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嫁に憑かれました

 それは、とても月が綺麗な夜だった。


「ユーリ君……私はもう……ダメみたい……」


 俺の手の中で、そう呟くモモちゃん。


 彼女の身体は、時間の経過と共にどんどんとその色が透けていく。


「おい、何を馬鹿な事を言ってるんだ!俺や子供を残して消えるな!」


 俺の視線の先には、彼女が産み出した子供の姿があった。


 それは、本来魂だけの存在であるモモちゃんに到底不可能な現象なのだが、彼女の身に起こった奇跡によってとうとう誕生したのだ。


 俺と交わした契約による妊娠の受け入れ。


 それからダフネが行ったハイエルフの作り方。


 それらが合わさり、彼女は俺との子を産むことに成功したのだ。


 しかし、奇跡には対価が付きものだ。


 霊体、つまり魂の状態での出産には膨大な魔力を必要とした。


 その為、彼女の魔力が底を尽き、死に瀕しているのだ。


「私も可能なら消えたくない……」


 優しく温かさを感じる彼女の手が俺の頬を撫でる。


「でも、これが運命だっていうなら受け入れるしかないわね」


「なんで、俺が運命なんかを!」


 また、運命の奴は、俺から色々奪っていくのか!


 何で、こんな悲惨な運命を受け入れないといけないんだ!


「泣かないで、また直ぐに会えるから。だから、最後に思い出を下さい。消えてしまうその瞬間まで貴方を感じていたの」


 俺の涙を拭うと手を広げ、受け入れる用意がある事を示すモモちゃん。


「分かった。最高の思い出を刻んでやる!」


 俺は、彼女に激しくキスをした。


 それから彼女の姿が完全に消える瞬間まで、お互いの全てに触れ合ったのだった。






 チュンチュン。


 小鳥のさえずりを受け、ベットの上で目を覚ました。


 あの後、彼女が消えるのを確認して俺も意識を失った。


 目を覚ました後に周囲を見たが、既に彼女の姿は何処にも見当たらなかった。


 おそらく、ちゃんと成仏出来たのだろう。


 この手には、彼女の温もりがまだしっかりと残っている。


 それでも、時間と共に忘れるのだろう。


 だが、彼女の残して行ったモノも確かに有る。


 俺は、それをしっかりと護っていこうと心に誓うの……。


「あっ、おはよう!モモちゃんですよ〜♪」


「俺のシリアスを返せっ!」


 俺は、気のせいだと思いたい。


 だって、あれだけのシリアス展開をしておいて、実は生きてましたなんて……。


「ってか、何で居るですかね!?」


「あら〜っ? 昨日は、あんなにも愛してくれたのに、もうそんな態度なんですか?」


「モモちゃんを愛してる事には変わりないよ!でもな、完全に消えたよね!!」


 ちゃんとこの目でモモちゃんが消える瞬間を見ていたのだ。


 あれが嘘だとは思えない。


「いや〜、ユーリ君があまりにも激しく求めてくれた事で、私と貴方の中にアイリスちゃんたちみたいな魂の繋がりが生まれたのよ」


「それだけじゃないよね!? なんか、俺から紐みたいなのが繋がってるんですけど!?」


 俺の胸当たりから紐が出ていて、彼女の首に繋がっている。


 彼女が動く度に、その紐の長さが増している事が見て分かった。


「あっ、それが魂の繋がりですよ。私、霊体なんで目視し易いんだと思います」


「なるほど」


 アイリスたちの場合、肉体が有るから見えないという事か。


 改めてよく見ると魔力による繋がり時に見えるパスと似ている。


 ただし、運命の糸みたく赤い色をしているのが印象的だ。


「それより聞いて下さいよ! ユーリさんが、私に色々限界まで注ぎ込んだ結果、繋がりが深くなっただけじゃなく憑く事になったみたいです!」


「………就く?」


「そっちのつくじゃなくて、憑依の憑くだよ」


「はぁ!?」


「簡単にいうと四六時中、私と一緒に居る事になるって感じ? アイリスちゃんたちには申し訳無いけど、仕方ないよね?」


 つまり、常に奥さんに監視されるのと同じ状況の様だ。


「あっ、凄く動揺しているのが分かるよ。アイリスちゃんもこんな感じで読むのかな?」


「心も読めるんですか!?」


「そりゃあ、憑いているからね」


「oh……」


 自業自得なのは分かるけど、誰か俺のプライベートを返してくれませんかね?


 これは、後で何処まで読めるか調べないと色々不味いな。


「とりあえず、皆に説明するぞ!」


 昨日、皆は俺とモモちゃんに気を効かせて、部屋で2人っきりにしてくれた。


 なので、皆の中では死んだ事になってると思う。


「あっ、そうだったね。ちゃんと生きてる事を言わないと!」


 俺を起こしに来てくれる人はまだ来てないが、さっさと起きてモモちゃんをアピールしよう。






「ユーリさん。昨日の事はお悔やみ……」


 メイドをしているエルフの娘が硬直した。


 死んだと思った人が生きていて驚いたのだろう。


 とりあえず、そっとして置いて次に行くか。


「きゃあぁぁっ!!」


 悲鳴を上げて去っていくメイドの獣人族。種族特性も出て、見事な逃亡だった。


 それからも会う人会う人が、どちらかの反応をしていたよ。


「あっ、コマチ。おはよう!」


 イナホと一緒の朝食を取り、学校へ見送るためにやって来たコマチと食堂で会った。


「あらっ、ユーリさん。おはようございます」


 巫女服姿のコマチは、出会った頃より血色もスタイルも本来の姿に戻った様で、未亡人の色香を漂わせていた。


「なるほど。コマチさんも嫁にしたいくらいなんですね。イナホちゃんの手前我慢してるけど」


「そんな、私なんて良いおばさんで……えっ? モモちゃんさん?」


 コマチ自身も満更でなさそうなのか照れていたが、途中でモモちゃんの存在に気付いた様だ。


「コマチさん。前にも言いましたよね? モモちゃんって。『さん』は要らないですよ」


「えっ? なんで? 成仏したんじゃ?」


 さすがに、コマチも目を白黒させて驚いていた。


「ユーリ君のお陰ですよ! 彼の愛が私も救ったんです!」


 ドヤ顔でコマチに愛を語るモモちゃん。


 なんか、色々思う所があったので、背中を縦になぞる事にした。


「ひゃう!?」


 思いの外、可愛い声が聞けたので、俺は満足した。


「ほら、それくらいにして、他の人にも生きてた事を伝えようね?」


「あっ、そうでした!」


「アイリスたちは……起きてきたらで良いな」


 とりあえず、食堂にいるメンバーからにする事にした。


 その後、皆に生きてる事を説明したが、阿鼻叫喚の反応をされたよ。





 皆に説明が終わった後、俺たちの子供を見に行った。


「この子の名前は、ハクだ」


 俺とモモちゃんの子は、精霊の子と同じ手法で作ったが、人間族の子だった。


 やはりハイエルフになるには、精霊の因子が必要だと理解したよ。


「触れます! ちゃんと触れますよ!」


 モモちゃんは、ハクにも触れられる事に喜んだ。


 俺以外に触れられなかったから、余計に嬉しいのだろう。


 後日、他の人にしっかり触れる事が判明した。


 どうやら、俺に憑いた事が原因らしい。


 なので、皆から驚かされた仕返しをされたのは言うまでもない。

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