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迎えに行った結果、バトルになった

 植物公園へと転移(シスト)したら、自分の周囲を優しい匂いが包み込んだ。それは、目の前に広がる色とり取りの花たちだ。


 植物公園は、竜王国の憩いの場として造られた場所なだけあってとても広い。目的地無しだと時間がかかるだろう。


 一応、探し人であるシオンは、花畑に居るかもとの事だったので、花畑寄りに転移したのだが………ここには居ないな。


 魔力感知と精霊感知を併用しながら周囲を確認するが、シオンの姿は見当たらない。


 他の花畑なら居るかな?


 この植物公園には、花畑が全部で4つ存在する。俺は、花畑を順番に回ることにした。


 まず行った花畑は赤が強い場所だった。


 植えられているのは、多種多様な撫子だ。見慣れたピンクの物や滅多に見ない白い物などがある。


「ここには、居ないな」


 あまり期待はしてはいなかったが、やはりここにもシオンは見つから無かった。代わりにデート中のカップルのキスを見付けた。


 一瞬、妨害しようかと本気で悩んだ。


 さて、次は俺のお気に入りの場所に行って見よう。





 久しぶりに来たその花畑は、青が占める花畑だ。


 植えられているのは、ネモフィラ。


 鮮やかな青色の花がメインに植えられ、水玉模様の白花や可憐な斑点の黒花なども植えられいる。


「案外、ここに居るかもと思ったが居ないな」


 シオンの気配も姿も見えなかった。


 次に行こう。次こそが本命の場所だ。最初の場所以外だと、そこしか考えられない。





 その花畑にはメインが無く、常時鑑賞出来るように、季節が関係ない花が植えられている。


「あれ? ここにも居ない」


 着いてそうそうに確認したが周囲には居なかった。それは、感知の範囲を広げても同じであった。


「ここの花畑って、4つだけだよな?」


 俺は、以前貰ったここのパンフレットを開き、地図を確認する。


 やはり、そこには4つしか記載がない。


 俺と入れ違いになったのか?


 そう思っていたら、意外な所から答えが返ってきた。それは、近くに居たカップルの会話だった。


「ねぇ、知ってる? ここには、秘密の花園って言って、5つ目の花畑があるんだって」


「本当に? でも、地図に記載がないよ?」


「なんか、エルフの隠れ里みたいに隠れてるらしいよ。だから、詳しい人で無いと気付かないんだって」


 ……秘密の花園?


