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マイスター制度

 上位の冒険者には、マイスター制度と呼ばれる後輩冒険者に対しての技術指導がある。


 冒険者ギルドが目を付けた者を上位の冒険者の下に付けて、狩猟のコツやダンジョンでの攻略法などを伝授するのだ。


 中には、秘伝の技術等を教える者もいるそうだ。


 その為、下位の冒険者たちにとって推薦される事は誉れである。


 そして、これは上位の冒険者にとってもメリットに繋がる。


 将来、自分のチームへの引き入れる為の品定めの場としても有効なのだ。


 良き人材がチームに入れば、クエストの幅や成功が上がり、報酬や名誉が増える様になる。


 しかし、そもそもの話。資質のある冒険者を見つけるのは簡単な事ではない。


 欲しいと思っても繋がり無ければ誘うのは難しいだろう。


 だから、そういう場として活躍している。


 尤も最終的な話。チームへの参加不参加は自由でいい。


 他のチームに所属したらしたで、クエスト時の協力を求める人脈としても使えるからだ。


「だから、普通の上位の冒険者たちなら喜んで引き受けるのは分かりますけど……」


 現在、俺は冒険者ギルドに呼び出されたので、アイリスとマリーに同行してもらいやって来た。


 その呼び出しの案件とは、まさにこの事だったのだ。


「でも、うちは必要ないのでは?」


 メンバーに関しては、うちの嫁さんたちが優秀な為、増員する予定も理由もない。


 クエストの協力出来る人脈にしても、十分繋がりが有ると言える。


 超高難易度の場合は、カトレアたちの『ローゼンセフィア』を筆頭に、マッドのいる『ブラート』、魔王国のソウ率いる『カルテット』との繋がりがある。


 これを機会に、更に細かく挙げてみよう。


 一般クエスト等ならバルトたちの『ヤケッパチ』が挙げられるし。


 護衛クエストならゴーヴァンたちの『ガドナー』が挙げられる。


「まぁ、確かにそうなんだがな。うちとしては、質の底上げを計りたいという気持ちがあるのさ。チームに引き入れなくて良いから指導出来ないか?」


「指導って言っても……」


 俺が教えられる事は、そんなに無い。せいぜいルーン文字くらいか?


 うちの嫁たちに指導したのは、リリスたちな訳だしね。


「簡単な鑑定魔法を教えるだけで構わない」


「えっ? それで良いの?」


 今の俺は昔と違って、複数の鑑定魔法を習得しており、ルーン文字の様な秘伝の物から一般的な鑑定魔法までを扱える。


「鑑定魔法自体は珍しくないが、誰も教えようとはしないしな。習得するだけで、将来食っていける程の成果が得られるから当然といえば当然だが」


 やはり、品質を確認出来る者は、何処にいっても欲しがられる様だ。


 特に、他国なら仕事も多くて高収入は当たり前だ。


 竜王国は?


 原則少ないね。竜種たちの影響で。


 少し歩けば竜種に遭遇するこの国だ。彼らの竜眼がある以上、生半可な鑑定魔法では意味がない。


「ok。そのくらいでいいなら良いよ」


「そうか。うちとしては助かる」


 これで俺たちが後輩を育成する事が決まった。


「ねぇねぇ。なんで、このタイミングなの?」


 俺たちの会話を隣で聞いていたアイリスがギルさんに質問した。


「どういうこと?」


 俺には、アイリス質問の意味が分からないので聞くことにした。


「鑑定魔法を教える程度の指導だよ。ほら、思い出して。私たち冒険者には、尤も暇な時期があるでしょ?」


「冬か!」


 今の季節は、春。冬の間活動を控えていた獣や魔物たちが活発化してひっきりなしにクエストが発行されている。


「確かに! クエストの多いこの時期に、わざわざ座学で教えれる事を優先する必要がない!」


「お兄様。今までのは建前で、本当は別に要件があるんですね」


「バレたか。まぁ、気付くよな」


 マリーの言葉にギルさんはあっさりと開き直った。


 あの〜っ、気付いてなかったんですけど……。


 恥ずかしいので、後はマリーにでも任せよう。


「本当の所はどうなんですか?」


「コイツらの調査して欲しい」


 そう言って、ギルさんは1枚の写真を提示した。


 そこに写っていたのは、帽子やマスクをした見るからに怪しい男女だった。


「何方も普通人族で、男の方はナラク。女の方はヒサメと言う。

 今回、問題となったのは、彼らと同行した冒険者が数多く行方不明になっている事だ。彼らの受けたクエスト報告だと、場所的に起こっても仕方ないのだが、それにしても多過ぎる。

 更に問題なのは、指名手配中のマッドサイエンティストと繋がりが昔あったのを確認された」


 今度は、1枚の手配書を持ってきてテーブルに置いた。


 そこには、白衣を身に纏った男性の写真と報酬金。それから名前と罪状が書かれていた。


「なになに、人へ人外要素を付与する魔法実験?」


 簡単に言うと人に魔物を合成してキメラを生み出す魔法を編み出したので、人体実験しましたよと書かれている。


 人工天使然り。


 これらの実験は、なかなか無くならない様だな。


「この研究者の名前は、そこに記している通りケリュオン。人に魔物を合成し、多数のキメラを生み出した人間だ。被害者の多くは、元の姿に戻れず、現在魔族として暮らしている」


 詳しく話を聞いてみると驚きの事実が判明した。


 この研究、人体実験なのに死者とかが確認されていないんだとか。


 しかも、キメラにされた者たちには完全な自我が残っており、魔物の力を使える者もいるそうだ。


 つまり、この研究者の魔法は完成されていると思われる。


「ヤバいな。速く捕まえないと不味い事になりそうだ」


 元に戻れないけど力を得られるという点で裏の人間に狙われるかもしれない。


「先程の大義名分なら下位の冒険者は原則断れないだろ?

 なんせ、推薦してくれたギルドの面子を潰す事にもなるからな」


「なるほど」


 よく考えたものだ。これなら彼らの周りでうろちょろしても怪しまれる事はないだろう。


「ついでに、彼らだけでは怪しまれると思ったから普通の奴らも追加した。彼らも頼むよ」


 ギルさんは、新しい写真を2枚取り出した。


「こっちの少女は、シキナ。駆け出しの魔導師だ」


 1枚には、犬の血が濃い獣人少女が写っていた。


 フランと比べるとその差は歴然。彼女は、犬が二足歩行になったようにしか見えない。


「そして、こっちの青年は、ミコトだ」


 もう1人は、両刃の戦斧を担いだイケメンだった。


 彼は、涼しげで真面目そうな青年にしか見えない。 


「(モテそうだな……)」


 そう思ったが口には出さない。俺が虚しくなるから。


 そんな感じで、俺は2人の写った写真に注目していた。


 だからだろうか?


 ギルさんからの話を聞き流してしまった。


「彼は…………変態だ」


「………はい?」


 はて? 今、ジョブではなく変態と言った気がするのだが?


 俺は、アイリスたちの方を見た。彼女たちは、何も反応していないから聞き間違いかもしれない。


 そうだ! きっと、俺が重槌士(ヘビィタイタン)なんかと聞き間違えたんだな! 彼の武器は戦斧だけど!!


 ギルさんがそんな事を言いそうにないし。俺は、気にしない事にした。


「ーー説明は以上だ。明日には彼らと面談してもらうからそのつもりでいてくれ。後は、頼んだぞ」


「「「は〜い」」」


 その日、軽い気持ちでギルさんの頼みを受けれて解散する事にした。









 翌日。


「…………」


 俺の目の前には、地面へとメリ込んだミコトの姿があるのだった。

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