であまり眠れず散々だった。
でも、食事が美味しいかったので頑張れた。
4日目。
少し心に余裕が持てる様になったので、妖精の箱庭の手伝いを色々し始めた。
奥さんたちの事を知りたいと思ったし、この場所を知るチャンスだと思ったからだ。
相変わらず、食事が美味しい。温泉最高。子供たちにも堪能させたい。
出張出来るそうなので、今度お願いする事にした。
その夜、疲れてぐっすりと眠る事が出来た。
5日目。
日課にも参加する事にした。
戦闘訓練やゲーム。皆さんが強い理由を知った。
「そうか!こうすれば良かったのか!」
ミキは、エルフさんたちと意気投合して戦闘訓練に邁進していた。
6日目。
もう何も怖くない。
慣れとは恐ろしいものだと思う。
魔物の雄叫びが、野良猫の鳴き声レベルに感じるとは。
最終日。
その日の夜、私たちはユーリさんの部屋を訪れた。
今から私は初めてを捧げる。
服を脱ぎながらこの1週間が脳裏を過った。
それは、他の娘も同じだった様で、ミキ以外と抱き合ってお互いを讃えた。
「これからも宜しく。優しくするからね」
そう言って貰い、ユーリさんと肌を重ねた。
翌朝。
『………』
私たちは、力尽きたかのようにベットで寝ていた。
昨日は、途中から記憶がない。
いや、無くはない。ただただ凄かったという記憶がしっかりと脳と身体に刻まれている。
お嫁さんが多くてもやっていける理由を実感した。
『気持ち良かったけど。週一くらいで良いや』
それが、私たちの共通認識だった。
「あっ、ナージャお姉ちゃん。それに他のシスターもお帰り」
「只今、元気にしてた?」
私たちに気付いた子が駆け寄ってくる。
それに気付いて他の子たちも後ろからやって来た。
「うん。でも、何でお嫁さんになったお姉ちゃんたちがここに居るの?」
他の子供たちからも同様の質問が上がった。
「お嫁さんとしての仕事がシスターさんだからだよ。また、よろしくね」
ユーリさんと話合った結果、私たちは妖精の箱庭でなく、元いた孤児院で今まで通り働く事になった。
「さて、マザーにも報告しないとね」
私たちは子供たちと談笑を楽しみながら孤児院の扉をゆっくり開けた。
そろそろ、マーメイドとかアラクネとかとの出会いを書きたいと思うけど。彼女たちとの出会って、どんなのよ?
以前、予定を変更した結果も重なって止まってます。
希望あったら参考にしますので、感想によろです。
でも、あまり期待しないでね。




