誘拐の目的とは?
「ナージャちゃんが誘拐って、どういう事?」
子供たちの話を聞いて、アイリスが詰め寄って来た。
「さぁ、俺も分からん。あまり詮索してなかったし……」
「ユーリさん。ナージャさんの事で知ってる事は?」
「そうだな。両親が病死して、ここの孤児院に預けられたくらいか?」
それくらいしか、彼女の事は知らない。
彼女との会話は、ここの運営や子供たちの話ばかりだったからだ。
「とりあえず、子供たちに当時の情報を聞こう」
「じゃあ、私はリリスたちを呼んでくるよ。今日は、非番だから」
「そうだったな」
ここに来る途中、リリィの店で倉庫整理を手伝っているのを見かけた。
彼女たちなら協力してくれるだろう。
「頼んだと言いたいが、その前にして欲しい事がある」
「えっ? 他に何かあるの?」
「あぁ、それはな……」
数分後。
「がふっ!?」
アイリスは、空間魔法を使って1人の男を放り出した。
「確保したよ。予想通り、路地裏から孤児院を伺ってた」
「やっぱりな。助かったよ」
俺は、アイリスにお礼を言いながら男を押さえ付けた。
この男は、ナージャを誘拐した犯人の1人だ。
俺たちの動きを監視する為に、1人くらい居ると思ったが案の定居た訳だ。
「離せ!俺に手を出してただで済むと思ってるのか!今なら許してやるぞ!」
拘束されているのに高圧的な態度を取る男。
ふう〜っ、やれやれ。少し落ち着いて貰おう。
「正直に話したら解放しても良いよ」
カカカカッ!
「ヒィ!?」
男の周囲に大量のナイフを投げ付けた。
「あまり動くから手元が少しズレたじゃんか」
一部コントロールをミスってしまい、男からは少し血が出てる所も有った。
命に別状はないし、大人しくなったから結果オーライか。
「ねぇ、主犯格は誰? 後、何でナージャを誘拐したの?」
「だっ、誰が言う……」
「え〜っと、なになに。主犯格は、ここのマザーの元旦那さんで……誘拐した理由は、大金が孤児院に寄付されたのを知って分け前を貰いに来たと……」
「なっ、何故それを!?」
相変わらず、アイリスの能力は凄いな。知りたかったことを犯人の心からどんどん聞き出すよ。
「それじゃあ、どうやって大金が入ったって知ったんだ?」
「どうやってか知らねぇが、誰が話すものか!」
「建物が1日2日で新品になったから、それだけのお金が入ったと考えたって」
「なんでその事を知ってるんだ!?」
男の反応からも事実の様だ。
つまり、俺が1日で建物を建て直したのが原因な訳か。
数日かけて作るべきだったかな?
でも、結局は金目当てだし、同じ事か。
「ユーリさん。子供から有益な情報が得られましたよ」
隣の部屋から子供たちの話を聞いていたはずのマリーが帰ってきた。
「子供たちはなんて?」
「ナージャさんを連れ去った人の中にマザーの旦那さんがいたそうです。子供たちが顔を覚えていました」
マリーの話を詳しく聞くと、元旦那は大変なクズだったらしい。
孤児院を訪れては、子供たちに暴力を振るっていた。
止めて欲しくば金を出せと言った事も有るらしい。
そのせいで、子供たちは怯えて何も出来なかったらしい。
「これは、確実に元旦那が絡んでるな」
犯人の目星が付いた所で、騎士団へも報告を入れておこう。
そう思った瞬間、バンッと激しく扉が開き、誰かが転がり込んできた。
「ナージャは! ナージャは、無事かい!?」
それは、シスター服に身を包んだ優しそうなお婆さんだった。
「あっ、マザー。今、丁度尋問してる所です」
このお婆さんが、この孤児院を経営しているマザーだ。
どうやら、ぎっくり腰は良くなったらしい。
それとも気が動転して、腰の痛みを忘れてるのかな?
