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エンキ

 アタイの名前は、エンキ。


 人様が勝手に付けた名前さね。


 そもそも魔物に分類はあれど名前は無いからね。特殊な個体に名前が付くのは良く有る事さ。


 さて、そんなアタイの前に一人の男がいる。


 身なりは悪くない。容姿は、悪くはない。


 しかし、何処からどう見ても弱そうなのだ。正確には、滲み出るオーラが凄く優しそうで生殺与奪が出来そうに見えない。


「(コイツが、2人の旦那ねぇ……)」


 アタイには、悪友ともいえる者が2人居る。


 一人は、竜王国の王女様マリー。


 見た目は、幼き少女。その実態は、風を操る神竜。


 この娘、高貴な身分の割にやること成すこと加減知らず。破壊の権化ともいえる存在さね。


 そして、もう一人はスライム。


 アタイが青丸と称するこの娘。その名の通り、透き通った青色と丸い形状をしている。


 今は名前を取得しており、アイリスと名乗っているそうだ。


 この娘はスライムの中では最高位の存在だ。長らく他大陸を放浪していたが、この娘の様なスライムは噂にすら聞いた事がない。


 それだけ珍しい魔物も嫁だと言う。しかも、子持ち。


 わざわざ人型に成り服を着て結婚。アタイが人っぽいと感じたのは、これが原因かもしれない。


 昔は、人型になっても裸だったのに変わったものさね。


「それじゃあ、ルール説明。ここは一種の仮想世界みたいなもので、死んでも復活します。ただし、復活場所はランダムなので、前回と近い事も有れば遠い事もあるよ。一応、マリーの説明では、先に5回殺した方が勝ちだって」


 また、とんでもないマジックアイテムを用意したもんだ。


 王家の秘宝か何かかね? こんなもん普通の人間は持ち歩けないからね。


「スタートはここから始める? それとも時間を決めて離れてから始める?」


「ここで良いよ。どうせ何方かが死ねば移動するんだろ?」


「理解が速くて助かるよ」


「開始は、アンタのタイミングで構わないよ」


「うん、良いのか? なら、お言葉に甘えるけど?」


「好きにしな」


 そう言うと、男は片足を引いて身体を斜めにし、ファイティングポーズを取った。


 本当に武器を使わないつもりとは舐められたものだね。


 憤りが自分の中から溢れて来るのを理解した。


 殴ってきた所を一撃で仕留める!


「分かった、行くぞ!」


 男が動いた。アタイは、自分の手に魔力を込めてカウンターを……。


「えっ?」


 男が視界から消えた。


 次の瞬間、頭上から伝わってきた衝撃。世界が暗転し、切り替わると違う場所にいた。


「なっ!?」


 一瞬の事で、理解が直ぐには追いつかなかった。


 しかし、これだけは分かる。


「今の一撃で殺されただって!?」


 あの男の話が本当ならば、死んだら場所はランダムで移動する。


 衝撃の後に視界の景色が変わった事から自分は殺されたのだろう。


「み〜つけた。声が大っきかったから直ぐに分かったよ」


「にゃおん!?」


 頭上から男の声が聞こえてきた。


 建物の上を見上げると足に魔力を纏い蹴りを放つ所だった。


 なので、避けられはしたものの地面には巨大なクレーターが生まれていた。


 当たったら死ぬ!


 アタイのセンサーはフルスロットルで警報を鳴らしていた。


「手加減なしだよ!」


 炎で強化した爪を纏い男に襲い掛かることにしたのだが。


空絶爪(ブラッドビュート)


「あっ……」


 身体を魔法ごと両断されたらしく、視界がずれていき暗転した。


 そして、また違う場所に移動して。


「運が悪い」


 男の声と共に、一瞬首のない自分の身体を見た気がした。気が付いた時には、また違う場所に移動していたから殺されたらしい。


「あぁ……!?」


 流石に、ここまで来れば男の異常さを知る事になった。


 ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい奴に手を出してしまったよ!


 あの男、殺す事に全く躊躇がないよ!


