ケリュオンの研究
ケリュオンを追い詰めたまでは良かったけど、何かしらの魔法をシキナたちに使われてしまった。
「ゲホッ!ゲホッ!何よ、この煙!」
「ゲホッ!身体は……良かった!変なゲホッ……物が増えた感覚は無いわ!」
煙でよく見えないが、2人は無事な様だ。
「煙が出過ぎたな。これでは、2人が見えないではないか」
そう言ったケリュオンは、風魔法で2人を包んでいた煙を払った。
2人の姿が次第に見えてきて。
『なっ!?』
皆がしっかりとガン見する中、俺は急いで顔を反らした。
その状態からアイリスの柔らかい手が、俺の目を塞ぐ事になった。
「ねぇ、何あれ? ユーリが着せるコスプレみたいだね」
「………黙秘します」
「え〜っ、でも、ユーリ。アレは、凄く好きな分類でしょ? 専用の尻尾や耳を多種多様に準備するくらいだし」
「その……日々の刺激に……」
「好きだよね?」
「……好きです」
本音を言うとリリスたちに聞かれたくなかったんだけど、諦めるしか無さそうだ。
「リディアとリリア。今の聞きましたね」
「ええ、姉さん。しっかりと聞こえましたよ」
「やはり着衣プレイは、結構好みみたいですね」
ほらね。言わんこっちゃない。
これは、限界まで腰を酷使する事になりそうだ。
「シキナ……なのか?」
ミコトの呆然とする声が聞こえてきた。
無理もない。彼の性癖から考えると今のシキナはショックだろう。
「うん? どうしたの? そんな絶望した様な顔をして?」
「やっぱり、シキナなんだね。なら、隣がヒサメさんか。2人共、自分の身体を見てごらん?」
「えっ、身体? やっぱり何か起こってる?」
「違和感なかったから大丈夫だと……?」
「「きゃああぁぁーー!」」
ミコトに促された結果、2人は現状を認識した様だった。
同じ叫びで全く違う2人の叫び。
一方は、あまりの肉体変化に対する驚愕と今後の絶望。
もう一方は、前より良くなった事に対する歓喜の叫びだった。
まぁ、何が言いたいかと言うとだな。
2人の姿が、普通の獣人レベルになったのだ。
尤も正確に言うなら半獣人と言った所か?
分かりやすく言うとタマ○キャット状態なんだわ。
シキナにとっては凄い変化だよな。大量の毛が無くなり、人らしくなった訳だし。
「素晴らしい!素晴らしいぞ! これぞ、私が望んだ姿だ!」
この結果に歓喜した声を上げるケリュオン。
つまりコイツは、この形態を生み出す為だけに研究していた訳か。
「否定してやりたい所だけど、否定出来ねぇ……」
俺自身もこの魔法は有りだと思ってしまった。戻れないのがデメリットだけど。
「ふふっ、当然だろう! 貴公も男だからな!」
「まぁねぇ〜」
「ちなみに、点数を付けるならどうだ?」
「それ、言った瞬間、2人をガン見した事がバレるんですけど」
「声に出した瞬間からバレてますよ」
「私は、触れてるから最初から分かるよ。なになに……シキナちゃんは、45点。ヒサメさんは、75点。まだ、2人の性格がよく分からないので、見た目のエロさのみで判断だって」
「すみません。心を読むのを止めてくれませんかね?」
うちの嫁たちは、容赦ないと思った。
「理解してるなら目隠し止めてくれない?」
「他所様の相手に浮気?」
「このままで良いです」
人妻や他人の彼女は、NGです!
「それでも、一般女性なら高得点。私は、この結果に満足ーー」
「ふざけるな!」
「ぐふっ!?」
どうやら、何かしらでケリュオンが吹き飛ばされた様だった。
やはり、冒険者としてケリュオンの所業が許せなかったのだろう。
「獣要素を減らしてどうする!!」
前言撤回。
やはり怒った理由は、シキナの獣度を減らした事だった。
「確かに分かるよ! 獣耳に肉球、尻尾と! でもねでもね! フサフサの獣毛くらいしっかり残せよ!」
「これでも、結構しっかり残って……」
「顔を埋めたくなるくらいだよ!!」
だったら、普通に獣を飼えよ。俺は、そう強く思った。
「………なるほど。理解したわ」
「さすが、ボクの幼馴染で彼女のシキナだ」
「つまり、私の魅力は……」
パキン!
