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偽物さんにご対面〜♪

「貴族の子飼いになってる」


「はい? 嘘でしょう?」


 俺は、ロランの話があまりにも意外だったので聞き返した。


「本当だ」


「いやいや、嘘でしょ!だって、コイツ。何処からどう見ても悪人って面だし、少し調べれば悪人だって分かりそうなものなのに!」


 こんな奴を雇う貴族の気持ちが分からない。


 コイツが問題を起こせば、そのまま貴族の顔に泥を塗ることになるのに。


「それな。どうやら、雇い主の貴族さんは、俺からマウントを取りたいらしい。ユーリ・シズが自分に付いてるから負け犬は黙ってろってな。俺は、一応、筆頭騎士だろ? 自慢じゃないが、この国だと発言力が有るんだよ」


「分からなくは無いけど、この国は基本貴族と国民の仲は凄く良い方じゃなかったっけ?」


「仲は良いよ。身分差を気にしない人達が多いしね。市井に紛れて就業してる人もいるぞ」


 リヒト共和国の事について少し説明しようと思う。


 この国は、名前から分かる通り、王様のいない国だ。


 初めて聞いた時は、異世界にしては珍しいなと思った。しかも、聞けば、象徴的な存在もいないそうだ。


 でも、200年程前には確かに居たそうだ。現在は、いないけどね。


 理由は、その王様が余りにも酷い暴君だった為に、反乱が起きて排除されたのだ。


 反乱は、一般国民たちが立ち上がり、勝利を収めた。しかも、1週間という異常に短い期間での勝利だったそうだ。


 その理由は、領主で有り、反乱を止めるべく指示された大貴族たちが、ボイコット。そして、彼らが物資を支援した為だ。


 更に、反乱後には、貴族権益を破棄したそうだ。国営に関しても貴族たちは一歩引いて、全てを任せたんだと。


 俺の知る貴族とは、全く違うな。権利に、拘りがないとか。


 それにしても、どんだけ王様は、嫌われてたんだろうな。


「でもな。一部の貴族は、他国の貴族みたいに威張りたいんだよ。全く、だったら、選挙に勝って議員になって威張れよっての。まぁ、威張り過ぎたら来期は落ちると思うがな」


「つまり、議会でのマウントを摂る為? 騎士団の長は、強制参加だから」


 国営機関のトップであり、不正防止の観点からの参加だ。


「本当に面倒くさそうな案件だね」


「あぁ、だからアッサリ解決出来る手段に持ち込んだ」


「へぇ〜、それは何?」


「ソイツの一騎討ち」


「おい、それだと俺が負けた事になるんだけど」


 偽物に、ロランを倒せるとは思わない。しかも、勝った場合は、ユーリ・シズが負けたと噂が広がると思う。


「そこも配慮したぜ。戦うのは、お前さんだよ。ユーリ・シズさん。同性同名が戦えば、強い方が本物だよな。だって、竜王祭で優勝する程だから」


「あっ、なる〜。その手があった」


「そんな訳で、明日決闘出来る様に、冒険者ギルドに協力して貰い準備をしたぜ。呼ぶ方法もユーリ・シズなら冒険者登録されてるからギルドの命令には従う義務が有るってな。だから、夜道で襲われるかもしれないからよろ」


