変態
「さて、ミコトのせいなのか、お陰なのか微妙だが、知りたかった事が分かったよ」
俺は、萌談議を止めて、ヒサメの方を見た。
ミコトが捲ったせいで、彼女の腕が露出している。そこには、獣毛がびっしりと生えていた。
彼女の種族が人間である筈なのに……。
「「………」」
何を言われるのかを分かっている様で、ヒサメとナラクは伏し目がちに下を向いていた。
俺は、2人の状態と種族を確認する事にした。
種族:不明
状態:正常
付与と聞いていたから状態異常かと思ったが、今の状態が正常と認識されるらしい。
これでは、エリクサーとかでも治療は無理そうだ。
「人外を融合させる実験」
「「っ!?」」
2人の間に緊張が走るのが分かった。
それを受けて、後輩以外の皆が悟られない様に警戒を開始した。
「先に聞くよ。それによって、これからの事を判断する。その姿は、求めた結果か? それとも無理やりか?」
そう2人を問い詰めると直ぐに返事が返ってきた。
「決まってるだろ! 無理やりだ! 実力がなくて悩んでた俺たちにケリュオンの奴が……!」
「力を与えようって所?」
「………そうです。その結果が、この姿なんです。安易に力を求めた罰かもしれませんね」
怒りの感情を顕にするナラクと反対に、ヒサメは淡々と語りながら帽子やマスクを取った。
まぁ、そうじゃ無ければ必死に隠さないだろうさ。
「ほぉあぁぁ〜〜!!」
隣のミコトから歓声が上がった。彼らの姿に感動したのだろう。
ちなみに、彼らの顔つきはワーウルフの様に口が裂け、耳はピンッと立っていた。
魔物特有の禍々しささえも感じる程だった。
「どうです、醜いでしょ? 安易に逃げた恥ずかしさだけでなく、これもあって隠してました」
「え〜っ!? 隠すなんて勿体無いよ! こんなにも獣身に溢れているのに!!」
興奮したミコトがヒサメの手を握り、ぶんぶんと振り出した。
とりあえず、コイツは話の邪魔だわ。
「アイリス。すまん。黙らせといて」
「は〜い」
「えっ?」
アイリスの糸が、興奮するミコトを一瞬で簀巻きにした。
「貴方が茶々を入れるのが悪いのよ。少し黙ってなさい」
別に、俺はそこまでやれとは言ってない。
だが、空気を読んだシキナがミコトの口に自分のハンカチを押し込んだ。
少しやり過ぎでは?
「@$$%^&!?」
ほら、ミコトも嫌がっているよ。
まぁ、何を言ってるか、全然分からないけど。
「獣娘最高なのは仕方ないだって」
アイリスが、ミコトの通訳をしてくれた。
うん。全く問題無さそうだな。放置しよう。
「……話を戻そうか」
そもそも、このシリアスな空気とか嫌いなんで……シリアスだったか?
まぁ、話をさっさと終わらせたいし。次に進もう。
「長い話は為にならないしね。単刀直入に言うよ。今からケリュオンを逮捕する為に行動して貰うけど出来るかな?」
「………逮捕出来るなら協力します」
「俺も構わない」
「ok。助かるよ。なら、初めに行方不明者。もしくは、ケリュオンの居場所を教えてくれないかな?」
「行方不明者?」
「何の事だ?」
「あれ? 君たちと一緒にクエストへ行った人たちの事だよ?」
「「クエスト?」」
2人は、お互いの顔を見合わせる。その表情は、凄く困惑したものになっていた。
まるで、初めから知らなかったみたいに。
「えっと、そのクエストってのはな……」
俺は、2人に行方不明者が出たクエストの詳細を話して聞かせる事にした。
「………」
話を聞かせても、2人はクエストについて本当に知らない様だった。
「おかしい……」
どういうことだ? さすがに、自分が行ったクエストくらい覚えているだろ?