という金属の弾ける音がシキナたちの方からした。
「獣毛だけか!」
「ごはっ!?」
そして、聞こえるミコトの叫び。鈍い音がしたから殴られたのだろう。
全く、彼女を疎かにするからこうなる。これは、後でフォローしてやらないと別れそうだ。
「どうするユーリ。2人共、気絶したみたいだよ」
「……ケリュオンを回収して撤退。アイリス。シキナたちの服を頼めないか?」
「良いよ。急いで作るね」
数分後。
俺は、やっと現状を確認出来るようになり、1人足りない事に気付いた。
「あれ、ナラクは? 確か、一緒だったよな?」
逃亡した時に一緒だった筈だが?
「ナラクさんはその……」
「………」
2人は、悲痛な表情を浮かべていた。
「よっと! あっ、本当にいた。これなら外に助けを求めに行かなくて良かったじゃん」
「「えっ?」」
なんと、俺がハンマーで殴って開けた大穴からナラクが降ってきた。
その姿は、シキナたちと同じ様な形態になっていた。
「なんで上から?」
俺がナラクに尋ねるとあっさりした答えが返ってきた。
「自分。別の部屋に拘束されてたんですよ。今回の騒ぎが聞こえてきて、居場所を知らせようと暴れたら拘束具があっさり自壊しましてね。だから、外に出て知らせようと……」
その後、外に出たらエロースたちに包囲されたらしい。
それから現状と身分の説明して、ヒサメの為に大穴から戻ってきたそうだ。
「あははっ、無駄足でしたね……あふっ!?」
笑っているナラクにヒサメが突進して押し倒した。
「ナラクが生きてるよぉ〜〜……」
泣き出したヒサメをシキナが慰める。
彼氏は放っておいて良いのだろうか?
「どうせ、直ぐに復活するから放置で良いんです!」
とは言うものの、下級ポーションを振りかけていたから2人の関係は今の所問題無さそうだ。
後日。
「素晴らしい!素晴らしいぞ!こんな発想は無かった!」
「当然だ!俺の野望が生み出した魔法だからな!」
何故か、冒険者ギルドに顔を出したらケリュオンとミコトが魔法や獣萌について意気投合していた。
「それを完成させた俺たちに一言ないのか?」
「むむっ……」
ケリュオンの作った魔法は俺たちのアドバイスを受けて真に完成したと言える。
現在、使用した場合の効果は、獣度を3段階に切り替えられる様になった。
つまり、元の姿、半獣人、完全獣人だ。
だから、ヒサメたちや被害者は元の姿に戻れた。
シキナは、毛の手入れが楽とかで結構気に入っているらしく、もう暫くそのままでいるそうだ。
でも、ミコトの気持ち的にすぐにでも戻るべきかと惚気られたよ。
「そういえば、聞いたよ。行方不明者たちが見つかったんだって?」
「ああ、私にも心当たりがないと思ったら、ただの引き篭もりだった様だ」
行方不明者たちは、ケリュオンに獣人化され、恥ずかしさのあまり全ての者から関係を隠し、家に引き篭もっていた。
誰も彼も自分から受け入れた結果だからこそ恥ずかしいのだろう。
この件は、ケリュオンが掛けた保険の魔法を辿った結果分かった。
もし、ケリュオンの居場所を告発しようとしたり、自殺しようとしたら自分の元に帰ってくる様にと魔法を掛けていたのだ。
そんな彼らも現在では元に戻り、後遺症も確認されていない。
終わり良ければ、全て良し。
結果的に殆どの人が同意の上での実験だったので、ケリュオンの罪は大分軽くなった。
そこからは、司法取引。
昔利用した裏組織の情報とかを提供したそうだ。
その後、今回作った魔法の特許を申請。
記した魔導書は、国立図書館に預ける事で、閲覧費用を回収するとのこと。
そんなこんながあって、今や指名手配犯ではなく、晴れてフリーの魔導師になった訳だ。
こういう奴が居るから新しい魔法が生まれるのだと認識した事件だったよ。
「所で、シキナが言ったけど、ケリュオンの野望って何?」
「そういえば、俺も気になるな」
「決まっているだろ! 半獣人のハーレムを作る事だ!」
エロは、最高の原動力だと思ったよ。




