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俺の偽物が出たそうです

 竜王国の首都ペンドラゴンにある冒険者ギルド情報室。


 そこでは、各ギルドと協力し、他国で起こった事件や魔物騒動等の情報をやり取りしている。


 その中には、所属の冒険者が何処でクエストを受けているか等の情報も混ざっているのだが、中にはその冒険者への苦情も付き纏う。


「おいおい、これは無いだろう?」


「ですよね。あの人、お金持ちですし」


 情報部の者たちの前に、広げられた紙には冒険者への苦情が書き並べられていた。


 しかし、そのどれもが共通した文面から始まる。


『ユーリ・シズを名乗る冒険者が……』


 と始まり、食い逃げや暴力といった悪事の数々が記されていた。


「場所もリヒト共和国って無理だろ? 先週、ギルフォードさんと話してたぞ?」


「あっ、それは転移の使い手だから距離は大丈夫じゃねぇ?」


『確かに!』


 ユーリが空間魔法の使い手なのは、竜王国の冒険者連中は、皆知っている。


「ってか、この名前は、あの人の本名だよな? 冒険者登録名は、ユリシーズになっているから。滅多に名乗らないよな?」


「えぇ、今は身内の人しか呼ばないそうですよ」


「なら、これは……」


「多分、偽の人物ですね」


「問題が広がる前に、急いで上に報告するか」


 情報部の者たちは、直属の上司である副ギルドマスターのビリーに報告するのだった。


 それを聞いたビリーは、直ぐ様ギルドマスターのギルフォードに報告した。




 **********************




「そいつは、命知らずか何かか?」


 俺は、ビリーからの報告を聞くなり頭が痛くなった。


「はぁ〜……悪評が広がっても困るな。ビリー、直ぐ行動に移したい。情報部の者たちには、この情報を優先的に収集させてくれ」


「承知致しました」


 その後、情報部とビリーの尽力により、相手の行動範囲を絞る事が出来た。


 それから数日後。


 俺は、王宮の転移門(ゲート)を利用して、ユーリの住む妖精の箱庭(フェアリーガーデン)を訪れていた。


「マリー。ユーリは、屋敷にいるか?」


「あっ、お兄様。はい、図書室にいますよ」


 転移門を越えた先にいた妹に旦那の場所を聞き出し、その場所へと向かう。


 屋敷の図書室に着いた。


 その扉を開けると目的の人物は直ぐに見つかった。


 彼は、部屋に置かれた揺れ椅子に座り、膝には子供を乗せている。その手には絵本が広げられている事から読み聞かせをしていた様だ。


「うん? ギルさんじゃん。どうしたのそんなに慌てて?」


「少し確認したい事があってだな。ユーリ、ここ2ヶ月程の間に他国へ出掛けたりしたか?」


「他国に? 和国とかには行ったけど?」


「他は、行ってないのか?」


「行ってないよ。特にここ1ヶ月は、社交界でのダンスやマナーを練習していたからね」


「ああ、マリーに色々聞いたよ。なんだかんだで、初のパーティーは、上手くいったそうじゃないか」


「うん。伯爵の方も良い感じになってた。でさぁ、本題はそっちじゃないよね? 図書室にまで訪ねてくるくらいだしさ」


「ああっ、実はだなーー」


 俺は、今回の騒動を全てを伝えることにした。


「なるほど。だから、何処にいたのか聞いてきた訳ね」


「それで、結局リヒト共和国への渡航歴は?」


「いいや、やっぱり無いよ。そもそも、リヒト共和国は、まだ行った事がないし。マーキングも出来てないから転移出来ない」


 ユーリの話や周囲での出来事は知っていたので、やはりこの件は偽物によるものだと確信出来事た。


「ユーリ。偽物を捕まえてくれないか? 流石に、ギルドの顔であるSランク冒険者の名前を語られるのは不味い」


 うちのエースで稼ぎ頭に対して、悪評が付いて回るのは冒険者ギルドとしては、どうしても避けたい。


「ギルさん。犯人は捕まえた後、騎士団か冒険者ギルドに引き渡せば良い?」


「あぁ、それで頼む。報酬に関しては、ちゃんと用意しておくから」


「良いよ、別に。俺としては、名前を使われ悪事を働かれる事が、非常に許せないだけだから」


 俺が、よくよくユーリを観察すると珍しい事に青筋を浮かべていた。いつもはそんなに怒らないから本当に珍しい。


「俺の名前を使って食い逃げとかふざけてやがる。今から出るよ。冒険者ギルドの方には、連絡を宜しくお願いします」


 ユーリは、直ぐ様、数人を引き連れて出かけていった。




 **********************




 屋敷を旅立って、1日程経過した。


 リヒト共和国に最も近い場所へと転移後、ギンカの背に揺られ移動してきた。


「後少しで、リヒト共和国の国境を超え関所が見えてきます」


 そして、直ぐにリヒト共和国の関所へと辿り着いた。


 いつも通り、受付で色々起こるかもと思いメンバーを大人組だけで構成した。そのおかげもあって、通行はあっさり許可された。


「最初の街に着いたら、そこでも情報収集を行う。アイリスとリリスは俺と同行、ギンカはリディアたちに付いてくれ。連絡係兼犯人の匂いを調べて欲しい。『酔いの海亭』という酒場で、代金を踏み倒したらしい」


『了解!』


 関所を越えて、街に着いたのは夜だった。この街は、至って平和らしく人通りが少しある。


 時間的にも酒場に人が集まる良い時間帯だった。


「それじゃあ、任せたよ」


「はい」


 ギンカたちに後を任せて、俺たちは他の飲食店を回る。


 情報にあったのはあの店だが、被害情報が挙がっていないだけで、他でも起こしていそうだ。


「………」


 結果から言うとその考えは正解だった。3軒目で入った飲食店で、食い逃げが発生していた。


 しかも、止めに入った従業員が怪我をしたらしい。


 ポーションで治療して上げると色々情報をくれた。


「その男は、貴方と同じ様な真っ赤なコートを羽織っています。しかも、腰には紅い剣を携えていました」


 紅い剣というと炎魔剣イフリートの代わりかな?


「後、その日の内に街を出たそうです。指定された宿に事情聴取しに行った騎士団の人から聞きました」


「そうなのか? ありがとう、助かるよ。お大事に」


 そう言って、店を後にした。そして、ギンカたちと合流し、リディアから説明を受ける。


「こちらでも紅いコートと剣を所持していたそうです。でも、争いで服が少し破れたのか、布切れを回収出来ました」


「匂いも残っていて、犯人を追えそうです」


「分かった。明日からは、その匂いを辿ろう」


 俺たちは、その後近くの宿に世話になった。飛び込みだった為に結構な金額になっていたが、二部屋取れたから良いだろう。


 そして、珍しく夜の営みはせずに就寝。早朝には、この街を後にした。

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