しかし、2人の反応はどう考えても知らない感じだった。
もし、これが嘘なら2人の演技はプロレベルだな。
「仕方ない。なら、ケリュオンの居場所はどうだい?」
「あぁ、それなら大丈夫だ」
「ええ、しっかりと覚えています。その場所とは……くあっ!? だっ、ダメっ! にっ、逃げ……」
「あがっ!? いっ、意識が……」
ヒサメがケリュオンの居場所を吐こうとした時、突如2人が跪き苦しみ出した。
しまった! 何かしらの対策でも打たれていたのか!?
「おい! 大丈……っ!?」
俺が、2人を心配して近付いた瞬間、頬を掠めるものを感じた。
そして、滴り落ちる生温かいもの。つまり俺の血だった。
『!?』
「「………」」
周囲の視線は、俺を傷付けたものに向けられた。
それは、ギンカがやる様な優しい物でなく、人に危害を加える意識を感じる凶悪な爪だった。
おそらく、腹部にでも受ければ背中まで貫通するかもしれない。
「「グゥルァアアァァ!!」」
『!?』
2人は、立ち上がると大声で絶叫する。
「煩っ!!」
絶叫を受けて、店の窓が次々に割れていく中、俺たちには耳を塞がくだけで精一杯。
だから、結果は最悪の方に進む。
俺たちが動けない中、ナラクが懐から取り出した物を地面に叩き付けた。
「こっ、これは!?」
結果は、一目瞭然。
俺たちの周囲を煙が包み込んだ。
「しまった! アイツらが逃げる!!」
絶叫が止むと同時に風のルーンで煙を払った。
しかし、予想通りと言ってはなんだが、ヒサメたちの姿は既に無し。完全に逃げられた形である。
「やられた……」
しっかりと人員配置までしておいて逃げられるとか無いわぁ……。
「すみません。ユーリさん」
リリスが代表して謝りにきた。
「謝らなくて良いよ。俺のミスでもあるし」
俺が止められれば良かったのだが、絶叫を受けてまともに動けなかった。
「それより、被害状態の確認が先だ!怪我人はいるか?」
俺は、ここに来ている全員の名前を呼び上げる。
すると、しっかりと返事と共に全員が姿を見せてくれた。
どうやら、うちの嫁さんたちは大丈夫の様だった。
「あれ? シキナは?」
『えっ?』
俺たちは、慌てて周囲を確認するもシキナの姿が見当たらない。
「まさか……」
どうやら、最悪の自体が起こっていた。
なんと、シキナがヒサメたちに誘拐された様だった。
「マズい! 急いで救出しないと!!」
「でも、私の魔力感知の範囲からも逃げられたよ!」
「本当か!?」
アイリスの魔力感知から逃げるとは、相当な距離を高速で移動した事が分かった。
「町中だし、感知の為に範囲を狭める必要が有ったけど、それでも抜けるまでが速かった」
「つまり、追う手段がないと……?」
これなら逃亡する事も考えてエロース辺りを上空に待機させて置くんだったわ。
「………いや、まだ手段はある!」
魔力感知から逃げられたとはいえ、匂いが残ってる筈だ。
それが消えてない以上、まだ追いかける手段はある。
「申し訳ないが、ギンカに協力して……」
「あっ、シキナは向こうの方角みたいですね」
『えっ?』
そう答えのは、拘束から解き放たれたミコトだった。
彼は、首から下げていたお守りサイズの巾着をクンクンしながら、そう呟いた。
「ミコト。……シキナの居場所が、分かるのか?」
疑問に思いながらも問いかけた。
「ええ、分かります!内緒で集めた彼女の色々が詰まったこの『シキナ袋』に誓って!」
凄い綺麗な笑顔で答えてくれたよ。
「そっ、そうか……」
「ちっ、ちなみに、何が入っているの?」
「ちょっ、アイリス!?」
俺は、なんとなくヤバい気がして止めたが、アイリスは好奇心から聞いてしまった。
「そんなの決まってますよ!彼女の○○とか△△とか☓☓です!」
『………』
だから、止めたのに……。
皆、ミコトの事がよく分かった様だ。故に、こう叫ぶのは当然だと思うね。
『変態だぁああーー!』
うん。俺もそう思う。




