意識だけの天使
俺は、現在底の見えない谷底へダイブ中。
「………止めるべきだったかな?」
俺は、落下する過程で見てきた彼女の記憶について後悔した。
うん? 自慢の魔法で飛ばないのか?
残念。使えないから落ちているんです。たぶん、最下層に着くまで落下し続けるのだろう。
「俺、選択肢を間違えたかな?」
俺は、今の現状を選んだ時の事を思い出すのだった。
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「で、どうやって彼女を止めるの?」
俺たちは、暴走する少女の攻撃を回避しながら話し合う。
ちなみに、障壁は貫通してボロボロにされた。まぁ、攻撃パターンは単純なので助かっている。
「……それ以前に、怪我の方は大丈夫?」
「ごくごく……大丈夫。怪我は、今回復したから」
俺は、アイテムボックスから取り出したエリクサーを飲み干してから答えた。
しかし、初めて飲んだけど凄い効果だな。
背中まで貫通した傷の痛みは完全に引き、あらゆる穢れが落ちた様にスッキリした気分にまでなる。
「それじゃあ、気を取り直して、策は有る?」
「ない!」
俺は、胸を張ってドヤ顔でエロースに告げた。
「とりあえず、糸です巻にして眠らせれば大丈夫じゃない?」
「それだと根本的な解決にならないわよ? 起きたら今の繰り返すだろうし」
「だよな。なら、どうしようか? そもそも、あの子が暴走している理由って何?」
「たぶん、彼女の意識がないんだと思う?」
「その理由は?」
「最初は、怒りの感情を見せたけど。今は、感情が欠如してるでしょ?」
確かに彼女は、機械の様に単純な攻撃しかして来ない。
まぁ、一撃一撃が必殺みたいな技なのだが。
「なら、本人の意識を呼び起こせれば、何とかなるかもな。……なんか、良い術とか知ってる?」
「う〜ん、『天使の歌』かな? あれなら、意識に干渉出来るから」
……天使の歌か。天使だけが使える特殊な技法としか知らない技だ。
「でも、彼女の意識を揺さぶりでもしないと効かないのよね……」
「あっ、いい方法があるよ。俺に任せて」
マンガとかで見て、試してみたかったんだよね。たぶん、やったら普通の人なら止まると思うよ。
「それじゃあ、始めるからお願いね」
「おう、任せろ!」
エロースの歌をBGMに、俺は少女へと近付いていく。
少女は、最初はエロースに攻撃しようとしたが、どんどんと近付いてくる俺に攻撃を変えた様だ。
俺に向かって、大量の黒剣が飛んでくる。
「………」
それを回避しながら、後1歩の所までやってきた。少女の様子は、無言のまま変わる気配がしない。
俺は、無言の少女へと手を伸ばして。
「………っ!?」
キスをした。しかも、ただのキスではない。舌が生き物の様に口内を蹂躙する大人のキスだ。
「んんっ!?」
少女の身体がビクッと震えた。それは、俺も同じだった。
「後、よろしく」
俺は、薄れゆく意識の中、エロースに後を任せたのだった。
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そして、現在に至る。
道中、映画でも見るかの様、彼女の記憶を見る事になった。
彼女も辛い経験して来たことがわかーーっ!?
