移住希望者
世の中には、同じ事が続くという流れが存在すると思う。
妖精の箱庭にイザベラたちを連れて来て、骨董市でモモちゃんを買ってやって来た。
そして、今度は移住希望者だった。
「えっ? 移住希望者? それも多数?」
「はい、そうなんです」
この相談は、ラズリからされた。
「……詳しく聞こうか」
「助かります」
俺は、ラズリから詳しい話を聞くことにした。
どうやら今回の案件は、またしてもラファエラさん経由だそうだ。
あの人、まともそうに見えて意外とトラブルメーカーなのでは?
まぁ、どちらも巻き込まれる方みたいだけど。
「私たちの里には、友好里がいくつか存在するのはご存知ですよね?」
「ああ、メーアとかの里がそうだよな」
「そうです」
「あの里にまた何かあったのか?」
人手不足で薬師を急遽育成中だしな。
「いえ、違う里です」
違っていた。
でも、違っていたがメーアの村とも交友を結んでいる里だそうだ。
それで、移住希望の理由は何だろう?
「山火事で里が燃えたそうです」
「あれ? そんな時期だっけ?」
山火事といえば、秋に起こりやすい。
もしくは、ラグス王国の様な乾燥した土地ならいつ起こってもおかしくないが。
「………」
何故か、俺の疑問を受けてラズリが凄く言い難そうな顔をしていた。
だから、俺は軽い冗談を言ってみる事に。
「自分たちで引火させてたりしてな」
そしたら、ラズリは、こう答えた。
「はい」
「………」
俺は、一瞬思考が停止した。
「……引火原因を聞こう」
「婚姻の儀で、全力を出した結果だそうです」
「バカなのソイツら!?」
「そうですよねぇ〜。父さんですら加減したのに」
後で知った事なのだが、俺の婚姻の儀では、ロロと火の上位精霊イグニスは、技の威力を加減をしていたそうだ。
どう見ても加減したように見えなかったけどな。
俺、火の中に閉じ込められたし。
でも、エリス曰く、ロロとの相性も良いので本気を出した場合、村が火の海になる程の威力を出せるそうだ。
それでは、話を戻そう。
ラズリから聞いた話を纏めるとこうだった。
婚姻の儀において新婦が快進撃。
男エルフを取られると思った女たちは、全力で対応した。
その一環でサラマンダーを召喚した。理由は、新婦の得意とする魔法が風だったからだ。
風魔法にとって火魔法は最悪。なんせ、火魔法と相対すると基本吸収されて、火魔法を強化してしまう。
だから、新婦の魔法は吸収されて、火魔法は特級クラスにまで強化されたらしい。
そして、事件が起こった。
特級クラスまで強化された火の魔法。これをコントロール出来なくなったらしい。
「本人曰く、ここまで強化されるとは……と言っていたそうです」
その結果、周囲に展開していた結界を破り森へと引火して、全てが焼失。
普通の火なら木の水分影響を受けて、なかなか燃えないので、鎮火が間に合っただろう。
しかし、魔法の火は水分量とかあまり関係ない。その為、燃え尽きるのも速かったそうだ。
「それで、里は散り散りになったそうです。男性陣と夫婦の場合は、各里が引き取るとの事。独身女性たちの身寄りを探している所です」
「新郎新婦は?」
「元々、里を出て街暮らしだったので影響ないそうですよ」
「それは良かった。罰とかも無いよね?」
「ええ、有りません。なんせ、ただ技を吸収されただけですから」
「うん? それじゃ、コントロールをミスった子は?」
「罰として娼館に売られたそうですよ。他の里に移住する為にかかった費用を請求する為に」
ランク付けにムキになるから。自業自得だと思って頑張って欲しい。
「それで、うちにどうかという訳ね」
森広いし、妖精の箱庭は、まだまだ拡張出来る。
今、敷地面積だと森の300分の1程度を使用しているに過ぎない。
「それで、どうします?」
「俺は構わないけど、皆に相談しよう。なんせ、畑の規模とかも弄らなくてはいけなさそうだしな」
「承知致しました」
という事で、皆集めて緊急会議。
「ーーって、訳らしい」
「それで、ユーリはどうしたいの?」
「困った時はお互い様って言うし、移住しても良いかなと。家も自分たちで建てると言ってるらしいし」
「食料面は、どうする予定なんですか?」
「畑をもう一個作るよ。いっそ、今の畑と別のを栽培するのも有りかなと思うし。それか、本格的に果樹園にするかな?」
そろそろ果樹を増やしても良いかなと思っていた。
「ユーリさんが認めるなら移住を認めますよ」
「ただ、格付けはしますので、狂乱の小世界を貸して下さい」
「ちょっと、本気を出してきます」
リリスたちは賛成の様だ。
「私も良いですよ。賑やかになるのは良いことだと思いますし」
「女の子が増えるのを否定する気は一切ないわ!」
こんな感じで、他の嫁さんたちも賛成らしい。
「ユーリ様が決められたのなら、私共は、否定する気は御座いません」
悪魔族たちも賛成らしい。ただ……。
「嫌なら嫌で良いからな」
「勿体ないお言葉をありがとうございます」
大人連中との距離が、まだ遠いんだよな。特に、長とは遠く感じる。
まぁ、その内なんとかなるよな。定期的に飯を一緒に食ってる訳だし。
「さて、皆も良いみたいだから畑をどうしよう?」
「果樹園で良いと思いますよ」
そう言ったのは、ダフネだった。
「もっと色々な果実を食べてみたい。最近、少し飽きてきたので」
あ〜っ、その気持ち分かるわ。林檎と蜜柑だけだもんな。一応、植物園にバナナがあるけど。
でも、そろそろ柿とか、桃とか食いたい。なんなら、梨も良いよな。
そうだ! 栗とかどうだろう?
セリシールでモンブランシリーズを出すことも出来るな。最近入った竜種の娘とか、お菓子造りが得意だしね。
「ok。果樹園にしよう」
「ありがとうございます」
「その代わり、拡張予定の範囲が分かるようにしてくれないか? 蔦とかで木を結んでくれるだけで良いから」
「分かりました。ドライアドたちとやっておきます」
これで、木を切る時に、範囲を認識し易いだろう。
「各自、宜しく頼む」
『はい!』
こうして、移住準備が始まった。




