ユーリが若返った日 前編
魔力とは、精神との強い結び付きが有り、一度使えば精神の疲労が付き纏う。
それを回復させるのが、俗にいうとMPポーション。
内容は、魔力を回復するのではなく、精神疲労を癒す事が出来る。尤も、正確には癒すではなく、忘れさせるが正しい。
寝て起きたら、頭がスッキリした時の様な、あのリセット感を思い出して貰えれば構わない。
そして、今回の件は、このポーションをと調合した際に、薬草の量を間違えた事から始まった。
「あっ、カグヤたち見っけ!」
自分の仕事を終わらせて暇なので、談話室を覗いてみたら、フィーネと子供たちの姿があった。子供たちは、彼女の周りでは思い思いに遊んでいる。
「あっ、アイリスさん」
私がカグヤに近付き抱き上げると、フィーネは気付いた様だ。
あっ、カグヤが逃げた。
娘に頬ずりしていたら、先程までやっていた積み木遊びに戻りたいのか、腕の隙間から液化して抜け出していった。
「ユーリさんと一緒じゃ無いんですね?」
「うん。さっきまで水路の掃除をしていたからね。ユーリは、今何をしてるの? 確か、今日の予定は何も無かったよね?」
フィーネは、思い出す様に考え込んだ。
「私もそう聞いてますよ。そうですね〜……今は、下の研究室に居るのでは? ポーションが減ってきたとユーリがボヤいてましたよ。それに、リリスさんたちが、今日は昼頃にリリィさんが帰ってくるって話してましたから。その上、今日の夜は負けないと作戦を練ってました」
「なるほど、研究室ね。それにしても、3人は相変わらずだね」
3人共、母親には負けたく無いのだろう。分からなくもないが、勝てない気がする。
リリィさんは、何処からどう見ても妖艶なお姉さんだ。男が好きそうな身体付きだし、大人の余裕も有る。
しかも、熟練のテクニックに、サバサバした性格。その上、恋人には一途という完璧仕様。これは、男なら溺れるわと思うのだ。
「リオンは、今日はこっちなんだね」
私は、リリィさんの息子の頭を撫でた。気持ち良さそうに目を細めているのが可愛い。
そして、それを横目で見ている愛娘。手招きするとやって来たので、彼女も撫でる。
うん。うちの子たちは可愛いわ〜。将来、美少女美少年って言われるわね絶対!
そう思う当たり、私も親バカなのではと思わなくない。
「今日は、店の整理をするからって言ってましたよ」
「えっ、それって手伝わなくても良いの?」
「ユーリさんもそれ聞いてましたね。でも、直ぐに終わるから大丈夫だそうです。代わりに、今日はリオンのお世話宜しくって言われました」
リリィさんは、基本店番しながら育児をしているが、事情がある時などはフィーネに任せている。常時、任せっきりの私たちとは大違いだ。
いや、ちゃんと育児はしているよ。ただ、フィーネがメインで行ってくれてるだけだよ。
「フィーネ。いつもごめんね。育児大変でしょ? しかも、これからまた増えるのに……」
「う〜ん、大丈夫だと思いますよ。3日に1回は、お休みさせて貰ってますし。サポートも常時2人付いてますからね。その上、ユーリさんも手伝ってくれますし」
これは、ユーリの考えたシフトのお陰でもある。母親たちに負担がいかない様に色々考えてくれたのだ。
流石は、私たちの旦那様だね!
「そうだったね。でも、キツい時は言ってね」
「はい、ちゃんと報告しますよ」
「それじゃあ、ユーリの所に行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
私は、談話室を後にして地下の研究室へと向かった。
まぁ、正直言うと別にユーリの所へ行く必要は特にないのだ。
ただ、ユーリと居ると飽きる事はない。やりたい事が溢れてくる。今からどんな事をしようかな?
「あれ、リリィさん?」
私が地下に行こうとしたら、薬草の入った籠を持ったリリィさんが玄関から入ってきた。
薬草畑にでも行ってたのかな?
「何か、新しいポーションでも作るの?」
「ええ、そうよ。今日の夜に試してみようと思ってね!」
という事は、媚薬関連なのだろう。
「……程々で。避妊はしっかりして下さい」
「そこは、分かっているわ。流石に、これ以上増えると育児が大変だしね。でも、ユーリ君は激しいから魔法が意味を無さない気がするのよね」
「あっ、それ良く分かる!」
ユーリは、最初の頃から獣かってくらい相手を求めてくる。
しかも、スタミナが凄い事、凄い事。最近では、更に強くなった気がする。
やはり、数を重ねているからかな?
もう、私一人で相手するのは完全に無理。途中で、気を失う事もあるから。
「とりあえず、念の為、部屋に魔法陣を二重掛けしてるから大丈夫だと思うわ。ただ……」
「それ以外の場所の時だよね?」
たまに、自室以外でやる事もある。その場の衝動に駆られた時とかに。
私も何度、ユーリと一緒にうちの娘たちを拉致したことか。
「所で、ユーリは、今何をしてるの?」
地下への階段を降りながら、リリィさんに聞いてみた。
「確か、薬草畑に行く前からMPポーションを作ってたわよ。本来、必要ないけど、持っておいて損は無いしってね」
「確かに基本必要ないよね」
ユーリの魔力量は、竜種と同等レベルにある。
魔力を大量使用する特級魔法を連発しても、そうそうに切れる事は無い量だ。
「でも、精神疲労を瞬時に癒せるから常備する魔導師も少なくないのよ」
魔法を使い過ぎると目には見えない疲労が溜まっていく。
戦闘中とかクエスト中の緊張状態なら全く気にならないが、日常に戻るとそれは顕著に現れる。
どんな状態かというと、だるくてベットに沈み何もやりたく無くなるあの状態だ。頭で分かっていても、動きたくなくなる。
その際に飲むとスッキリした心地になり、やる気に溢れるそうだ。
実際、どれくらいのスッキリさかは飲んだ事が無いから分からないけど。
「ユーリ君。ポーションは、出来た〜?」
リリィさんと研究室に入った。
「「………?」」
入って最初に目に付いたのは、ユーリの服だった。それが地面に落ちている。
「ユーリは、今、プレイ中?」
「いや、ユーリ君も流石にここではやらないわよ。毎回、部屋に連れ帰るし」
「じゃあ、なんで服が落ちてるんだろう?」
疑問に思いながら服を拾おうとした瞬間、
ガタッ
という音が服の落ちてる側の机の下から聞こえた。
「「?」」
私とリリィさんは、顔を見合わせて、机の下を覗き込んだ。
「「誰っ!?」」
なんと、そこにはユーリに良く似た10歳くらいの男の子が裸で隠れていたのだった。