「ぐはっ!?」
突然、落下が止まり、身体へ衝撃が走る。油断していたから諸に受けてしまった。
「痛ったたた……」
身体の節々が痛い。でも、ここが終点の様だった。
「クスクス♪ まさか、ここにまで来る人が居るなんてね」
俺が声のした方を振り返ると、そこにはエロースたちとは別の天使の姿があった。
「君は、誰だ?」
「私? う〜んとね………誰?」
「俺が知りたいよ!」
「冗談よ。イザベルと言う名前があるわ」
「イザベル。君は何者だい?」
俺は、単刀直入にイザベルと名乗る天使へ色々と聞く事にした。ここに居ると言うことは、暴走した少女のコトも知っているだろう。
「そうね。まず、私が何者かだけど、彼女に投与された天使。正確には羽根に宿った残留思念みたいなものね。そして、聞きたい事だと思うけど、この身体の持ち主なら奥にいるわよ。ついてきて」
俺は、イザベルの後を追いかけて奥へと進んで行った。
そして、その先には座り込む幼女がいた。
見た目は、大人をしていたけれども、ベースは10歳前後の少女って書いてあったからアレが本当の姿なのだろう。
俺は、少女の目の前にしゃがんで話掛ける。
「いつまでこんな所に、引き篭もっているんだい?」
「!?」
少女は、びっくりして顔を上げた。その後、警戒した顔付きに変わる。
「あっ、別に敵じゃないぞ。よく見ると良い。研究者じゃないだろ?」
「……じゃあ、何者?」
「ユーリ・シズ。通りすがりの冒険者だ。君に刺されたね。それで、肉体の主である君の名前は?」
「……イザベラ」
「2人共、名前が似てるな。君の方がイザベラで、天使の方がイザベルか」
名前の最後が違うだけだ。間違え無いように気を付けよう。
「彼女に名前を付けたのは、私です。イザベルは、名前を忘れてたみたいだったから」
通りで名前が似ていると思った訳だ。
「それで、ここに何をしにきたの?」
「眠れる美少女をキスで起こす王子様をやりにきた」
「「………」」
あれ、2人の目が冷たいよ。
「……まぁ、正しくは、君の意識を覚醒させにきた」
別に、ここでキスをする必要なんてない。俺が触れさえすれば、俺の影響を受ける様になる。
「確かに、意識がここに居るから、肉体の方は暴走しているもんね。身体に刻まれた憎悪に任せちゃってるから」
イザベルが、暴走の原因を教えてくれた。
「あぁ、なるほどね。なら、一緒に起きようよ」
俺は、過去に何があったかを知ってる。心の底に引き篭もりたい気持ちも分からなくない。
でも、無責任だけど彼女へと手を差し伸べて、一緒に起きる事にした。
「私もそれが良いと思うわ。はやく行きなさい」
イザベルは、イザベラを立たせるとその背中を押した。びっくりして、イザベラは後ろを振り返る。
「ここに居るのは、私だけで十分よ。貴方は、夢があるのでしょ? それを叶えなさい。なんなら、目の前の自称王子様でも良いんじゃないかしら?」
「………うん」
おい、何だ、その間は。
そう思ったけど、とりあえずスルーする事にした。
そして、イザベラは、何かにの覚悟を決めた様で、イザベルに再び背を向けた。
そして、起きる為に俺との手を繫ぐ。
「バイバイ」
そう言って立ち去ろうとするイザベル。
でも、そうはいかない。何故なら、俺がその手を握り立ち止まらせたから。
「え?」
「理由はどうあれ。こんな所に美少女を置いていく主義じゃないので、付き合って貰うか。まぁ、何かあったら責任取るよ」
「えっ? ええっ!?」
という訳で、イザベルの意識も覚醒させる事にした。
俺は、2人の手を握り締めながら起きろと強く念じた。それにつられて、世界が徐々に白け始めた。
「起きたら今後を相談しよう」
その言葉を最後に、再び意識が落ちた。
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「あっ、お帰り」
目を覚ますと、俺はエロースに膝枕をされていた。
横に、視線を向けると黒い天使が正座していた。どうやら、暴走は収まったらしい。その少女と目が合う。
「貴方が変な事をしたから。彼女と意識が混ざったじゃない!」
なんか、怒られた。この口調は、さっきのイザベルという天使か。
なら、イザベラ。少女の方は?
「私としては、貴方が消えなかったから構わない」
あっ、混ざったってそういう事ね。二重人格みたいになった訳か。
「貴方が良いならいいけど……」
天使イザベルは、少女イザベラに受け入れられた様だ。
でも、傍から見たら一人芝居にしか見えないな。
なんか、良く分からない感じにグダグダしたけど、結果良かったのではと思うのだった。
ここの所、投稿が安定しなくて、ごめんなさい。
しかも、細かく詰めれてないし。
でも、何とか毎日投稿するのでよろしくです。