 人や亜人である以上、生き物を殺す時に何かしら思うものだ。それが、良いことか悪いことかは別にして。


 なのに、あの男は殺しても問題ないからと何も思っていないのだ。


「これは、覚悟を決めた方が良いかもしれないね」


 その後、あらゆる手管を使い反撃するもダメージを与えた印象はない。


 結局、何も出来ずに5回も殺されてしまうのだった。


「でも、これで終わりにーー」


 ピンポンパンポ〜ン♪


 空から音が響き渡り、マリーの姿が移し出されていた。その後ろにアイリスの姿もある。


「すみませ〜ん。設定を間違えていたみたいで、5回を5()0()回にしてました〜♪」


 それを言うマリーの表情を見て、ワザとやったのだという事を理解した。その後ろのアイリスも笑っているからね。


 そして、それと同時に最悪の事実を知る事になった。


「後、45回も殺されろと!? 子供や旦那を馬鹿にされたことがそんなに嫌だったのかい!?」


 多分、ここで心が折れたのだと思う。アタイは、反撃を考えずに逃げ続けた。


「待て〜♪」


 その後ろを楽しそうに追いかけながら、凶悪な魔法を連発される。


 特に最悪なのは、凍結魔法。


 完全に全身が凍結するまで意識が残り続けるからだ。


 手足に命中した瞬間に地面と一体化して、徐々に侵食していく。


 得意の火魔法で解除を試みるも魔力差の影響からか、全身を覆うスピードの方が速かった。


 あまりにも絶望した顔をしていたのだろう。連続で3度使った辺りから使われなくなっていた。


「これで最後だね」


「ごめんなさい。ワタシが悪かったです。子供を貶したのも謝ります。赦して下さい。後、肉球も好きに触って良いです。だから、最後は優しくお願いします」


 結局、降参する事も出来ずに49回殺された所で懇願した。


「アイリスたちにもちゃんと謝るなら許すよ」


 その手には、禁止された剣が握られたいた。


「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!」


 謝罪するアタイの前で剣を掲げると膨大な魔力の放出が光となって立ち昇る。


「約束は守ってね」


 剣が振り下ろされると膨大な光が奔流となってアタイを飲み込んでいった。


 衝撃はあったものの痛みはなく、眠るように意識が落ちていった。







 次に目を覚ましたのは、元いた港町。


「あっ、エンキ。おはよう」


「意外に速かったですね」


 アタイが起きて最初に目にしたのは、テーブルでお茶をする3人の姿だった。なので、さっそく謝罪する事にした。


「「良いよ」」


 あっさりと2人には許された。更に、引き続き友人でいてくれるそうだ。


「さて、この後どうしょう? 生きている以上は、この荷物とか弁償しないといけないでしょうし」


「エンキが生態変化(クリエイト)を使えれば直ぐに弁償出来るんだけどね。身体とかで」


 確かに人になって強い男に嫁ぐのも悪くはない。


「いや、普通にお店で働けるってニュアンスなんだけど」


「それにキャラが被るからユーリさんも遠慮するのでは?」


 無理そうだった。残念でならない。


「普通に荷物の搬送すれば? ここは、陸の輸送拠点でもあるし」 


 その言葉によって、する事が決まった。






 翌日。


「エンキさん。隣街まで至急お願いします」


「はいよ〜」


 運送員の兄ちゃんが、アタイの背負う箱に荷物を入れる。


「じゃあ、行って来るね」


 得意の飛脚術をもって空を駆ける。


 馬車なら何日もかかる所にも直ぐに運べ、竜種の様にスピードが出ない事で商品が傷付く心配もないので仕事も多い。


 そのお陰で、弁償金は直ぐに返済終了。


 今は、趣味の一環で働いている。空を飛ぶアタイは、子供達に人気だからだ。子供が向ける声援は、悪い気がしない。


「昔は、やんちゃしたものだね」


 大人になったアタイは、今日も頑張って荷物を運ぶ。


 帰ったら今日も生態変化(クリエイト)を練習しよう。


 何故かって?


 それは、色々やってみたい事があるからさ。まぁ、それはずっと先の話だけどね。


 未来を夢見るエンキは今日も竜王国の空を駆けるのだった。

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