閑幕 女神の職権濫用
神たちが集う狭間では、各々が神殿という名の家を所有している。
その中の1つ、エルメラの神殿に絶叫が響き渡った。
「ヨッシャアァァーー!孫が出来たぁああーー!」
その歓喜の声は、彼女の寝室から聞こえてくるものであった。
「最近、ユーリ君は開き直ったみたいだから直ぐに出来ると思っていたら思いの外速かったわ! しかも、夢渡りをマスターしたんだ! これならギンカに会いやすくなるわね!!」
彼女のテンションが高い理由は、先程までユーリが夢渡りの魔法を使いやって来て、ギンカの妊娠報告をした為だ。
「子供が増え過ぎてたから自重してたみたいだけど、繋がりを求める彼なら直ぐにでも妊娠させると信じていたわ!」
彼女は、急ぎベットから降りると身嗜みを整え始めた。
「これは、2人にいち早く報告しなくちゃ!そして、今日は、飲むわよ!」
エルメラは、タナトスやエピメテウスの所属する部署に突撃する事にした。
狭間には、距離の概念があまり無い。
遠くに見える建物まで一瞬で移動出来たり、逆にかなりの時間を要したりするのだ。
だから、大抵の神は行きたい場所を強く念じる。そうする事で転移が起こり、一瞬で移動していた。
「ねぇねぇ、私の娘がーー」
「おめでとうございます。娘さんがご懐妊されたそうで」
「マジでおめでとうございます! 楽しみに待っていましたもんね!」
到着するなり、自慢話をしようとエルメラが口を開いたら、タナトスたちの祝福が待っていた。
「あれ? なんで知ってるの? 私、今聞いたばかり何だけど?」
「あっ、それですか? 下位神の間で広がっていた噂をエピメテウスが教えてくれたので」
「噂?」
エルメラは、エピメテウスの方を見ると自信満々に語りだした。
「俺は、これでも情報通でしてね。神々の噂とか直ぐに入って来るんですよ。今日もその中の1つに、上位神の神殿から「孫が出来た!」って、叫びが聞こえたという話があったんですよ。だから、神殿の場所を聞いたら、エルメラ様の神殿ですもん。そりゃあ、直ぐにタナトス様に報告しますよ」
「なるほど。そうだったのね」
どうやら、他の神にも聞かれていたらしい。
女神としての威厳が下がらないように、しっかりしなきゃ!
「エルメラ様は、男の子と女の子。どちらのお孫さんが欲しいですか?」
「男の子よ」
「男の子。女の子じゃないんですね」
「女の子ならユーリ君を食べるかもしれないじゃない!」
「えっ? それは物理的に? それとも……」
「ご想像にお任せするわ♪」
エピメテウスの質問を笑顔で遮るエルメラだった。その笑顔は、それ以上口に出させるかという圧力を纏っていた。
「まぁ、生まれるのは男の子で確定したけどね」
「「えっ?」」
「ふっふっふっ、私の担当を忘れたかしら?」
タナトスが死を管理している様に、エルメラにも仕事がある。
その仕事とは、出産に関するもので、その権限には性別も含まれていた。
「……タナトス様」
「私は、聞かなかった事にしますよ。まぁ、それくらいなら誰も気にしないでしょうけどね」
タナトスはそう言って、エルメラから顔を反らしたのだった。
「所で、ユーリ君は面白い事になってるみたいですよ」
タナトスたちが覗き込んでいる水鏡をエルメラも覗き込む。
「偽物の件でしょ? さっき本人から聞いたわ。なんか、色々悪さをされてるそうじゃない。どんな奴か、顔を見れないのかしら?」
「見れますよ。え〜っと……はい。この人です」
タナトスが、何やら水鏡を操作するとそこにユーリとは似ても似つかない男の姿が映し出されていた。
「「ぶふっ!?」」
そのあまりのギャップに2人は吹いてしまった。映像を切り替えたタナトス自身も口元を隠しながら笑っていた。
「これはまた何とも……」
「あははっ、似てなさ過ぎじゃない!」
「ヤベェ……コイツがどうしてバレないのか、不思議で仕方ないです」
「確かにそうですね。まぁ、ユーリ君のいる国とは違う国だからかもしれません」
「それでも、ここまで差があるなんて思いませんでしたよ!」
「むしろ、堂々としてるからバレないのではないかしら?」
「あっ、なるほど」
その後、ユーリの偽物事件を最後まで楽しむのだった。
そして、ユーリがMPポーションの調合をミスし、ショタになるまでを一部始終見ていた。
「あれ? 状態異常無効化じゃないの?」
「本人の意志で、切り替えれる様になってます。そうじゃないとバフも掛からなくなりますからね」
なるほどと頷いているエルメラ。その横では、エピメテウスが頭を捻っていた。
「そういえば、前から思ったんですけど。何で媚薬はバフ扱いなんですか? 魅了による発情はしないのに、ポーションによる発情はするって」
「発情は、単なる生理現象だからね。魅了による発情は、先に魅了という精神干渉が有るからレジストされるのさ」
「あっ、そういう事なんすね」
「ねぇねぇ、2人共。あの子たち、ユーリ君がショタになったのを良い事に色々遊んでるわよ」
「「うわぁ……」」
その光景を目にして、タナトスたちは何とも言えない顔になっていた。
「あら? 今気付いだけど、また女の子が増えているのね。最近忙しくて、私は見てなかったから教えてくれない?」
「良いですよ。誰から行きます?」
「そうね。あの黒い翼の天使。人工天使かしら? まだ、生存していたのね」
「イザベラとイザベルですね。彼女は、肉体に2つの魂を持ってるんで2重人格みたいになってます。地下の遺跡に神聖封印で眠らされてましたよ」
「それじゃあ、微妙に神寄りの浮いている娘は?」
「彼女は、付喪神のモモちゃんですね。骨董市で出逢って、ユーリ君の望みを叶えるって安請け合いした結果、妊娠する事になって現在妊活中です」
「どんな願いよ……」
「自分の家族を増やしたいって願いみたいです」
「悪魔族の娘とかは、分かります?」
「そこは大丈夫。村がダメになって移住したのよね? 移住といえば、エルフがまた増えたわね。ちゃっかり姉妹丼まで楽しんでた様で」
「まぁ、シオンさんとは、いつかはそうなると思ってましたけどね。クエストも良く一緒に行ってましたし」
「魔法学校に行ってる娘とは進展しないわね」
「ベルさんですね。彼女は、講師をしていらっしゃるので、なかなか進まないのでは?」
「チームの中で一番進んでたのにねぇ〜」
水鏡には、ベルの授業風景が映し出されていた。休み時間もあれやこれやと活動し、夜は疲れて寝るだけの生活なのが分かる。
「大変そうね。彼女も妖精の箱庭から通えば良いのに。ユーリ君なら即okだしてくれると思うけど」
「彼女も色々有るんですよ。まぁ、それも後少しの話ですけどね」
「何かあるの?」
「ふふっ……」
タナトスが微笑みながら水鏡の映像を切り替える。
「「これは!?」」
エルメラたちは、それを見ながら目を輝かせた。
「面白くなりそうです」
神たちの鑑賞会は、まだまだ続くのだった。




