100 vs 1
「俺に任せておけ」
とは言ったものの……どうしよう?
フラガラッハだと切れ味良すぎて殺してしまいかねない。
殺しても罪にならないが、なんかこうモヤモヤする。
エリクサーのストックがあるから治療出来なくないが人数が多過ぎる。
今回は、使わない方が無難だろう。
ヤバくなったら抜くけどね。
とりあえず、改めて自分のスキルを確認する事にした。
職業スキル、唯一の戦闘モノ。
英雄。
詳細:思考加速・筋力増加A・魔力増加B・敏捷A・スタミナ増強・物理耐性A・魔力耐性A・魔力感知・魔法威力増大A・威圧・集中
英雄って、職業なのか?は、この際置いておくとして。
能力が上がるモノばかり。
そもそも職業スキルって、創造系以外は自動発動なんだよね。
創造系。種を創る時のアレだ。意識すると発動する。
知識系は、思考したら解答に適したモノをくれる。
例、エリクサーを作るで考えたら原料と製法みたいな。
加工系は、意識があるけど意識がないみたいな、夢現状態。
または、行為を行ったら起こっていたみたいなやつ。
前者、解体時が特にそうだな。
後者が、木材確保と同時に乾燥が起こる、アノ現象の事。
……アレ?
詳細の中に気になるものがあった。
威圧?
詳細:英雄覇気により相手を威圧する。それにより、相手の状態を気絶または、恐慌状態へと移行させる。ただし、相手が精神系の効果使用により緩和または脱却する事が可能。
内容から任意発動可能らしいな。
もしそうなら、何人か気絶もしくは、恐慌状態の者が出るはずだ。
なら、創造系と同じか?意識する事が大事。
「時間となったのでこれより試合を開始する!」
ゴォオーーン!
大きな鐘の音が響き渡った。
使ってみよう。発動しなければ素手で殴る。
英雄覇気!
**********
俺は、ロイド。しがないエルフの冒険者だ。
何処にでもある名なので忘れてくれ。
ちょっとばっかし長寿なだけだしな。
趣味は、闘技場での観戦。
仕事で戦う事もよくあるので見てて楽しいし、勉強にもなる。
今日は、十年に一度の竜王祭の予選だ。
竜王主催な事もあり、報酬額のデカさと最強の称号目当てに、各地から猛者が勢揃いする。
本戦は、各国の推薦者なのだが、野良にも強者はいるという竜王の考えから一般枠が出来ている。
しかも、一般枠に選ばれた者は、金貨2000枚を与えられる。
それだけあれば、数十年は遊んで暮らせるだろう。
故に、一般枠予選には腕自慢や推薦を貰えなかった者などが多く参加する。
勝ち残るのは容易ではない。
そんな中、今年は更に特別報酬があるらしい。
一般枠候補者の1人。
ユーリ・シズを倒せば報酬が出るらしい。
参加者だけでなく観客の目も全て彼に向いている。
真紅のコートを羽織っているので、よく目立つ。
竜王の思い付きは、毎度予選を楽しませる。
しかし、今回は不味すぎる。
死人が出るぞ。
倒すだけで貰えることもあり、真っ先に狙われるだろう。
流石にどんな強者であろうと100人相手にするのは無理だ。
本人も竜王に文句を言っていた様だし。
「時間となったのでこれより試合を開始する!」
開始を告げる鐘の音が鳴り響いた。
ユーリ・シズは、動こうとしない。
それだけでなく武器すら出していない。
諦めたのか?
そう思ったのが馬鹿だった。
俺は、その日の事を忘れない。
開始と同時に、多くの参加者が気絶して倒れ伏した。
意識ある者たちも彼から逃げ始める。
彼が何かをした様だ。
勝敗は、こうして決した。
**********
スキルの発動を感じた。
自分を中心に魔力放出とは違う何かが溢れてステージを駆け抜けた。
バタッ。
1人倒れたのが確認出来た。
失敗か?と考えた時。
ドサッ。
大量の人数が一気に倒れ伏した。
「ヒッ、ヒィーーー! た、助けて!!」
声をした方を向くと腰を抜かし、這いずっている者たちがいた。
数人ステージから逃げ出していった。
俺は、残っている者たちに近付く。
「止めろ、止めて、来るな!!助けて!誰か、助けて!!」
「皆でかかればと考えてすまない!だから、許してくれ!!」
「俺は、俺は悪くない!見逃してくれ!!」
「アンタに従うから、だから、だから!!」
泣きながら助けをこう者。土下座しながら謝罪する者。
自分は悪くないと主張する者。従順を言い出る者。
ナニコレ。
まともに立っている者が誰もいない。
恐慌状態。
俺は、恐怖の魔王か、何かですか?
英雄だよね?英雄覇気だよね?魔王覇気とかじゃなく。
とりあえず、この状況を何とかしよう。
「降参宣言すれば何もしない。好きにしてくれ」
「「「降参します」」」
誰も彼も歓喜の表情で降参宣言を行った。
「試合終了!」
ゴォオーーン!
開始と同じ鐘が鳴り響いた。
終わった瞬間、宣言した奴らは神へと感謝を捧げ始めた。
神への感謝は良い事です。特にタナトス様を崇めなさい。
……じゃなくて。何に対する感謝?
生への感謝。
俺から解放された事に対する感謝じゃないよね?
違うよね?
こうして、ジジィの無茶振りは、スキルを使って回避出来たのだった。
……俺、街に買い出しに来ただけだったよね?
何でこんな事になってるの?
ユーリは、疑問は尽きぬが参加したからには仕方ないと思うのだった。
それは、本人の真面目さ故だろう。
そして、ユーリはまだ知らない。
後に、闘技場において『真紅の旋風』と語られる伝説になることを。