大人に戻った後の後日談
自分の意志で大人に戻った後、色々と大変だった。
まず、連絡の取れないリリィたちの居場所だ。
相当魔力濃度の濃い場所に行ったのか、ギンカとの連絡が取れない。
そのせいで戻った報告は出来無いし、無事かどうかの心配でオロオロしてしまった。
とりあえず、俺が出来る手段は少ないので、それらしい所を何ヶ所か回ってきた。アイリスの感知がなければ会えなかっただろう。
次に、マリーたちが行ったクエスト。
ギルさんに聞いたら教えてくれたのでお礼を言って向かった。
その前に、冒険者ギルドの情報部でも色々と調べてくれていた様で、感謝に絶えない。
今度、お礼にセリシールの新作ケーキを持って行く約束をしたら大喜びされた。沢山持って行こう。
それで何が大変だったかと言うと、マリーがやらかしたのだ。
彼女たちが討伐しに向かった魔物は、ゴリーヌと呼ばれるSランクの魔物だ。その姿は、キングコ○グが苔に包まれた様な感じをしていた。
そして、その大きさや竜体のマリーと同格なのだ。
その魔物は、刃物や魔法があまり効かなかったらしいので、竜体になった状態のマリーが戦った。その結果は、言うまでもない。
怪獣大戦争により街の一部が壊滅。
俺は、近隣から木材や石材をかき集めて、大急ぎで町を復興する事になった。
住人たちは今回の件で怒っていたが、新築で広い家が出来るとむしろ感謝をされた。お陰で無駄な争いが生まれずに済んだよ。
そして、最後は一番迷惑を掛けたであろう竜神殿だ。
「ご迷惑をお掛けしました!」
俺は、ルイさんを含めた天使族の皆さんに謝罪した。
「ああ、大丈夫ですよ。私たちの自分の意志でやっただけですから」
そう言ったのは、エロースの同僚でルイさんの秘書を務めるトリシャさんだ。
「まさか、エロースがセクハラどころか女の子にも見向きをせず、本を漁り続けるなんて思いませんでしたよ。それを見ていたら、私たちも手伝いたくなっただけです」
他の天使たちもトリシャに同意して頷いている。その横では、エロースが恥ずかしそうに照れていた。後で、めっちゃ褒めておこう。
「お礼に何かで埋め合わせさせて下さい」
流石に、調べ物とはいえ無料で大勢の人に働いて貰っておいて、何も無いのは嫌なので、俺としては報酬を支払いたい所だ。
「でしたら……」
提案されたのは、料理だった。
「エロースが帰ってくる度に、あの料理が美味しい。この料理も最高と話していましたから」
「分かった。良い時間だし、今から作るよ」
『ヤッター!』
晩飯の時間な事も有り、さっそく作ることにした。
彼女たちはアイスプラントを気に入っているので、それを使ったパスタなんてのはどうだろう?
作り方は簡単だし、量も作り易いしね。
まず、フライパンにオリーブオイルを引いて、みじん切りにしたニンニクを炒める。
香りが漂ってきた所で、薄切りにしたベーコンを投入。
焼き色が付いたくらいで、パスタの茹で汁をお玉1杯くらいと醤油を少量加えて準備完了。
そして、茹で上がったパスタを加えて絡めつつ、少し水分を飛ばす。
最後は、アイスプラントの投入だ。
火を止めた後、アイスプラントを加えて混ぜ合せる。この時、加熱しても良いがお薦めしない。
アイスプラントは加熱し過ぎると肝心のぷちぷち食感が失われてしまう事が有るからだ。
なので、軽く混ぜ合わせた後、パスタの余熱で温めるくらいが丁度良い。
「これだけだと足りなさそうだな」
山盛りで出したパスタがどんどん減っていく様子を見ながらそう思った。
どうせなら、ピザなんてどうだろう?
彼女たちは、滅多に食べない物を所望みたいだしね。
俺は、竜神殿から一旦屋敷に帰って平穏なる小世界に移動。そこの厨房でアイテムボックスの海鮮を広げる。
「窯に火を入れないと……」
こういう時に魔法は便利だと実感する。時間の掛かる窯の温度調節も一瞬で完了した。
その後、ピザ生地にカットした海鮮を並べてチーズをたんまり乗せて焼けば完成だ。
他にも、妖精の箱庭で取れた野菜で作った物。肉系を主体にして作った物など色々焼いた。
「追加だよ〜」
時間差の影響も有り、パスタが尽きる前に熱々のピザを提供する事が出来た。
なのだが……。
「凄い! このチーズが最高!!」
「ルイ様やエロースはズルい! こんなのを良く食べてるなんて!」
パスタ以上の人気で大量に焼いてきた筈なのに、また戻って焼かなければいけなさそうだ。
「なるほど……乗せる物によってバリエーションの変化を付けれるとは。私の希望ので作って貰えませんか?」
ちゃっかりトッピングの要望を言う娘まで出てきたよ。
「はいはい。良いでしょう。まだまだ作るからね。変なトッピングじゃなければ作るよ」
要望は……苺ですか。ホイップクリームも乗せて欲しいと。
「ショートケーキじゃダメ?」
「ピザで食べたいです」
「分かった」
俗に言うスイーツピザか。
俺的には、アレってピザで良いのかなと思わなくも無いが、お礼だからな。しっかりと作って提供するとしよう。
…………
……
…
その結果は、天使たちの間で賛否が分かれるものとなった。
「普通にセリシールで出すようにクレープ生地に乗せれば良いのでは?」
うん、俺もそう思うよ。
「あえて少し厚い生地で食べたいのよ。生地自体も甘いし」
そりゃあ、スイーツピザ専用の甘い生地を作ったからね。
俺が手を加えたのが間違いだったのだろうか?
「セリシールの発売前のお菓子も用意したよ」
『発売前!!』
とりあえず、話題を打ち切る事にした。美人同士の言い争って見ていて虚しくなるんだよね。
天使たちが満足した所で解散と相成った。
「くっくっく、後日体重計に乗った時に絶望するが良い。私がどれだけ体重管理に気を配っているかわかるわね」
エロースが、俺の隣で悪魔の様な笑みを浮かべつつ、天使たちを見送っていたのを見逃さなかった。
「まぁ、それは自己責任だからな。ヤバいなら運動するだろうよ。それより、エロース」
俺は、エロースを抱き締めた。
「えっ? 突然どうしたの?」
「ありがとうな。俺の為に頑張ってくれたんだって?」
アイリスたちがそうだった様にエロースにもかなりの心配を掛けてしまった。
「……そりゃあ、私たちの旦那だもん。頑張るわよ」
何かを察して、いつもの態度に戻るエロース。
こういう時は、もっと甘えて欲しいんだけどなぁ……。
俺は、彼女を撫でながらその空気に乗る事にした。
「……そうか。でも、嬉しかった。なぁ、何かお願い事って有るか? エロースにもお礼をしたいと思って……」
「良いの!? だったら……」
エロースは、俺から離れて自分のアイテムボックスを漁ると出して来たのは、黒いエロ下着だった。
「イブちゃんにどうかな! 清楚なあの子に、あえて逆の悪魔らしい際どい下着を着せたら最高に興奮してヤバいんじゃないかな!」
うん。いつも通りのエロースだったよ。
「分かった。イブにお願いしておこう」
「さすが、ユーリ君!」
「それじゃあ、俺たちも帰ろうか」
「うん!」
こうして俺の長い1日は、まだ続く事が決定した。