「尋問って事は、ナージャはまさか!?」
「すみません。誘拐されました。俺の落ち度です」
「そんな……」
現状を知って、座り込んだマザーの表情がどんどん青褪めていく。
「今、誘拐犯の1人がマザーの元旦那さんらしいと判明したのですが、何か知りませんか?」
「そっ、そうだった。これが家の扉に挟んであったんだよ!」
マザーが懐から取り出した紙を受け取り、俺たちは読み始めた。
内容は、こうだ。
ナージャは、預かった。返して欲しくば、寄付された大金を全額寄越せ。期限は、今日の20時。
遅れても良いがその場合は、1時間に付き1人の客をナージャにとって貰う。つまり、売春させるとのこと。
また、騎士団に連絡したら直ぐに分かる。その場合、ナージャの命は保障しないことまで書かれていた。
「セーフ。危なかった。もう少しで騎士団に連絡する所だったよ」
「監視されてたから騎士団に通報したらバレるのかな?」
それか、騎士団の所にも誰か配置してるとかだろう
「とりあえず、詳しい話は彼に聞いてみよう。アイリス、引き続き頼むわ」
「は〜い♪」
「くっ、来るな! 俺からまた聞き出す気か!? これ以上は止めてくれ! 教団に殺されちまう!!」
アイリスが近付いていくと怯える男。
感情的になればなる程にアイリスは読みやすくなるから、後は任せておけば安心だな。
「アンタ、パン屋の小倅じゃないかい!」
どうやら、マザーの知り合いらしい。
「知り合いなの?」
「あぁ、近所のパン屋の息子さ。それより教団って言ったね。アンタもアイツと同じ所に入ったってのかい?」
「教団?」
また、宗教絡みかよ……。
ここら辺は、色んな宗教が多いからそんな気はしたけど。
どう考えても面倒くさそうな案件だな。
「カルト宗教みたいだね。入信した理由は、女と金目的だって。後、騎士団への連絡は止めた方が良いかも。そこにも仲間がいるみたい」
近場の騎士団に連絡するのは無しだな。
ペンドラゴンから転移門で直接連れて来るとしよう。
「女と金ねぇ……」
「教団で、女性を監禁し売春させてるみたいだね。その他にも……うわっ、最低。女は男の玩具じゃないんだよ!」
心を読んでいたアイリスが怒り出した。
相当、女性に色々やってるみたいだな。
「もしかして、ナージャちゃんにも何か……してるのね!ユーリ!」
「ナージャの身がヤバイのか?」
それならすぐにでも駆け付けなければいけないな。
「ヤバい! オークションにかけられそう!」
「はぁ? オークション? 人身売買か何か?」
「それよりはマシだけど………のオークションだって」
「すまん。聞こえなかった」
アイリスの声が重要な所で小さくなってしまった。
「えっと……その……うん。ちょっと、耳を貸して」
「おう」
アイリスは何やら言い淀んでいたが、耳元に来て呟いた。
その内容は、俺には理解し難いものだった。
というか、処女って言うのが恥ずかしかったのね。
まさか、アイリスがそれで恥ずかしがるとは思わなかったよ。
うちの奥さん、こういう所が有るから可愛いんだよね。
少しほっこりした。
ほっこりした所で気付いてしまった。
「実は、初めからナージャ狙い?」
そんな気がしたので、アイリスに聞いて貰った。
「………みたいだね。なんでも、俺色に染めたい娘ランキングに入ってるだって」
それでオークションに掛けて、高値で売春させようという訳か。
「このまま乗り込むよりオークションごと潰した方が良くない?」
「オークションの開始は、19時。場所は……知らないの!?」
「どうせ、下っ端なんだろう。しかも、19時か。コイツら、はなから金が払えないと踏んで計画を立てたな」
とりあえず、ナージャの場所を把握した方が良さそうだな。
「マザー。ナージャの愛用品とか無い? 出来るだけ長く使ってる物だと凄く助かるんだけど」
「うん? 有るよ。ちょっと待っておくれ」
少してマザーが持ってきたのは、子供たちに読み聞かせる本。
その本に挟まれた押し花の栞だった。
「あの子がここに来た時に作った物さ。これはどうだい?」
「グッジョブ! これなら確実に居場所を突き止められるよ」
俺は栞を受け取ると、アイテムボックスから和紙を取り出した。
「匂いや魔力感知以外に方法が有るの?」
「あぁ、ちょっとした条件を満たす必要が有るけどね」
栞を和紙で綺麗に包み、裏に炭で陣を書く。
「この前のシキナの件があって勉強したのさ。元々、相性の良かった和国の術で探したらあってね。『思鳥人渡の法』という魔法だよ」
陣に魔力を込めると、栞を包んだ和紙は姿を変えて鳥になった。
「一旦、様子を見てくるからここの事はマリーに頼めるか?」
「はい。子供たちも懐いてくれてますし、大丈夫です」
「私も居るから安心おし。ナージャがヤバそうなら即助けておくれ」
「分かってる。それじゃ行って来るよ」
和紙で出来た鳥を空に投げると飛び始めた。
後は、鳥がナージャの元へ俺たちを運んでくれるだろう。




