パーティーでトラブル発生!
初めてのパーティーは、つつがなく進行していた。
商会ギルドがスポンサーを務める演奏家たちの伴奏。新作の商品の発表会。
そして、再び演奏が始まってダンスとなった。
「お嬢様。お手をどうぞ」
「しっかり踊って皆に自慢してあげましょう」
マリーの手を取って、ダンスに参加する。
ダンスの方は心配だったけど、1ヶ月みっちりと練習しただけあってスムーズに踊れた。
もしくは、緊張するのは仕方ないと開き直ったからかもしれない。おかげで、堂々と振る舞うことが出来た。
「お二人共、大変素晴らしかったですよ」
「自分もあんな風にやれる様、頑張ります」
ダンスを止めて戻るとコーリス伯爵たちが褒めてくれた。
それはまるで、自分の事の様に語るので嬉しくなってくる。
「次は、テオドールの番だろ?」
「はい。僕もちゃんと踊れるでしょうか?」
実は、彼も俺に合わせたらしく初めての参加なのだ。
でも、昔から両親に教わっているだけあって、俺とは天と地程の差がある。
「大丈夫さ。それより、誘う相手はいるのかい?」
「えっと……それは……」
テオドールは、顔を赤らめるともじもじしだした。その様子にピュアだなぁ〜っと思う。
「パーティーなんだから気になる女の子を誘うのは当然だろ?」
俺は、ニヤニヤしながらけしかける。そしたら、マリーも母親が言いそうな事を言って、テオドールを急かし始めた。
「私が呼んで来ましょうか? 私が名前を明かせば、多分踊ってはくれますよ?」
そう、マリーは、現在名前を隠している。おかげで、王女だからと擦り寄って来る奴がいなくて、気持ち的にも助かっている。
いや、良く考えると隠しているは違うな。普通にマリーと名乗っている。俺もいつも通りにマリーと呼んでいる。
でも、これが良い目隠しになるのだ。
本来、この場に居る人間の殆どはマリーの事を本名の『マリアナ』と呼ぶ。彼女の事を『マリー』と呼ぶのは親族か、親密な者たちのみ。
だから、バレずに済んでいる。
「マリー様にその様な事をして頂くなんて!? じっ、自分で行きますよ!」
テオドールは、慌てて断ると離れて行った。
「ういなぁ〜」
「ですね。私もああいった事は有りませんでしたから」
「そうなの?」
「ええ、両親や兄弟の後を付いてくだけでしたし。それに、竜種は結ばれる相手が自然に決まりますからね。そういう気持ちを抱き辛いんです」
「なるほど」
「そういえば、初めてお会いしたのは、竜王様の誕生日会でしたよ」
「あら、そうなんですか? すみません、忘れてました。申し訳無いです」
「いえ、軽く挨拶をした程度ですから、覚えていないのは無理も有りません。それに、挨拶をする人数も多かったでしょうし」
「そう言って貰えると助かります」
「所で、息子の帰りが遅いですね? 何処まで行ったのでしょうか?」
「確かにそうですね」
既に、次のダンスは始まっていた。というか、それも今終わった。
入れ替わりの人たちが集まっているが、その中にも見当たらない。
「あっ、見つけましたよ。入り口近くの椅子の所です」
マリーが教えてくれた場所を見ると休憩用に置かれた椅子に座る少女とその前に立つテオドールの姿があった。
「うん? もう一人男の子が居るな? なんか、女の子に絡んでるみたいだけど」
女の子の隣に座る奴が、彼女にちょっかいを掛けている。テオドールの手が荒っぽく動くのが見えたから何やら怒ってるみたいだ。
「あの女の子は……」
「伯爵。何か知ってるんですか?」
「ええ、遠いのと息子が邪魔で良く見えませんが、あのドレスには少し見覚えが有ります。以前、ネーヴェ男爵家に紹介された娘も似たものを着ていました。少女によく似合った衣装だったので、よく覚えています」
俺の位置からも女の子が淡い水色のドレスを身に纏っているのは見えるが、テオドールの背中で顔が見えない。
「なんか、揉めているみたいですね。様子を見に行きますか?」