「はいよ。仕留めたら騎士団に転送するわ。牢屋に陣を書かせて」


「牢屋は、下に有るから案内する」


 ロランと牢屋に行き、転移の陣を書いた。ちゃんと起動するかの確認をした後、騎士団から帰った。






 翌日。


 ベガルタの中央広場に決闘場が設けられていた。


「さぁ、ユーリ! ロランの用意した奴を倒せば、私達の威厳は上がる筈だ!」


 偽物さんの側で力説している貴族がいた。周囲の人たちは、彼らを冷めた目で見ている。


 これだと選挙で議員になるなんて無理そうだな。


「おらおら、さっさと相手は入場しないのか? それとも俺の名前に怖気づいたか?」


 なんか、ムカつくのでさっさと登場してやろうじゃないか。


 決闘場の入口に立つと審判を務めるギルドマスターに手を振った。


「両者揃いましたので、決闘者の入場を行います。右、ユーリ・シズ。左……」


 俺は、偽物が気付かない様にずっと着ていなかった赤いコートを羽織って入場した。


「ユーリ・シズ!!」


『はぁ?』


 流石に、周囲の人たちも混乱していた。なんせ、決闘者が同性同名だからな。


 まぁ、コイツの名前は偽物なんだけど。昨日、夜中に襲ってきた連中が教えてくれたよ。


「はぁ? こんな若造が、俺と同じ名前だと? 偽物を用意するなんて、良い度胸してるな!」


「偽物だぁ? 失礼な事を言ってくれる。お前の方が偽物だろ? バーバラ君」


「なっ、何故、その名を!?」


「仲間が一人も帰らないから、可笑しいとは思わなかったのか? というか、屋敷にいた他の仲間もいないのに?」


「昨日から誰にも会わないと思ったら……仲間に何をした!!」


「牢屋にぶち込んだだけ。犯罪者は、牢屋に決まってるよね?」


 襲われるかもと言っていたので、路地裏を一人で歩いたら予想通り大人数で襲ってきたよ。


 当然、全員返り討ちにしたさ。だって、アイリスたちも伏兵でいたし。あっと言う間に終わったよ。


 しかも、それからわざと一人だけ逃し、隠れ家まで案内して貰った。


 そこからは、内部に侵入して一人一人。ホラー映画みたいな演出をしながら牢屋に転送した。


「というか、気付いてないのに驚いた」


「きっ、貴様! 仲間が死刑になったらどうしてくれる!」


「まぁ、当然だよね。重罪も多く犯してるし。それより……」


 英雄覇気だと、小物過ぎて気絶しそうなので、自分の魔力を開放して威圧する事にした。


「俺の名前を語るとはどういう事だ!」


「っ!? ほっ、本物……?」


 男の顔から血の気が引き始めた。それを見ながらギルドマスターが宣言する。


「只今より決闘を開始します。勝負方法は、どちらかが戦闘不能になるまでです。では、開始して下さい」


「さぁ、懺悔のお時間です。今まで殺したり迷惑掛けた人を頭に浮かべな!」


「あはは……」


 男の乾いた笑いが聞こえてきた。俺の名前を使って悪さをした事を後悔しているのだろう。







「そこまで! 決闘終了!!」


「ふぅ〜、スッキリした!」


「………」


 武器を使わず、素手でボコボコに殴ったら、バーバラの顔はモザイクが必要になったよ。


 しかも、途中からポーションで癒やしつつ殴ったから、心が折れたと思う。最後は、「ごめんなさい」を連呼していた。


「そっ、そんな! 私のユーリ・シズが!!」


 貴族の男の動揺振りは、計り知れない。膝をついて天を仰ぎ、叫んでいた。


「乙〜、後は任せろ」


「はいよ〜、任せた。俺は、嫁たちと遊びに行くから。夜に結果を聞きに行くよ」


「おう、待ってるぜ」


 その後、バーバラは、騎士団に連行されていった。ついでに貴族の男も連行されていた。


 なんせ、バーバラの雇用主だしな。その上、バーバラの部下も雇っていたから事情聴取が必要なのだろう。






 後日談。


 バーバラたちの殆どは、死刑が確定した。盗賊として色々な悪さをしていた訳だし、殺人とかも多いから当然だと思う。


 そして、雇用主の貴族は、一応無罪となった。


 理由は、バーバラたち盗賊の標的にされていたからだ。バーバラたちは、貴族に近寄り、親密になった頃に内部から襲撃していたらしい。


 今回は、俺の名前のお陰様で近付き易かったそうだ。


 だけど、あれだけの騒ぎの中央にいた事で噂の的にされた。それもあってか、この国に居れないと国外に出ていったそうだ。


 こうして、俺の偽物事件は幕を閉じた。

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