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憂鬱なシキナ

 私は、シキナ。相棒と共に冒険者を行っている。


 私が後衛職で、相棒が前衛職業だ。


 組み合わせの相性が良いからか、クエストでの成功率は大変高い。


 むしろ、失敗は無いと言えるくらいだと思う。


 そんな訳も有り、今回上位冒険者たちからの直接指導という誉れを冒険者ギルドから言い渡された。


 しかも、相手は竜王国一と言われるチーム『紅蓮』だ。


 集合場所は、セリシールという人気店を指定された。


 一時的に貸し切ったそうなので、彼らの財力も良く分かる行為だった。


 それもあってか凄く緊張する。緊張するのだが……。


「はぁ〜……今日もシキナの尻尾フワッフワッだなぁ。マズルも整っていて最高だし」


 相棒兼彼氏であるミコトが、私の身体を撫で回す。


 彼曰く、「獣人犬型の血が濃いせいでワーウルフたちの様な人外に近いけれどそれが最高なのさ!」とのことだった。


 血が濃いせいで、獣人以外の種族からは嫌厭されがちな私。


 そんな私について来てくれる彼だから色々許しているのだけど。


 今日も平常運転過ぎやしないかしら?


「お腹もプニッと……」


「そこは、気にしてるのよ!」


「ぐふっ!?」


 そして、今日も今日とて私は杖で相棒をフルスイングする事になるのだった。


 身長差があるせいで、毎回杖が顎に当たってミコトを気絶させる。


 ここのままでは通行の邪魔になるので、ミコトの襟元を引っ張って道の端まで運ぶまでが、私たちの日常だ。


 そして、数分経てばいつも通り復活するだろう。


 気絶させた責任があるので、膝枕をして復活するのを待つ事にする。


「この奇行さえ無ければ、ただのイケメンなのにね」


 ミコトは、実力だけでなく、その容姿も相まって女性にかなりモテる。


 しかし、一般女性と付き合わないのには、彼の性癖が関係する。


 彼は、人外フェチなのだそうだ。


 人から外れてた存在程興奮するらしい。ただし、意志疎通出来る事が重要。


 だから、私たちは付き合っていられるのだけどね。


「ねぇ、貴方。今日がどんな日か分かっているの?」


 私は、起きた彼を正座させて説教する。


 先程まで膝枕していたので、ミコトは超ニコニコだ。


 満足そうなのは気に食わないが、この際無視して進めよう。


「今日から上位冒険者から指導して貰えるのよ。それなのに、平常運転し過ぎでしょ!」


「いや、これでもちゃんと緊張しているよ。なんせ、憧れの冒険者であるユリシーズさんに会うんだからね」


「えっ? 貴方に憧れの冒険者なんていたの?」


 ミコトが冒険者になった理由は、人外少女と出会えるから。


 だから、憧れの冒険者なんていないと思ったのだ。


「いやいや、それくらいいるよ」


「そうなの? 少し安心ーー」


「だって、スライムを嫁にしてる人だよ! あっ、でも、今は粘性魔族(ヒューマンスライム)って事になってるんだったけ? でも、スライム要素が強いらしい。そんな2人に会えるなんて……」


「全く安心出来ねぇ……」


 ユリシーズさんの嫁であるアイリスさんの事は、この界隈では有名な話だ。


 昔と違って、今は魔族として認識されているけど、魔族の中でも異質な存在になっている。


 そんな2人にミコトを会わせて大丈夫なのだろうか?


 暴走して2人を怒らせないか心配で胃が痛い。


「ねぇ、シキナ聞いてよ! ユリシーズさんは、他にも魔物を嫁にしてるだってよ! どんな人だろう?」


「そういえば、凄い美女だって聞いた事があるわね」


 誰もが羨む巨乳の持ち主で、追跡のエキスパートだとか。


 でも、今は妊娠中という噂がある。


 多分、会う機会はあまり無いだろうということは黙っておこう。







 目的地であるセリシールに到着すると既に2人、店前にいる事に気付いた。


 あれがユリシーズさんたちかしら?


 そう思って近付いてみたら直ぐに違う事を理解した。


 肌が見えない様にしっかりと着込まれた服。目元まで深く被った帽子。口元を隠す大きなマスク。


 何処からどう見てもかなり怪しい2人組がユリシーズさんだとは、どうしても思えない。


 そういえば、私たち以外に2人参加するって聞いていたな。


 あれが、その2人なのだろうか?


「ミコト。多分、あの人たちが私と一緒に鍛えて貰う人たちなのかな? 随分と怪しい格好……あれ?」


 私がミコトの方を向くと、隣を歩いていた筈なのにそこにいなかった。


「何処に?」


「キャアァァーー!」


 そして、響き渡る女性の悲鳴。


「!?」


 直ぐに悲鳴の上がった方を確認すると、悲鳴の主は怪しい2人組の相方だった。


「なぁ!?」


 だが、それ以上に私が驚く光景があった。


 なんと、隣にいた筈のミコトが女性の袖を捲り頬ずりしているではありませんか。


 まるで、私の腕にする時の様に……。


「何、自然とセクハラしてるのよ! あの馬鹿!!」


 私は、普段抑えている身体能力を開放。


 全速力でミコトに近付いて、杖を全力で振り下ろした。


「ぐぎゃ!?」


 ミコトは、その力に耐えられる地面に少しメリ込んでしまったが、もう知らない。


「そのまま反省しなさい!」


 ミコトに呆れながらも、私は被害者女性の方を見た。


 一連の流れを受けて、彼女は怯えつつも困惑していた。


 そして、彼女を見てミコトが暴走した理由が直ぐに分かった。


 彼女の腕には、しっかりと生え茂った獣毛が目立つ。


 どうやら、私と同じで獣の血が濃い事が良く分かる光景だった。


 これは、ミコトが暴走するのは仕方ない気がする。


 それでも、少しは後の事を考えて欲しいものだ。


「うちの馬鹿がゴメンなさい! 悪気はないの!」


「えっ……あっ、うん……」


 気絶しているミコトに代わり、ひたすら被害者女性に頭を下げた。


「えっと……何、この状況……?」


 さすがの騒ぎに、ユリシーズさんたちも店から出て来た。


「すみません! すみません! うちの馬鹿が本当にすみません!」


 今の私には謝ることしか出来ない。


 とりあえず、後でミコトの奴を〆てやると心に誓うのだった。

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