「そうだね。でも、子供案件に大人が直接関わるのは不味いよな。俺の精霊魔法を使って近くで見よう」
「すみません。私にもお願いします」
「うん、任せて下さい。一緒に見ましょう」
コーリス伯爵も参加するので3人で行動する事にした。
まず、いきなり魔法を使って消えると周囲にバレて騒ぎになるので、部屋の端に移動し、認識阻害で人目を避ける。
次に、いつも恒例の水精霊魔法。水による光の屈折を利用して周囲の景色に溶け込む。
「この膜から出ない様に注意して下さい。会話も小声でお願いしますね」
「承知致しました」
「では、行きましょう。イタズラするみたいでウキウキします」
「同感」
俺たちは、ゆっくりとテオドールたちに近付いた。
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ユーリたちが、テオドールに忍び寄る数十分前。
「うぅ……緊張するな」
テオドールは、人を避けながら目的の少女を探す。実は、ここに来た時、居るのが見えたので密かに誘おうと思っていたのだ。
「見つけた!」
そして、入り口側の椅子に座っている淡い水色のドレスの少女を見付けた。近付く前からテオドールには、彼女だと確信が持てた。
彼女の名前は、アリシア・ネーヴェ。
男爵家の娘で、テオドールが密かに恋心を抱いている娘だった。
「(初めて会った時は、雪の妖精に会った気持ちになったっけ?)」
アリシアの白い肌は、彼女の着るドレスと相性が良く、とても儚げな女性を印象付けていた。
「こんばんは、アリシアさん」
「えっと……貴方は、確か以前に何処かでお会いした様な……?」
アリシアは、顔は覚えているけど名前まで思い出せない様で、なんとか思い出そうと頭を捻っている。
なので、テオドールは先に名乗る事にした。
「テオドール・コーリスです。以前、祝賀会でお会いしましたよ」
「そう。そうでした。コーリス伯爵の息子さんでしたね。私に何かご用ですか?」
「ええ、アリシアさんにお願いが有りまして」
「伯爵家の方が、私にお願いですか? 何でしょう?」
「お嬢さん。私と踊ってくれませんか?」
「まぁ、ダンスのお誘いですか? 喜んでお相手致しますわ」
「ありがとうございます」
テオドールは、内心で良しっとガッツポーズを取った。とても嬉しい気分と男を魅せなきゃという覚悟が湧いてくる。
しかし、その気持ちは一瞬で切り替わる事になる。
テオドールは、アリシアの手を取り、ダンスに向かおうとした瞬間、ある者から呼び止められた。
「よう、テオドール。お前が、女とダンスしようなんざ笑えるぜ」
そこに居たのは、テオドールと同世代の男の子だった。
「貧乏人は、領地に帰って運営を頑張りな。まぁ、そうそう抜け出せるとは思えないけどな」
「煩いよ、ベルベット。生憎、うちはある方のおかげで半年も経たずに債務を精算出来たんだ。今では、既に黒字になってるよ。いつまで過去を引きずっているんだい?」
「ハッ! 底辺の伯爵家風情が良く言うよ」
この子は、テオドールと同じ伯爵家で、何かに付けてテオドールに絡んでいたのである。
理由は、彼の家は宮仕えなのに対して、テオドールの家は領地のみ。同じ伯爵家でも差があった。
しかも、不作が続いた事で、領地運営は赤字となり伯爵家の中では底辺になっていた。
「てめぇには、一度ハッキリ立場を言ってやりたかったんだ」
「良いね。僕も君の言動には嫌気が差していたんだよ。この際、ハッキリさせようじゃないか。あぁ、でも、親を巻き込むのは無しだよ。それとも、君は親を巻き込まないと何も出来ない人間なのかい?」
「良いぜ! 受けて立ってやる!!」
「……アリシア。長くなると思うので、また座っていて下さい」
「えっ、でも……」
「大丈夫です。むしろ巻き込んで、すみません。後日、男爵の所には謝罪しに行かせて下さい」
テオドールは、アリシアを椅子に座らせるとベルベットとの戦いを開始した。
長くなってきたので、残りは明日に分けます




