懐かしきライバル
リヒト共和国の首都に着いてから直ぐに盗賊たちを守衛たちに引き渡した。今後彼らは裁判により刑に処されるだろう。
「ご協力感謝致します。お陰様でこれ以上の被害を出さずに済みそうです。彼らは盗賊の中でも最低の分類なので、恐らく殆どの者が死罪になると思われます」
「そうですか。自業自得だから仕方ないですね」
「ええ、全くです。所で貴方は一体何をなされたのですか? 盗賊たちの怯え様は尋常では有りませんよ。知ってる情報を話すから楽に殺してくれと言う始末です」
「あはは、きっと悪い夢でも見たんですよ」
正しく表現するならば臨死体験の白昼夢。
狂乱の小世界を妖精の箱庭から持ってきて、その内部に盗賊たちを放り込んだ。
その上で痛覚はそのまま、何度死んでもその場で復活する様に設定変更。ついでにリリン作のトラップで満載にし、死のピタゴラスイッチも経験して貰ったよ。
その結果、彼らの心はボッキボキに折れちゃった。だから、何を聞いても素直に答えてくれる様になったのさ。
ちなみに、舌を噛んだりして自殺も試みた奴もいたみたいだよ。
でも、出血が酷いだけで中々死ねなかったみたいだ。
「……まぁ、そうかも知れませんね。拷問の跡とか見受けられませんでしたから。それでは私はこれで失礼致します」
「ええ、お仕事お疲れ様です」
俺は守衛たちを見送った後、通常ゲートの方に移動した。モーリスさんたちは普通の商人なので通常ゲートを通る必要があったのだ。
ここで分かれても良いが商人とのコネは何かと役に立つので去る前に挨拶しておこう。
ゲートまで移動すると検問を終えたモーリスさんたちが、俺らに気付いて近付いてきた。
「ユリシーズさん、それに皆さん。お陰様で無事に首都へと帰り着けました。ありがとうございます」
「いえいえ、むしろお礼を言うのは俺達です。ここに着くまで馬車に乗せて頂きありがとうございます」
そこから俺達はお互いに何度もお礼を言い合った。
「時にユリシーズさん。貴方とは以前お会いしませんでしたか?」
「はて? 俺としては会った事はないと思いますが……?」
「なら、私の気のせいですね。一度カリス殿のパーティーで見た気がしていたのですが……」
「あっ、それなら気のせいじゃないです。俺もこの前のには参加してましたからね」
「ほおぅ、どうやら気のせいで無かった様ですね」
モーリスさんもカリスさんのパーティーに居たようだ。それ関係で色々をお話をした。
「まさか、ユリシーズさんがセリシールの社長さんだとは……っ!?」
「あははっ、よく言われます。それじゃあ、自分たちはこれで失礼します」
「ええ、またお会いしましょう。帰りにでも私の屋敷に寄って下さいね」
そんな感じでモーリスさんたちとの分かれを惜しみつつその場を後にした。
それから数十分後、俺たちはリヒト共和国の騎士団本部にやって来た。
なんでも盗賊たちの話や冒険者ギルドの情報によると偽物ユーリは現在指名手配されているらしい。色々な小物を押さえてあるそうなのでギンカに調べて貰おうと訪ねたのだ。
「ようこそ。リヒト共和国の騎士団本部へ」
「こんにちは。情報開示をお願いしたくやって来ました」
「何処かの紹介ですか? もしくは名前を伺っても?」
「冒険者ギルドの紹介です。私はユーリ・シズと言います」
その時、何も考えずに本名を受付の人に答えてしまった。それが原因で騒動になるのだがその時は気付いていなかった。
「……そうですか。少しお待ちを」
それから数分待っていると周囲に騎士が集まってきた。
「両手を出して貰っても良いですか?」
「うん? 良いですよ」
俺は言われるままに両手を差し出すとガチャと言う音が響いた。
「はい?」
俺は自分の手首を見るといつもの旅で見慣れた銀の手錠がつけられていた。
「なんで!?」
「まさか、犯人自ら騎士団本部にやって来るとは思いにもよりませんでしたよ」
「ちょっ!? 人違いだよ!? いや、人違いでなく本人だけど!?」
「はいはい、詳しくは別室で聞きましょうね」
俺は騎士たちに連行されて事情聴取を受ける事となった。本名をうっかり名乗ったばかりにこの結末だった。
結局、この街のギルドマスターが俺たちを心配して騎士団に様子を見に来てくれるまで誤解され続けたのだった。
「あははっ! お前、災難だったな!!」
開放された後、ギルドマスターの案内で会った人物は俺の話を聞くなり大爆笑し始めた。
「ロラン! 俺としては笑い事じゃなかったんだからね!!」
「でも、仕方ねぇよ。だってお前の顔を知ってる奴なんてこの国じゃあ竜王祭で直接戦った俺くらいだろうしな。まぁ、だから偽物だって分かって指名手配出来たんだがよ」
この男はロランという。以前竜王祭で戦った奴の1人だ。
彼は魔剣の使い手で今も傍らには重量を操作出来る愛用の魔剣エリスが置かれていた。
「指名手配したんなら特徴まで伝えてよ! あからさまに容姿が違うよね!?」
俺は手配書の人相書きを片手にロランへと文句を言った。
何故なら書かれている姿は何処をどう見たって俺には似ていなかったのだ。
「ププッ! 似てない! 似てなさ過ぎでしょ!」
「流石に、これは……クスッ。あっ、すみません」
「まさか服装や装備に違いが有るのは調査で知ってましたが、容姿にもここまでの差があるとは……ククッ」
「無いです! これは無いですよ!!」
アイリスたちが笑うのも仕方ない。そこに書かれていたのは顔に切り傷が有り、いかにもゲスって感じの小太りの野郎だった。
こんなのと一緒されるのは凄く落ち込む。
それを察したのか、ずる賢い三女は直ぐに行動した。
「大丈夫ですよ、ユーリさん。辛いなら私の胸に来て下さい」
リリアが手を広げて招いていたので、俺は素直に懐へ飛び込んだ。
ああ、良い匂いに柔らかくて癒やされるわ〜。
「「あっ、ズルッ!」」
「ふむ、リリア。私もします」
「はい、どうぞ」
リリアが俺を開放すると、今度は背後からギンカに抱き着かれた。
ヤバい! こっちの方が破壊力は抜群だ!!
後ろに倒れ込む形で抱き締められた為にギンカのおっぱいを枕にする様な形になっていた。
「おいおい、俺の前でイチャイチャすんなよ。お前には竜の嫁がいるだろ?」
「いや、この娘たちも全員嫁なんだが……」
「マジか!? お前さんも隅に置けねぇなぁ〜。なんならモテる秘訣でも教えてくれねぇか?」
「………女の子のピンチに駆けつける?」
俺は出会いの中で成功率が高そうなのを言ってみた。現にアダムスとかもそれで嫁が増えている。
「ああっ? だったら、既に増えてるだろうがよ。だって俺は筆頭騎士だぞ。そういう場面は何度も経験済みさ。でも、嫁さんは1人だぞ」
ですよねぇ〜。実は俺もそう思ってた。皆には悪いが彼女たちがチョロインさんとかだっただけなのかもしれない。
「それより俺の偽物の話をしよう。今ソイツについて何処まで分かってるの?」
「それな。実はーー」