 俺は、再び地図を確認した。もし、本当にそんな場所があるのなら、天然の認識阻害が起こっている可能性がある。


「ここかな?」


 俺は、あっさりとそれらしい場所を見付けた。


 地図に記載された森の中で、その場所だけが、他の森からぽつりと孤立していたのだ。


 さっそく、移動してみた。





「ビンゴ!」


 その場所は、木々の魔力によって天然の認識阻害が働いていた。


 おそらく、秘密の花園は、この森の中央に有るのだろう。なんとなくで入り確認すると中央からズレて通り抜けてしまったからだ。


「後は、基本的な対処法で行けるな」


 認識阻害は、生物に影響を与える。その為、簡単な方法として無機物を使うやり方が定番だ。


 俺は、アイテムボックスから紙を取り出し、紙飛行機を作った。


 その後、森の中央へ向かって真っ直ぐ投げる。


 投げる動作自体には、認識阻害が働かないので真っ直ぐ投げる事が出来る。


 後は、それを追う様に進めば、回避出来るのだ。





「よう、迎えに来たぜ」


「ユーリ……」


 俺は、花園で仰向けに寝ていたシオンに近付き、隣に腰掛けた。


「さっき、リリィから妹の事だとか、エルフの風習だとか色々聞いたよ。それが原因で逃げたんだろ?」


「………」


 無言という事は、真実らしい。


「俺たちは理解出来たんで、今度は、シオンの知らない話をするとしようか」


「私の知らない話?」


「ああ、シシネたちの話だ。シオンは、今までクエストに行ってたからな。現状を知らないだろ? これを聞けば、シオンが逃げる必要が無いことも分かるさ」


「………話して」


「OK。まず、シシネたちがいた理由なんたがーー」


 俺は、シオンに今回の件を順番に話して聞かせた。


 その後、話が終わると彼女は顔に手を当てて転がり出した。手の隙間から見える顔は真っ赤になっていた。


「ううぅ……!!?」


 そして、ガバッと身を起こすとめっちゃ喋り出した。


「何よ何よ何よ! 里の焼失!? 併合!? 風習の無効!? 挙げ句の果てに、シシネがユーリの所に嫁入り!? 色々有り過ぎでしょ!!」


「あはは、だよね。あっ、一応、言っておくが、俺は彼女たちにシシネを寄越せなんて要望してないからな」


「………」


 シオンは、じ〜っと見詰めてくる。


「いや、本当だからね!?」


「どうだか」


「相変わらず、シオンの中で俺の評価おかしくないですかね?」


「大丈夫よ。私は、貴方の事を……」


 シオンは、思わせぶりに言葉を区切る。


「俺の事を?」


「種馬野郎と思ってただけだから。もしくは、ヤリチン?」


「うおぃ!」


 事実だけどさ! もうちょい優しく言う気遣いはないのだろうか?


 だから、シオンに文句を言おうとしたら妙な流れになり出した。


「全く、どうしてシシネなのよ。他にも適任者がいるじゃない。里の関係者で良いなら他に居るじゃない」


「他って誰よ」


「例えば、私……とか?」


 うん? おやおやおや?


「シオンや。貴方、俺の事をボロクソ言ってませんでしたか?」


「そっ、それは、ユーリの行動が原因だから仕方ないのよ」


 そう言って、そっぽを向いてしまった。


「本当、ユーリは鈍感なんだから」


「!?」


 それは、小さい独り言だったけどしっかり聞こえた。流石に、これを聞けば鈍くても気付くかもしれない。


「えっ、まさか、シオンに好意を寄せられてたのか?」


「………はい?」


「だって、今、俺は鈍感だからって」


「っ!? こっ、これは違うのよ!! そっ、それは違う意味で!!」


「あっ、顔が真っ赤になった」


「〜〜〜〜っ!?」


 シオンの顔は、ボッと火がついた様に赤くなっていた。その反応から嘘ではなさそうな事が良く分かる。


「という事は、シオンにキスしたり、それ以外ーー」


 その瞬間、顔の横をヒュンという音と共に何かが通過して行った。


 そして、遅れて背後からビィーンという振動音が聞こえてきた。


 シオンを見ると真っ赤な顔をして弓矢を構えていた。どうやら、今のは彼女の攻撃らしい。


「わっ、私を手込めにしたかったら、生き残りなさい!!」


「えぇーーっ!? いきなり過ぎやしませんか!!」


「死ね死ね死ね!!」


 そこからは、俺の返事も聞かずシオンの連射が始まった。


 これがヤバいこと、ヤバいこと。なんせ、避けたとしてもその矢が俺に向かって返って来るのだ。


 魔力感知で認識出来るから避けれはするけど、魔法を纏った物なので下手に避けたり落とすとダメージを受けるのだ。


 しかも、転移による回避だと移動した所を確実に狙われるので、素直に避けるしかない。


 それもあって、シオンの奴がガチで殺しに掛かっている事が理解出来た。なんせ、顔や心臓といった急所をピンポイントで狙ってきているのだ。


 俺も流石にこれにはキレた。


「や・り・す・ぎだ!」


 俺は、フラガラッハを取り出すと魔法ごと矢を斬り刻み突進する。


 その途中、切り刻んだ矢を空間魔法で回収するのを忘れない。


「っ!?」


 シオンへとの距離が近付いた所で、俺は彼女の全方位を空間魔法で囲み、破片をばら撒いた。


 シオンは、咄嗟の事で慌てたのか両手でガードする。その隙を、俺は勢いに任せてシオンに組み付き、押し倒した。


 その衝撃が、周囲の花びらを舞い上がらせた。


 今の俺は、シオンに馬乗りで手首を押さえ付けた状態になっている。その状態で、俺たちはしばらく無言で見詰めあった。


 そして、最初に喋り出したのはシオンだった。


「……好きにしなさい」


 少し熱ぽい顔をして彼女は目をつぶった。


「……分かった。好きにする」


 だから、俺はキスからするのだった。






 結局、連れ戻した時には夕方になっていた。


「シオン姉様……」


「シシネ……」


 俺は、2人がじっくり話せる様に来客用の家に押し込んだ。


 でも、その前に、他のエルフたちからシオンへの謝罪があった。


 シオンは、古い風習故に仕方ないとあっさり許していた。


 そのおかけで、妖精の箱庭(フェアリーガーデン)を追い出されるのではと思っていたエルフたちは安堵していた。





 翌朝、シシネや他のエルフたちと仲良く談笑するシオンを見掛けた。


 10年くらい疎遠だったけど、長命種にとっては昨日の今日という感覚でしかなさそうだ。


 昔みたいに仲良くなれて良かったと思う。









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